ホラーの書き方

チョコしぐれ

ホラーの書き方

機密文書 ー 創作心理資料第13号


発行:日本創作心理研究機構(JSPI)

配布対象:職業作家/創作カウンセラー/校正者

閲覧区分:内部資料(未申請・再配布禁止)


資料タイトル:『ホラーの書き方』


※重要:未完了作品の記録は、必ず締め処理を行うこと。

(締め切られなかった物語には、第三者が入ってくる恐れがあります)


【イントロダクション:なぜ、怖い話は“書いてはいけない”のか?】

怖い話というのは、誰にでも書ける。

でも、本当に怖い話を書くには、条件がある。


それは「物語の途中に“実在する断片”を挟み込むこと」だ。


創作講座などでは、“現実にあった出来事”をベースにするとリアリティが増す、と教える。

だが、ここで注意すべきは、「本当にあった出来事」がどこまで現実に属するかという点だ。


過去に、JSPIでは「未発表原稿に付随して奇怪な現象が起きるケース」について調査した。

その中で最も典型的だったのが、**"実体験ベースで怖い話を書いた女性の失踪事件"**である。


以下、その全文記録を掲載する。


【記録:失踪女性の語り(記述再構成)】


私がこの話を書くことになったのは、

創作のネタが尽きたのがきっかけだった。


SNSでバズるホラーを投稿していたけれど、

ある日、ぱたりと“書けなく”なった。

毎日、何百件も来ていた「怖かったです!」の通知も止まった。

ファンも離れ、ランキングも落ちた。


私は、怖かった。

“書けなくなる”って、こんなに怖いんだって思った。


焦って、実話怪談を片っ端から読みあさった。

「参考にするだけ」と思って、あちこちのオカルト系掲示板を漁っていたら、

ひとつ、変なスレッドに辿り着いた。


スレタイはこうだった。


【注意】このスレに載ってる“やり方”だけはマジでやるな【ホラー書き方】


中を読むと、恐ろしいほど理路整然としていた。

怖い話を“引き寄せる”ための準備、段階、空気の整え方、使ってはいけない言葉――。

そして最後に、こう書いてあった。


※途中で書くのをやめると、“こちら”が開きっぱなしになります。


私はスクショを撮って、その通りに書いてみた。


【創作の過程(彼女の記述ノートより)】


夜、12時を過ぎてから書き始めること


照明は最低限にし、画面に自分の顔が映るようにする


最初の段落は“自分が体験したように”構成する


実際に起きた不可解な現象を“嘘のように正確に”書く


ラスト一行は、


彼女はその通りに実行した。


すると――次第に部屋の空気が変わった。


書いている最中、

・画面の下の方に、誰かの足のような影が映る

・PCのファンが異常に回転し、熱を持ち始める

・なぜか、プリンタが勝手に「準備完了」になる


怖かった。でも、それ以上に“作品が仕上がる感覚”に興奮していたという。


異常の兆候(彼女のPCログより)

書きかけの原稿ファイル「how_to_horror.txt」開封不能


削除しようとしても「このファイルはシステムにより保護されています」


夜間、自動印刷ログが数件(ユーザー操作なし)


プリンタに出力された紙には、原稿の冒頭のみ印刷されていた


出力内容(記録写し)

______________________________________

ホラーの書き方


怖い話を書くには、「本当にあったこと」をベースにするのが効果的だ。

これは単なる創作テクニックではなく、“あちら側”を刺激しないための最低限の手続きである。

____________________________________________________________________________

途中でやめると、こちらに来る。

だから、必ず最後まで書ききること。


最終的に、彼女の姿が確認されたのは、

自宅の机の前で項垂れ、キーボードに指を置いた状態だった。

が、救急隊到着時には誰もおらず、PCだけが点灯していた。


モニターには、彼女が書いていたホラー小説のプレビュー画面が開いていた。

ただし、タイトル以外は何も表示されなかったという。


『ホラーの書き方』

(この文章は、すでにどこかで読まれています)


【備考・追記】

その後、彼女の原稿ファイルはコピー不可能となり、

内部に奇妙なコード断片が埋め込まれていた。


以下は、その最終行に追加された「自動生成コメント」である。


この物語を読み終えた方へ。

あなたはすでに、物語の“構造”の中に入りました。

次にこの話を他人に話すとき、あなたはすでに“語る側”ではありません。

あなたが“話される側”になります。


それが、ホラーの正しい書き方です。


((巻末資料))


ファイル名:how_to_horror.txt


所属不明のスクリプト:ghost_thread_13[active]


削除不可(右クリック無効化)


メタデータ内「最終閲覧者ID」が、閲覧したPCのユーザー名に自動変換される




















【あとがき】

この話は、現在も一部の創作講座やフォーラムで「禁則事項」として扱われています。

“ホラーの技法”を追求しすぎると、

物語と現実の境目が、どちらからも見えなくなるからです。


あなたがこの話を最後まで読みきったことは記録されました。


以下、あなたのプリンタの状態をチェックしてください。

電源がオフでも、“準備完了”になっている場合は、

まだ閉じていない“物語の入り口”が、どこかに残っています。

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