世界にダンジョンが現れたのは良いけど、私の職業が『巫女』なのはどうにかならないの!? 二礼二拍手一礼なら分かるけど、それ以外は知らないんだけど!

松井 ヨミ

第一章・世界の変革

プロローグ・世界の崩壊


 私――天道深花てんどうみかは、この世界が好きで嫌いだ。


 別に地球の構造が変とか、そういう話じゃない。

 私を含め、人という存在に困っている。

 

 他人が好きな人。 

 他人に興味がない人。

 他人に厳しく自分にも厳しい人。


 他人に尽くしすぎて、自分を見失う人。

 他人に興味がないからと、他人を傷つける人。

 他人から愛された事がなく、愛し方を知らない人。

 他人に優しさや正しさを振るい、支配しようとする人。 

 他人に弱さを見せられず強く当たり、自分の未熟さを隠す人。


 自分一人で生きている人間は、今の世界には殆ど居ない。

 それなのに人は、自分勝手過ぎる。


「お箸、いりますか?」


 コンビニの店員に聞かれ、私は直ぐに返事を返した。


「いえ、大丈夫です」


 店員が無言で温めた弁当と飲み物を袋に入れてから、私は口を開いた。


「ありがとうございます」


 袋を受け取ってから出口に向かう。

 コンビニの扉が開き、外に出た瞬間に身体にぶわぁっと熱気が纏わりつく。髪を纏めて縛っているから、セミロングで下ろしている時よりは首裏に風が当たって僅かに涼しい気もしなくもない。

 ……流石に、もう夏だ。


 ちなみに言っておこう。

 長すぎないポニーテールは最強だ。朝からヘアアイロンを当てる事もなく、結ぶだけで大抵は誤魔化す事が出来る。

 まぁ誤魔化せると言っても、ヘアオイルを使ったりと、何も考えていなかった幼少期と比べたら時間はかかるけど。

 

 そんな事を考え、信号を渡った先にある高校に目を向ける。

 私が通っている高校。


 そこに向かって歩こうにも、信号は青から赤に変わろうと点滅し始めたので足を止めて、取り出したアイスを食べようとする。

 それなのに、立ち止まっていた私の横を人影が過ぎていく。


「やば――急げ!」

「やべぇえ」

「ヤバイ!」

「ちょっ、置いて行くなし」


 男女四人が楽しそうに信号を渡っていく。

 けれど、距離のある信号の真ん中を四人が走っている時に赤に変わっていた。


「少し横に行けば、歩道橋もあるのに……」

 

 右に目を向けると、錆びれた歩道橋が寂しそうに残っている。そんな状況でブレーキを踏む音が聴こえ視線を戻すと、発進しようとした車の前を生徒が動いていた。


 そのまま学生たちが謝る事もなく、学校へと向かって行く。

 次第に四人の声が遠のき、残るのは大通りを流れる車の音だけだ。


 同じ制服を着ているのが、嫌になってくる。

 顔を知らない。

 二百十四人居る同級生の顔は覚えてる一年生の私が知らないって事は、多分先輩なんだと思う。


 学校に入ってまだ、三か月。

 だけど、クラスメイト全員に一回は話かけたし、他クラスの子の顔も覚えた。


 突然、訳の分からない人に話かけらても、同級生なのかは知っておきたい。

 そうした方が楽だし、少しは人付き合いが上手くなると私は信じてる。


 ぼーっとして、待つ間はスマホを触らず、ただ待つ。そうしていれば、車の喧騒に混ざっていたセミの鳴き声も聞こえて来るのだから。


 私たちは、目からの情報を受け入れすぎだ。

 だから、他の情報を流してしまう。


 そんな事ばかりを考えている内に信号が変わり、私は学校に向かった。


 ――教室に向かうでもなく、私は屋上に向かう。


 屋上に入れないとかは特になかった。

 鍵が開いていて高いフェンスの上には乗り越え防止のトゲトゲすら設けられているけど、街並みを見渡すときには邪魔にならない。

 良くこんな面倒で、費用をかけてまで開放してくれていると思う。


 けれど、――そんな屋上に人気はない。

 理由は簡単だ。


 ここも、暑いからだ。

 私は後ろの入口のあるコンクリートに沿って進み、僅かに残された日陰に入る。


 ――広い空と、遠くに見える東京の街。

 そして流れる風を身に受けて、ようやく一息ついていた。


「今日も、風が気持ちいな」


 ゆっくりと視線を上げると広い空と一緒に、雨が降るのか積乱雲が目に入る。

 とても大きく、雄大に感じてしまう。

 

 そんな景色の空が――雲が――揺れた。


 目の錯覚かと思ったし、陽炎かとも思ったけど違う。


 私が見ている先の空は、確かに揺れ動き歪んでいた。


「えっ――何が起こって……」


 どこからか、騒いでいる人の声が聞こえる。

 きっと同じ様に、空を見ているのだろう。


 私が、おかしい訳じゃなかった。


 ――ザザッとした音が聞こえ、耳を疑った。

 どこから聞こえたのか、分からなかったからだ。

 イヤホンをしている時より、もっと近くからした気がした。


『これより、世界の同期を開始します』

 

 ――次の瞬間。

 片耳に手を当てたものの私は、確かに音を聞いた。


 聞こえていたセミの鳴き声も人のざわめきも、全て止んだ。

 真昼なのに、真夜中に居る気分になる。


 瞬きした瞬間――止まらない空に、ひびが入った。


 ガラスが壊れたみたいにパキッっと罅が広がり、黒と金の光りが漏れ出している。そして、罅の中心部分が左右に押し退けられ、巨大な目の様なものが奥から現れた。


 東京含め、関東全域を見渡せるであろうその巨大な瞳に見下ろされている。その目がじっと私の方を見据え、心の奥底から凍るような恐怖が私に走った。

 何秒、何十秒見られていたのかも分からない。

 私はただ、その目から逃れられるまで息を止めてしまっていた。


 そして、空が崩れ落ちる様に砕け、霧の様に霧散して目が消えていく。


 ――こうして私が好きで嫌いな世界は、崩壊を始めてしまった。



 ****



 その日――世界にダンジョンが現れた。

 ダンジョンで未知の生物が発見され――魔物と総称された。

 ――人を殺す重火器も魔物には意味がなく、政府は対応に追われた。しかし、ダンジョンに入った者が職業という力を得られる事が判明する。


 そして数日が経った頃。

 一つのダンジョンから魔物が地上に溢れてしまう。

 世界は混乱に陥り、ダンジョンを抑えきれない国々から魔物は放たれ、ダンジョン外であっても魔物が居る世界になってしまった。


 日本もまた、ダンジョンの管理を行おうと人材を集め始める。

 それが後に――冒険者と呼ばれる人々であった。

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