ガラコンサートの夜、抱きしめられて
今夜、ガラコンサートが行われることになっていた。
ガラコンサートとは、コンクールで入賞した者のために設けられた記念コンサートで、お祭りのようなものだ。演奏者や見学人も含めて、皆、ドレスアップして参加するのが基本となっている。
コンサート会場は、煌びやかな衣装に身を包んだ人で賑わっていた。ルイーズもドレスを着てアードルフと共にホールに入ってきたところだった。
「皆、華やかね」
「まあ気楽に楽しめるコンサートだしね」
「アードルフ兄!ルイーズ!」
フローレンスとコンラートだった。彼らもコンテストに参加していたが、惜しくも入賞を逃していた。
「アードルフ兄が入賞しなかったなんてビックリ!」
「おい、それを言うなよ。一応、気にしてるんだ」
「ルイーズに夢中だったからでしょう?」
「フローレンス、そういうことを言うのはナシだよ」
コンラートがたしなめる。
「腕を少し痛めてしまったんだよ。だから、ルイーズのせいじゃないよ」
審査の過程でアードルフは腕を痛めてしまい、思ったような演奏ができなかったのだった。バイオリン部門で参加している者はルイーズを含めてアードルフの負傷にかなり驚いた。
「ルイーズは特別賞でしょ。おめでとう!」
「ありがとう」
金賞や銀賞はとれなかったが、初めてバイオリン演奏を世間的に認められた瞬間だった。
「精一杯演奏したから、とても嬉しいわ」
「すごいことだよ」
アードルフがルイーズの頭を撫でた。
「ありがとう、アードルフ。あなたのおかげだわ」
嬉しそうな顔をしたアードルフと距離が近くなる。だが、フローレンスの興奮したような声で遮られた。
「それにしても、レウルスすごいね!」
「本当だよ。楽器が違うとはいえ、嫉妬する」
コンラートも感心していた。
一向は会場の内部へと進んで行く。すぐに中央の壁が目に入った。
ホールの中央の壁には、各部門の金賞や銀賞を受賞した者の名前が大きく張り出されている。チェロの金賞にはレウルスの名前が記されていた。
(レウルス………やったわね!)
複雑な思いは抱いていたが、音楽での評価はまた別である。レウルスにはぜひお祝いの言葉を言いたいと思っていた。
(やはりレウルスはすごいわ。私が尊敬するチェリストなだけある)
彼の素質や魅力に早々に気付いていたのは自分だ、という思いがルイーズにはあった。だから、レウルスが世間で認められて素直に嬉しい。
コンクールという場は、誰のためでもなく自分のための演奏だからとても緊張した。そんな中で、レウルスは自分の力で頂点をとったのだ。スゴイことだった。
自分も、成功したい、評価されたい、と願う演奏者たちが大勢いる中で、特別賞を受賞できたのは奇跡だと思っていた。
恋人のアードルフが腕の負傷をしてしまい、彼の分も頑張らねばと思って戦った。だから、今回の結果は、決して一人で得られた特別賞ではないと思っている。
結果を父と兄に伝えたところ、とても喜ばれた。父は面倒を見ているフルンゼ楽団にもすぐに結果を伝えたようで、レウルスの快進撃とルイーズの朗報に皆が沸いているという。
(これで私も故郷に錦を飾れるのかしら..........まだ帰るつもりはないけれど)
............特別賞を受賞していたルイーズは本日、演奏を行うことになっていた。アードルフたちと別れると控室の方へと移動する。
控室近くで取材を受けているレウルスの姿が目に入った。レウルスの隣では後援者であるイザベラ夫人が得意気な様子で話していた。
控室に入ると、バイオリンをケースから出して準備を始める。演奏する曲はすでに頭に入っていたが緊張する。
バイオリンを奏でると、緊張しているせいか高い音が出た。
(音に集中しなくちゃ)
すうっと息を吸うと、再びバイオリンを構える。
「ルイーズ、楽しめばいいんだ」
レウルスだった。
「レウルス......」
いきなり声をかけられて、とっさになんと言えばよいのか分からなくなった。
「..........あ、えーと、金賞おめでとう」
「ありがとう。ガラコンサートが終わったら、少し話せるか?」
ルイーズはコクリとうなずくので精一杯だった。まわりにはほかの演奏者もいたので、その場はその会話のみで終わった。
(楽しめばいい...........か。そうね、楽しみましょう)
ルイーズは気持ちを楽にして演奏した。あれこれ考えて、音と対話できないのは良くない。
...........自分の出番となり演奏が終わると、多くの人から拍手をもらった。ルイーズは感動で泣きそうになった。
演奏後は、約束通りレウルスを待った。アードルフが自分を待っているだろうと気になったが、レウルスにきちんとしたお祝いの言葉を伝えたいし、先程のアドバイスのお礼も言いたかった。
(まだかしら........。やはり、本日は難しいのではないかしら)
今日は、レウルスが脚光を浴びる日だ。彼を待ち始めて40分ほど経ったところで、アードルフが気になって片付けを始めた。
(アードルフがきっと心配している)
廊下を急ぎ足で歩いていると、背後から腕を掴まれた。
「すまない、待たせた」
レウルスは荒い息だった。ルイーズが帰るのに気付いて、走って来たようだ。彼は、ルイーズを資材置き場の方へと引っ張って行く。
「どこに連れて行く気?」
「人がいない静かなところまで」
「え、なぜ.........?」
人気のない所まで連れて来られると、レウルスが立ち止まってこちらに向き直った。
「こんな所まで来る必要があったの?」
レウルスは質問に答えず、いきなりルイーズを抱きしめたのだった。
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