第三夜 虚言癖のある女
人間、誰しも嘘をつく。
人にバカにされたくないから、自分を強く見せたいから、理由は、幾らでもあるでしょう。
嘘をついてる間は、それは気分が良いでしょう。
その嘘を信じて、「凄いね」「羨ましい」と言う人がいる間は…。
しかし、どんな嘘でも、何時かはバレるものです。
嘘に嘘が重なり、大きくなりだし、自分では、どうする事も出来なくなった時、人は、いったい、どうなるのでしょうね?
さて、今宵は、そんな嘘に関するお話です。
では、開幕…いえ、開店。
酒を飲みながら、不思議な話、怪談話、人怖を話すBARがある。
その名を『THRILLER BAR JOKER』という。
THRILLER BAR JOKERのカウンターの席で、一人の女が酒を飲んでいる。
開店してから、ずっと酒を飲み続けて、一時間が過ぎた頃、女は、店内をゆっくりと見渡し、口を開いた。
「この店には、霊がいる。」
その言葉に、カウンターの中で汚れたグラスを洗っていたJOKERは、手を止め、フッと口元に笑みを浮かべた。
「霊感がお有りなのですか?」
JOKERの言葉に、女は、酒の入ったグラスを片手にバカにしたように笑った。
「お有りどころじゃないの。私は、子供の頃に神様に力を授かって、凄い霊力を身につけたのだから。」
「神様…ですか?」
クスッと笑ったJOKERを女は、キッと睨んだ。
「何よ?信じていないの?」
「あなたに霊能力があるのかどうかは知りませんが…生憎、私は、神様を信じておりません。」
そこまで言うと、JOKERは、再び、グラスを洗い出す。
そんなJOKERに、女は言う。
「この店には、霊がいる。それも、かなりの数…男が五人、女が…十人……。」
目を閉じ、そう呟く女に、JOKERは、フンフンと頷く。
「まぁ、確かに…いますね。しかし、数が違います。御客様の仰られた数の倍は、いらっしゃいます。」
JOKERの言葉に、女は、ギクッとなったが、すぐに笑みを浮かべた。
「そう…でしょ?あなたも少しは、霊能力があるようね。私程ではないけど。」
グラスの中の酒をグイッと飲み干した女に、JOKERは、無表情で、こう言った。
「但し……。ここにいらっしゃる霊の方々は、この店にではなく、あなたに憑いているみたいですよ。」
「えっ……?」
眉を寄せ見つめる女に顔を近付け、JOKERは、ニヤリと笑った。
「あなた……嘘をついていますね?」
「な、何よ…私は、嘘なんて……。」
「霊感なんて全くないのに、霊が見える、祓ってやると、嘘をついてきたのでしょ?そんな、あなたの事を霊の皆様がお怒りになられて、取り憑いて呪い殺すと仰られています。」
無表情で、そう言ったJOKERに、女の身体が震え出す。
それを見て、JOKERは、クスッと笑った。
「まっ、そんな事になっても、凄い霊力を身につけておられるのでしたら、全く問題ありませんね。」
その言葉に、女は、しばらく黙っていたが、プッと吹き出した。
「私を脅かそうとしても無駄よ。」
「脅かしなら、いいのですがね…。」
JOKERがそう言うと、店内の電気がバチバチと音を立て、一瞬、暗くなった。
女は、ビクッとなりながらも、怒鳴るように言った。
「私は、神様から、凄い霊力を授かったの!あんた達なんか、追い払ってやるんだから!」
そう言って、何がブツブツと呪文を唱え出した女に、JOKERは、ニヤリと笑う。
「そんなデタラメな呪文なんて、効きませんよ。それに、あなたが本当の霊能力者なら、私の正体を見抜けたはず。」
「ど…どういう事よ?」
「私が神様を信じないのは…それは、私が悪魔だからです。」
そう言ったJOKERの口が裂け、鋭い牙が見え、耳の先が鋭く尖ってきた。
「きゃあぁぁぁー!!」
悲鳴を上げ、女は、店を飛び出して行った。
女が去った後、店内の明かりは元に戻った。
「少し、驚かせ過ぎましたか…。」
そう言うと、JOKERは、マスクと付け耳を外す。
「しかし…霊が取り憑いているのは、本当ですからね。またの御来店をお待ちしております。生きていたならば……。」
JOKERは、軽く会釈をすると、クスッと笑った。
THRILLER BAR JOKERの夜は、まだまだ続く。
ー第三夜 虚言癖のある女【完】ー
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