EP006:最新種出現!悪魔の正体はなんだ!?
大嵐の夜──前線基地との通信が途絶えた。
帝国軍の侵攻を幾度も防いできた反乱軍の強力な前線基地が一夜にして廃墟となったのだ。
秘密港への襲撃から、艦隊がメガロビア軍港に避難していた隙を狙われた。
嵐が去ったのち、異変に気がついた反乱軍が調査したところ、帝国軍側はたった一機、嵐に紛れて森を走破し、前線基地の後方から奇襲したのだと判明した。
だが、とても信じられない戦闘力である。
大型種であれば可能性がある。
前線基地には中型FBだけだ。
だがウルニアの森を大型FBが走破することは不可能だというのが、反乱軍司令部の意見だ
ふいをつかれたとはいえ、前線基地にいた反乱軍が抵抗らしい抵抗もできずに全滅したのだ。
メガデウム、ボアコンダばかりか、帝国から鹵獲したガリオニクスやダークウルフも配備されていた。
基地戦力が手も足もでないとは……。
反乱軍の総力をあげた調査が始まる。
正体を探るため編成された〝ダークムーンカンパニー〟へと新たにトンボ型ワームフライが配備されて偵察に出撃する。
「しかしこんなFBでは戦えんぞ」
「安心しろ。ちゃんと秘策はある」
指差した先には工作FBがいた。
…………ワームフライは、四枚の翅でとても速く飛べるうえに、その体は、他のFBが大型に見えるほど小さい。
パイロットは剥き出しの頭部分そのものであるコクピットに座る。ちょうど頭の部分がパイロットになるのだ。
生身はあまりにも危険なので、パイロットは大抵、アルマジロ型アルマジスーツなどを着込んだうえでワームフライと接続する。
戦闘には使えないが、安くて、どこにでもいるので簡単に調達できるのだ。
手軽にジャングルを飛べる。
戦闘力はとは何も、爪や牙で引き裂くだけではない。時には、無力とも思えるほど弱く見えても、とてつもない力を秘めているものだ。
捜索から五〇時間後。
日も暮れて帰還に入ったときだ。
遠出しすぎ予定より遅れていた。
すっかり夜のおりた森のなかで影が動く。
「木が歩いただと!?」
ダークムーンカンパニーは、壊滅した前線基地一帯をくまなく偵察して遂に、謎の帝国軍新型を発見することに成功する。
やはり帝国軍の新型だ。
四本のスラリとした足、特徴的な長い首。
首からは不気味な回転音が何十も重なる。
帝国軍の新型、キリン型グランジラフだ!
発見されたことに気がついたグランジラフは、木々のなかに潜めていた体を伸ばす。
「お、大きい!」
グランジラフの上空から、ワームフライたちは写真を記録する。
こいつが前線基地を全滅させた犯人か?
何にせよ、グランジラフは大物すぎる。
ダークムーンカンパニーのワームフライ程度でたちうちできる相手ではない!
一目散に逃げる。
だがグランジラフは偵察のワームフライを見逃す気はないらしい。
「全機、木より低く飛べ!」
墜落と変わらない急降下でワームフライたちは落ちる。翅のはばたきで木の葉が舞う。
枝が複雑に絡み合っている森だ。
大型種が駆け抜けるのは無理だ。
そのとき、夜が晴れた。
照明弾があがっていた。
──グランジラフが火を吹く。
グランジラフのキャノンが動き始め、体のあらゆる場所に装備された砲が一斉に撃ち始めた。
対空砲火が迫る!
しかし、対空用の砲弾は、時間で炸裂するものであり、森のなかを高速で抜けていくワームフライには効果がない。もし木より上を飛行していたのであれば、対空砲弾は黒い傘の形をした煙を広げてあらゆる方向に無数の破片を飛ばして切り裂けていただろう。
ダークムーンカンパニーの精鋭の勘が命を拾う。
しかしグランジラフは、逃がすものかといわんばかり木々を薙ぎ倒しながら追ってくるではないか!
振り返れば、地面から煙をあげながら低空飛行するワームフライたちを、巨大な影グランジラフが見下ろしている。
「バカな!」
グランジラフが走るとき、FBの障害になる木々は勝手に倒れていく。
種明かしをすれば、グランジラフの長い首には、幾つもの大型回転鋸が装備されているのだ。これでもって進路上の邪魔な枝を切り落としながら進む。
グランジラフの足はまったく衰えない。
それはワームフライの飛行速度と同じ!
グランジラフの左右に砲台らしきものが見えた。
途端、猛烈なマシンガンの嵐だ。曳光弾の赤い閃光が糸と針のように地面へと刺していく。
ダークムーンカンパニーの何機かは捕まってしまい、蜂の巣のようになって撃墜され炎上した。
グランジラフは地上を走っているだけなのに、空中戦で後ろをとっているように撃ってくる。
ダークムーンカンパニーの隊長は振り返る。
真後ろには、首の回転鋸を唸らせるグランジラフが、次々と木々を〝剪定〟しながら突進を続けている。
「全機バラバラに逃げろ!一機でも基地へ到着するんだ!」
ダークムーンカンパニーの隊長は命令する。
編隊を組んでいたワームフライは、一瞬で解いて、迷宮のような森の隙間を縫うように飛び去っていく。
追手はしょせんグランジラフ一機だけだ。
反乱軍にとってはグランジラフの正体を伝えることこそが最優先だ。
次々と離れていくワームフライのなかで、グランジラフが最後まで追う獲物に選んだ目標は、ダークムーンカンパニーの隊長機だった。
「貧乏くじを引いた!ついてない」
ワームフライは火線をかわしながら飛ぶ。
グランジラフの機能には驚いたが、大型種であることは目星をつけていた。非力なワームフライで戦うには──。
「!」
グランジラフの脚が突如地面に吸いこまれた。
用意されていた秘策……落とし穴だ。
グランジラフは身動きとれずにいる。
ワームフライのパイロットはガッツポーズをして、グランジラフを足止めしている隙に全速力で逃げた。
幸い、グランジラフを振り切ったダークムーンカンパニーの面々は帰投することに成功した。
だが、反乱軍にとっては悪夢だ。
グランジラフの正体は判明した。
しかし反乱軍にはいまだ対抗手段は……。
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