第十一夜 九官鳥は見ていた




九官鳥。


言葉を教えれば、それを覚え、話す九官鳥。


毎朝、「おはよう」や、仕事から帰ってきた時に「おかえり」などと言われれば、疲れも吹っ飛びますし、癒されますよね。


お喋りな鳥は、他にもインコ、オウムなどいますが、今回は、九官鳥のお話です。


では、開幕...いやいや、開店。




その店の扉を開けた瞬間、異世界へと迷い込む。


その店の名を『THRILLER BAR JOKER』という。




店の扉を開け、一人の男がやって来た。


男は、青ざめた顔をして、キョロキョロと挙動不審な動きを見せていた。


男が扉を開け、店内に入るのと同時に、一羽の九官鳥が男の横をスレスレに飛んできた。


「うわぁ!」


男は、声を上げ、九官鳥を追い払う。


九官鳥は、カウンターの上にあるライトの傘にとまり、男をじっと見つめる。


その様子をカウンターの中から見ていたJOKERは、クスッと笑うと、軽く会釈をする。


「いらっしゃいませ。」


男は、九官鳥を指差し、怒鳴るように言う。


「その九官鳥を追い出せ!」


その言葉に、JOKERは、眉を寄せる。


「何故ですか?可愛いではありませんか。」


JOKERが言うと、九官鳥は、JOKERの方を向いて、口を開いた。


「こんばんは。こんばんは。」


「おや?とても、お利口さんな九官鳥ですね。」


男は、眉を顰め九官鳥を見つめる。


JOKERは、酒の入ったグラスをカウンターに置くと、男に言う。


「まぁ、これでも飲んで、落ち着きませんか?」


JOKERに言われ、男は、軽く息をつくと、カウンターの席に腰を下ろす。


「実は、この九官鳥...二日前から、この店に来てまして...。よく、お喋りをして話を聞かせてくれるんですよ。」


その言葉に、一瞬、ギクッとなったが、男は、グラスを手に取り、一気に飲み干した。


それを見て、JOKERは、ニヤリと笑うと、男の方に、ニュッと顔を近付けた。


「御客様。あなた......奥様を殺しましたね?」


「な、何を......!?」


男がとぼけようとした時、九官鳥が、こんな事を言った。


「あなた、殺さないで。私の事を...愛してないの?あなた、殺さないで。」


「ねっ?目撃者がいるのですよ。」


ニヤリと笑うJOKERに、男は、瞳を震わせる。


「あいつが悪いんだ!俺を裏切って、浮気なんかして...!殺すつもりはなかったんだ!」


男が言うと、九官鳥は、男をきつく見つめる。


「違う。裏切ったのは、あなた。浮気をしているのがバレて、邪魔になった私を殺したのよ。私は、あなたを許そうと思っていた。あなたを愛していたから...。なのに、あなたは......!」


その声は、九官鳥の声ではなかった。


女の声だ。


その声を聞き、男は、全身を震わせる。


「玲子...なのか?!...すまない!玲子!許してくれ!!」


泣き叫ぶ男に、九官鳥は言う。


「許さない許さない許さない。」


そう言いながら、九官鳥は、男が方へ飛んで行き、くちばしで、男の目を突き刺した。


「ぎゃあぁぁあ!!」


悲鳴を上げながら、男は、目を押さえ、店を飛び出す。


その途端、車のブレーキ音が激しく鳴り響き、ドンッとぶつかる音が聞こえてきた。


カウンターの中で、それを聞いたJOKERは、口元に笑みを浮かべ、軽く息をついた。


「死にました...ね。」


九官鳥は、再び、カウンターのライトの傘の上にとまっている。


九官鳥を見上げたJOKERは、フッと笑みを浮かべる。


「さて......。あなたは、どうしますか?このまま、ここに居ますか?どうせ、行くあてもないのでしょ?」


JOKERの話を首を傾げながら、九官鳥は、聞いていた。


その九官鳥に、JOKERは、クスッと笑う。


「私の秘密は、喋らないで下さいね。」




THRILLER BAR JOKERの夜は、まだまだ続く。






ー第十一夜 九官鳥は見ていた 【完】ー

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