お守りと手紙の贈り物
いよいよ明日、ディートマルに向かって旅立つことになる。
ディートマルへは2日ほど列車に揺られて着く予定である。ディートマルは国のほとんどが山地であって、夏の間は避暑地として人気がある国だ。
山々が青く見えて自然がとても美しいから、ディートマルを訪れる人は誰もがその風景に感動すると言われている。
山間部では森を開拓して牛やヤギを飼っていて、チーズつくりも盛んなのだそうだ。ディートマル産のチーズ料理は、トリアにも結構あってフレッシュタイプのチーズを使った料理パスタやサラダを出す店は評判だ。
レウルスも明日から音楽演奏に出掛けると聞いている。
少しだけ音楽院に練習に行こうか迷っていたのだが、音楽院との往復だけでも時間はかかる。明日の早朝出発に備えて、あまり出掛けない方が良いのは分かっていた。だから、余計に落ち着かない。
アードルフは昨日、会ったばかりなのもあって彼のことはあまり気にしていなかった。彼からもらった指輪を持って行くかを迷っている。
指輪をしていて欲しいと言われたが、演奏する時に石のついた指輪は邪魔になる。
(着けたり外したりしているうちに無くしてしまいそうだわ……)
かと言ってアードルフが訪ねて来た時に指輪をしていなかったら、彼が不機嫌になるかもしれない。
ルイーズは指輪をアクセサリーケースにしまうと、旅行カバンの中に入れた。
一息ついているとジーナが声をかけてきた。
「お嬢様、ディートマルに行くのが楽しみですね!」
ジーナがウキウキして言う。彼女もデニスと共について来る予定になっている。デニスは今回の帯同中にひそかに想いを寄せるジーナとの仲を深めたいと思っているようだった。
昨晩、たまたまデニスと話したら、やたらと美味しいチーズの名店を気にしているので、なんだろうと思ってよくよく聞いたら、ジーナがチーズ好きだと知って連れて行きたいと考えていたようだ。
(好きな人に一生懸命になっている姿って微笑ましいわ)
好きな相手に特定の相手がいなくて平和な恋ならば、ぜひとも応援したいと思う。
「お嬢様!こちらが届きましたよ!」
デニスがやって来たと思ったら、手紙を渡された。
誰からだろうと思って封の裏を見ると、レウルスの名前が書いてあった。
「レウルス様のところに顔を出したら渡されたんですよ」
「デニス、あなた彼のところに顔を出すほど仲良くなったの?」
「はい。例の件でレウルス様とはたまに酒を飲んだりしますよ。あまり機会は多くはありませんがね」
「驚いたわ!」
レウルスとデニスは、ディーターの兄が勤める店で一緒に偵察してから仲良くしているみたいだった。レウルスからはなにも聞いていない。
「どうして言わなかったの?」
「えーと、レウルス様がすでに伝えたかと思いまして......。まあ、主の関わりある方と勝手に友好を深めるのを叱られたらマズイと思ったのが本当なんですけどね」
「.........私は構わないけれど」
「オレはああいうタイプがいい男だと思いますね」
「それはどういう.......」
「いえ、オレの独り言です!」
よく分からないが、デニスは彼を気に入っているらしい。
デニスたちを下がらせると手紙の封を開いた。短いメッセージと共に小さな袋が入っていた。
《明日からだな。バルント国の巡業の時にそちらに顔を出すつもりだ。共に頑張ろう》
バルント国はディートマルに隣接した国だ。だからすぐに会いに来られる距離である。
小さな袋にはピカピカに磨かれたコインが入っていた。トリアでは成功や無事を願う時にコインを入れてお守り替わりにする習慣がある。
「レウルス……。嬉しいわ。私もお守りを渡したい」
ルイーズは自分の持っているハンカチの中で最も美しい布地の物を選ぶと、コインを丁寧に包んでリボンで留めた。急いでデニスを呼ぶ。
「はいはい、お使いですかね?」
デニスはルイーズが考えていることが分かっていたようでニヤリとした。
「変な笑顔をしないでちょうだい。お守りを頂いたからお返しをするだけよ」
「了解であります!」
デニスは元気よく言うと、すぐに部屋を出て行った。
「急ぎ過ぎてメッセージを付けるのを忘れたわ」
でも、手紙を書いたりしたら、きっと溢れる思いを書きたくなってしまったかもしれない。
(そんなことをしたらマズイ....)
アードルフにもらった高価な指輪よりも、素朴なお守りがとても嬉しいと思ってしまう自分がいた。
(いけないわよね.......こんな気持ちを抱いているのは)
その後は、屋敷で練習をして早めに休んだ。
………翌日、駅まで行く馬車に大きな荷物をいくつも載せて出発したのだった。
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