第39話 影に潜む敵
吹き荒れる雪嵐の中、黒いローブをまとい、深くフードを被った男が静かに立っていた。
その影は、まるでこの雪山の一部のように溶け込み、得体の知れない威圧感を放っている。
――ノクス団幹部、小長谷大作。
だが、彼の視線は佑真たちの顔を探ることなく、ただ戦意だけを測るように鋭く光っていた。
フードの影に隠れたその目は、佑真と綾杜が学園の生徒であることを認識していないようだ。
「……来い。ここからは容赦しない」
低く響く声と同時に、彼は二つのモンスターボールを放った。
現れたのはカポエラーとバンギラス――どちらも一流の実力を持つ強者だ。
雪原に重い足音が響く。
「グレイシア、構えろ!」
「グレイ!」
青白い息を吐き、グレイシアが低く身を伏せる。
隣では綾杜が指先を上げ、ニンフィアがリボンをたなびかせながら前に出た。
「ニンフィア、『マジカルシャイン』!」
「グレイシア、『れいとうビーム』!」
二つの光が同時に走る。しかし――
「バンギラス、『ストーンエッジ』」
「カポエラー、『マッハパンチ』」
大作の一声で、鋭い岩の刃が地面を割って突き上がり、ニンフィアの攻撃を弾く。
カポエラーは影のような速さで前転しながら間合いを詰め、グレイシアの放った氷撃を紙一重で回避、そのまま拳を叩き込んだ。
「回避しろ!」
「グレイ!」
間一髪で横に飛び、雪を蹴って距離を取るグレイシア。
だが、バンギラスが巨腕を振り下ろし、地響きと共に雪煙が舞い上がった。視界が真っ白に閉ざされる。
「この隙だ、ヨノワール」
三つ目の影が雪煙から現れる。長い腕が伸び、佑真の前に立ちはだかる。
「くっ……グレイシア、『でんこうせっか』!」
氷上を滑るように走り抜け、グレイシアがヨノワールをかすめたが、影の防壁が全てを受け止めた。
「……遅い」
振り返った瞬間、カポエラーの回し蹴りがグレイシアの胴を直撃。
「グレイ!」と短く鳴き、雪に転がるグレイシアを、佑真は必死に抱きかかえた。
「まだやれる、ニンフィア!」
綾杜が声を張るが、バンギラスの尾が横薙ぎに振られ、ニンフィアが雪原を滑っていく。
「お前たち、悪くはない」
大作は腕を組んだまま動かずにいた。
「だが、連携も覚悟も中途半端だ」
彼はモンスターボールをもう二つ、手の中で転がした。
「俺が本気を出せば……一瞬で終わる」
そのボールに刻まれた模様を見た瞬間、佑真の背筋が凍る。
――そこには、ウーラオスの一撃と連撃、二つの力が眠っていた。
大作は投げることなく、無言で背を向けた。
雪がその背中を包み込み、やがて白の中に消えていく。
残されたのは、悔しさと敗北の重みだけだった。
白銀のセレナーデ @Toliy
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