緊張の報告

兄は地方都市での演奏会にも足を運んでくれるみたいだった。


今回は前回、具合が悪くて出席できなかったルースの恋人であるモニカを連れて来るという。


「お兄様、時間はありますの?忙しいのでしょう?」

「ヘンリー様から盛り上げるように言われている。お前、本当に殿下と仲良くなったのだな」

「ええ。リリアン様のおかげだわ。あんなに丸くなって私も正直、ビックリしているの」

「ハハハ。殿下はリリアン様と仲直りしたみたいだし、良かった」


(やはりヘンリー様はリリアン様と結婚して良かったのだわ。父の前で言ったら複雑な顔をされるでしょうけど)


この演奏会が成功したら、レウルスとのことを父と兄に報告しようと思っていた。地方都市の公演を行って、首都に戻って来た時に話したい。


「お兄様、首都に戻って来た時に話したいことがあるわ」

「なにを?」

「えーと....それは帰ってからのお楽しみ、ということにして」

「分かった」


地方都市へと向かうべく馬車に乗ろうとすると、手を支えてくれているレウルスに小声で言われた。


「先走って言うのはナシだ。まだ、公演は終わっていないのだから」

「分かってるわ」


レウルスにも覚悟というものが必要なのだろう。


………地方都市での演奏会も拍手喝采で反応が良かった。ルイーズが元ヘンリーの婚約者だった、というのは良くも悪くも人の関心を集めていた。


今では、そのヘンリーの熱心な支援を受けているというのだから、勝手な想像をする者もどうやらいるらしい。


首都に戻る馬車の中、例の話を父と兄にするのだと思うと、だんだんとルイーズは緊張してきていた。見ると、レウルスの表情も硬い。ギャエルだけは、気持ち良さそうにグッスリと寝ていた。


屋敷に久しぶりに戻って来ると、なんと、アードルフとレイニーがアンサンブルをしていた。


「あら、似たような2人がアンサンブルとはどういうこと?」

「お帰り。似ているとは?」


2人はお互いを見て、首を傾げている。


「姿が似ているというのではなくて……。あなたたちは華やかで面倒見が良いところが似ているわ」

「へえ。僕たちもなんだか気が合って、こうしてアンサンブルをしていたのさ」


ルイーズたちが地方都市の演奏会に行っている間、アードルフはフルンゼに出入りしていたみたいだ。


「僕、メッツォで活動しようかなあ。トリアも素晴らしいけれど、ここにはここの良さがある。憧れのボロゴ楽団もあるし」

「アードルフがメッツォに?」

「なら、オレとで組もうよ。美男同士のアンサンブルなんて人気が出そうじゃない?」


レイニーの言葉にアードルフがうなずく。


「それは面白い。前向きに考えるよ」


思わぬ方に話がいったところで、皆で食事をすることになった。父も兄もいて和やかな食事だった。


食事が済んだ後、レウルスと2人でついに自分たちのことを話すために、ドキドキしながら父の部屋を訪ねた。まずは父から話すことに決めている。


父は、ルイーズとレウルスが一緒に訪れたので驚いていた。


「なんだろうか?」

「お父様、あの……」

「ルイーズ、オレから…」


レウルスの言葉にルイーズはうなずいた。


「私たちはトリアで音楽を学ぶうちに、お互いに惹かれ合うようになりました。彼女とどうか、お付き合いさせて頂けないでしょうか」

「.........惹かれ合ったと言ったが、君がルイーズに惹かれたのは本当にトリアに行ってからか?フルンゼにいた頃からではないのか?」


予期しないことを言われた。


「お父様、どうしてそんなことを言うの?」

「ルイーズのような絶世の美女で優しい子が現れれば、誰もが惚れるに決まっているからだ」


親バカが発動していた。


「.........あの、正直に申し上げますが、私は当時、そこまでは確信しておりませんでした。立場も違いましたから.......。今も、立場は違いますが......」


話の方向が怪しい方向へといく。修正しようと口を開いた。


「トリアに行って、お互いに努力するうちに私たちは、想い合うようになったのよ。彼は、いろいろと気にしていたけれど、音楽を頑張ることで......私の隣に立とうとしてくれたの」

「ふむ。ルイーズとレウルス君は確かに立場が違うな」


父がハッキリと言った。レウルスが下を向く。


「だが、人の気持ちは自由ではある。それに、仲間として過ごした時間も含めると、それなりに長い時間で育まれたものだろう。レウルス君も名の知れたチェリストとなったことだし、付き合うことは許そう」

「本当に!?」


ルイーズは嬉しくて思わず声を上げた。


「だが、結婚はまた別の問題だ。それに、付き合うにしてもしっかりと守ってもらうことはあるぞ」

「はい」


まずは交際を許されたことでホッとした。


レウルスは頭を下げて感謝の意を表している。ルイーズも慌てて頭を下げた。


「お父様、ありがとう!私、とても嬉しいわ!」

「それほど喜ぶとは........。付き合うならば、長く付き合え。すぐに別れたら、またルイーズが悪く言われる」

「私は、ルイーズ嬢と別れることなど少しも考えてはおりません」


レウルスがすかさず返事をした。


「レウルス.......」


思わずジーンとする。


「は、いい度胸だ。守るべきことだが.......」


父は、すぐさま書面にしようと書き始めた。なんだかとても細かくギッシリ書き込んでいる。


(お父様、やりすぎ!.....だけど、まあ理解はできる内容ね)


書面には、“節度ある付き合い”とか、“過剰なスキンシップ禁止”だとか書かれていた。


..........緊張の報告が終わり部屋を出ると、レウルスと顔を見合わせて微笑んだのだった。

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