第十夜 掛け軸に住む女
掛け軸。
世の中には、色んな掛け軸がありますね。
一昔前に少し騒がれた本物の血で描かれた生首の掛け軸や幽霊画など。
何らかの事情のある曰く付きの掛け軸...なんてあるみたいですよ。
どんな作品にも、作者の念というものがこもっているものです。
あなたの家に、何気なく飾られた掛け軸...大丈夫ですか?
さて、今宵は、そんな掛け軸に関するお話でございます。
では、開幕...いえ、開店。
酒を飲みながら、不思議な話、怪談話、人怖を話すBARがある。
その名を『THRILLER BAR JOKER』という。
THRILLER BAR JOKERの店の前に建っている建物は、骨董品やアンティークな物を売ったり買ったり出来る『古狸』という店名の店である。
古狸の店主は、店の名前の通り、何処か怪しい感じのする60半ばの親父だ。
名前を喜多川という。
喜多川が片手に何やら巻物のような物を持ち、THRILLER BAR JOKERの店の扉を開けた。
カウンターの中にいたJOKERは、喜多川の姿に、フッと笑みを浮かべる。
「おや?喜多川様。今宵は、どんな御用で?」
喜多川は、酒を飲まない男だ。
その男がこの店を訪ねる時は、何か手に負えない物を押し付ける為である。
へっへっへと不気味な声で笑いながら、喜多川は、カウンターへと近付く。
「実はな、JOKER。これをお前さんにプレゼントしようと思ってな。」
そう言うと、喜多川は、手に持っていた物をカウンターに置き、静かに開いた。
それは、一枚の掛け軸であった。
そこには、色とりどりの花に囲まれ、白地に蝶の柄の入った着物姿の若くて美しい女が描かれていた。
それを見たJOKERは、クスッと笑う。
「いけません、喜多川様。この女は、生きていますね?」
JOKERの言葉に、喜多川は、少し驚いた表情をする。
「分かるかね?」
「分かりますよ。かなり古い物のようですが…この女は、何らかの事情で、この絵に閉じ込められています。まぁ…長い年月が経ち、その力も薄らいではいますが…。」
「ほぉー…そこまで、分かるとは。やはり、これは、君が持つべきだな。」
満面の笑みを浮かべ、そう言った喜多川に、JOKERは、軽く息をつく。
「喜多川様の持ってこられた物ですから、何か問題でもあるのでしょうが…。」
「うーん…。泣くんだよ。」
「泣く?」
眉を寄せたJOKERに、喜多川は、困った顔をする。
「この女が泣くんだよ。『寂しい…寂しい…』とな。こんなに美しい場所にいるのに、泣くんだよな…。」
喜多川の言葉に、JOKERは、じっと、掛け軸の女を見つめる。
そして、フッと、口元に笑みを浮かべた。
「男が欲しいのですよ。」
「男?」
「この女は、若い男を誑かす鬼女です。その為に、ここに閉じ込められたのです。ほら、ここに、女の名前が書いてあります。」
JOKERが指を差した掛け軸の下の隅の部分に、『妖鬼姫 ここに眠る』と書いてあった。
「元は、普通の娘だったのが、理由は不明ですが鬼になったのでしょう。鬼になった娘は、若い男を誑かし、食い殺した…そんな所でしょうね。」
「なるほどなるほど…。じゃ、そういう事で、これは置いとくよ。」
「えっ!?ちょ…ちょっと、喜多川様!」
JOKERが止めたが喜多川は、そそくさと店を出て行った。
「…ったく。厄介な物をうちに持ってくるのは、やめて欲しいですね。……まっ、しょうがないですね。」
掛け軸を手に取り、JOKERは、それを店の入口の壁に掛けた。
「ここに居ても構いませんが……もし、悪さをする事があれば、消滅させますよ。いいですね?」
掛け軸に向かって、JOKERは、そう言った。
JOKERの言葉に、掛け軸の中の女が小さく頷いたように見えた。
「よろしい。あなたは、美しいのですから、もう二度と、鬼になってはいけませんよ。」
優しく掛け軸を撫でながら、JOKERは微笑む。
THRILLER BAR JOKERの夜は、まだまだ続く。
ー第十夜 掛け軸に住む女 【完】ー
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