月影に捧ぐ最後の告白
ねこピー
第1話
1.プロローグ――銀の弾丸と赤い月
「……また、吸血鬼が出たらしい」
そう聞いても、もう驚かなくなった。
この世界では、バンパイア――吸血鬼が実在する。しかも、かなりの日常に溶け込んで。
俺、神楽レイジは政府直属の「対吸血鬼特務機関」のバンパイアハンター。銀製の銃と聖水を武器に、闇に潜む者たちを狩ることを仕事としてきた。
けれど――今日の任務には、いつもと違う予感があった。
それは、懐かしい“あの名前”を聞いたから。
「標的の名は、イリス・アルヴェーヌ。吸血鬼でありながら、人間社会に潜伏し、複数の殺人事件に関与した疑いがある」
耳にした瞬間、鼓動が跳ね上がった。
イリス――俺が、かつて恋をした少女の名前だ。
⸻
2.邂逅――血と花の香り
任務対象のイリスが潜んでいるのは、都内の旧洋館。月夜の下、朽ちたバラの香りが漂っていた。
「……来たのね、レイジ」
その声は、昔と変わらず透き通っていた。
そこに立っていたのは、変わらぬ美しさを持つ少女。真紅のドレスに身を包み、銀髪を揺らし、琥珀色の瞳で俺を見つめていた。
「イリス……」
「ふふ、久しぶり。殺しに来たの?」
「命令だからな。でも……お前が人を殺したってのは、本当か?」
「……いいえ」
その言葉を信じたいと思った。
けれど、証拠は残っている。現場には“吸血”の痕跡と彼女の遺留物。
「私は――“それ”を止めに来たの。別のバンパイアが、人間に紛れて悪事を働いてるの。だから、先に見つけて殺しただけ」
イリスは悲しそうに笑った。
「でも、私が吸血鬼であることには変わりない。レイジ、あなたは私を殺さなきゃいけないのよね?」
「……違う。お前が無実なら、俺は、俺の命令に逆らう」
⸻
3.過去――誓いと罪
二人の過去は、数年前に遡る。
俺がまだ駆け出しのハンターだった頃、負傷して森に倒れていたときに助けてくれたのがイリスだった。
彼女は人間のふりをしていたが、そのやさしさと美しさに、俺は心を奪われていった。
「……ねぇ、レイジ。もし、バンパイアのいない世界に生まれ変わったら、私、普通の女の子になれるかな」
そのとき、俺は答えられなかった。
それが、ずっと心に残っていた。
⸻
4.真実――犯人は誰だ
旧洋館の地下で、もう一人の吸血鬼――黒衣の男が現れた。
「ちっ、まさかここまで辿り着くとはな、イリス。それに、噂のハンター君も」
「やっぱり……お前が真犯人か、アルゴス!」
イリスが憎悪のこもった目で睨みつける。
アルゴスは彼女と同じ“旧王族派”の吸血鬼。だが快楽殺人を繰り返す異常者だった。
激しい戦いの中、俺とイリスは共闘し、なんとかアルゴスを倒す。
だがその代償は大きかった。
アルゴスの最後の一撃がイリスの胸を貫いていた――。
⸻
5.エピローグ――月影に君の名を
イリスは、月明かりの中で静かに微笑んでいた。
「……やっと……君と、こうして戦えてよかった……」
「イリス……やめろ、まだ助かる……!」
「レイジ。お願い。聞いて……」
彼女の最後の言葉は、あの日の続きだった。
「バンパイアのいない平和な世界でもう一度生まれ変われたら……今度は、必ず君に好きだと伝える……」
その言葉と共に、彼女は光の粒となって消えていった。
俺の腕の中で。
⸻
6.ラスト――彼岸花の咲く丘で
数年後、俺はハンターを辞め、今は平凡な高校教師として暮らしている。
授業中、ふと窓の外を見ると――
校庭の桜の下に、見覚えのある横顔があった。
銀髪に、琥珀色の瞳の少女。
「あ……」
彼女と目が合った瞬間、心が跳ねた。
「……転校生を紹介する。イリス・アルヴェーヌさんだ」
あの日の言葉は、約束だったのかもしれない。
今度こそ、俺から言う番だ。
「好きだ」
⸻
――Fin
月影に捧ぐ最後の告白 ねこピー @neco-pi
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