僕はまた、きみに恋をする。
北畠 逢希
絢爛(1)
もしも、過ぎ去ってしまったあの頃に戻って、もう一度過去をやり直すことができたのなら。
私はきっと、すべてが始まったあの日に戻って、
でも、君と出逢えた今の私は、こう言うだろう。君が私にしてくれたように、私も大切な人のために、さいごまで駆け抜けると。
「 」
たとえすべてを失くしたとしても、君に伝えたいことがある。
*
ああ、まただ。また、彼と目が合った。意図的に視線を動かしたわけじゃないのに、ふとした瞬間、視線の先で本を読んでいる彼と目が合うのだ。
いつの間にか、必死に黒板の文字をノートに写していたはずの手は止まり、英文の羅列を追っていた目は彼の黒瞳に囚われている。そんなことが、最近よく起きている。
「——それ、恋の前兆じゃない?」
そうあっけらかんとした顔で言ったのは、小学生の頃からの付き合いである由香だ。
【来栖くんと、よく目が合う気がする】と打ち込まれている画面から私に視線を戻すと、にっこりと微笑んだ。
そんなこと、あるわけない。そう示すように顔のまで手を左右に振った私は、由香に私の言葉を届けるために使っていたスマートフォンを、ブレザーのポケットに滑らせた。
由香は「あるんだな、それが」と意味不明な言葉を呟くと、私の背中を軽く叩いて、声を上げて笑う。
私はすっかりその気でいる由香の背を見送り、机の上に転がっているシャープペンシルを掴み、再び手を動かし始めた。
けれど、それもつかの間。ノートに授業内容の続きを書くはずだった私の意識は、攫われたように、彼へと向けられていた。
彼の名前は、
彼は窓側にある自分の席で、いつも難しそうな本を読んでいる、顔立ちをしている綺麗な男の子だ。
そんな彼と、私はよく目が合う。ふとした瞬間で、偶然に起きていることだけれど、こうも頻繁にあると、実はこれは運命的な何かなのではないかと思ってしまう。
今日この日、この場所で、この瞬間に視線が交わる。そんな運命が、私の人生のシナリオに書かれているんじゃないかと思ったのだ。
そのシナリオは誰が書いているんだ、と怒られてしまいそうだが。
まるで何かの漫画やドラマにありそうな設定だなあと思った私は、心の中で自分に馬鹿ね、と囁いた。そうして、仕舞ったスマートフォンを取り出し、写真を撮ることができるアプリを開く。
もしも、運命なんてものが、この世に存在するのだとしたら。私の物語の結末が、初めから決まっているのだとしたら。
それを変えることができる人は、存在するのだろうか。
(…もしも、存在しているのなら)
結末を迎える前に、大切な人のために走りたい。なんて、らしくもないことを思ってしまった。
どうして私はそんなことを思ったのだろう。そんな存在は、私にはいないはずなのに。
風に揺られている木々を窓越しに一目見て、私は画面に指を押し付けた。
このシャッター音が、三度目の秋の始まりだとは知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます