第2話
2日目:マドリード観光
スペインの首都マドリードは、人口が320万人の一番の大都市らしい。
翌朝、目覚めると窓の外にはスペインの強い日差しがすでに差し込んでいた。
マドリードの街を散歩する情景を想い浮かべながら、ホテルのレストランで朝食を取っていた。英一はフルーツをつまみながら、参加者たちの顔をぼんやりと眺めた。妻が、パンだけはとりあえず美味しいと言った。
英一は、あまりパンが好きではないけど、ヨーロッパ旅行で行った国のパンだけは比較的美味しかった。
「今日は、初日の市街観光か……」
そんなことを考えながらオレンジジュースを飲み込んだとき、ふと視線の先に彼女の姿が映った。友達と談笑しながらパンをちぎる横顔――その笑い声が、どういうわけか妙に耳に残った。
バスがホテルを出発し、最初の目的地はソフィア王妃芸術センターだった。
入り口には、イルミネーションの大きなクリスマスツリーがあって、その一番上に大きな星が飾ってあった。
中に入って、イロイロ絵を見回りながら、今日のメインであるピカソの「ゲルニカ」の絵を見る事になった。この絵は、門外不出らしい。
白黒の絵は、英一にはあまり響かなかった。まあ、見たと言う感じで終わったけど、当然ながら感動する人もいるらしい。
この絵を見る為にわざわざ訪れる人もいて、ツアーの中には、今回で二度目だと言う人もいて、人それぞれだと思った。
英一は、いつもツアーの集団から離れていた。英一は、身長もあるので前に行かなくても良いのだ。ここの絵は、英一には良く解らないヘンテコな変わった絵が多くて、いつもながら芸術も色々と幅が広い。
急に、隣から小声で声をかけて来た女性がいた。あの「美紀」だった。
「あの~、あまり興味はないんですか」
「ええっ、」と、ちょっと驚き
「まあ芸術も幅広いとので、ちょっと何とも言えませんね」と、言ったら
「私も良く解らない絵だと思っていました。」と、彼女は笑った。
美術館は広いので、それぞれのグループでイヤーホンガイドに従って、あちこちを見て回った。
次の訪れたところもプラド美術館という所だった。
また、美術館だった。ここは、スペイン美術の宝庫と呼ばれている所で、圧倒的な名品ばかりらしい。
ベラケレス、ゴヤ、それと宗教画のエル・グレコは聞いたことがあった。
少し長い間生きていると、有名な絵はテレビや写真など、どこかで見かけたことがある様な気がした。
とにかく、許可があれば写真だけは、いつもいっぱい撮る様にしており、日本に帰ってから、有名な絵をネット情報と写真と見合わせて、(いやー、本物を見て来たのだ)と、後で思うだけで、それほどの感激も無く我ながら年齢と共に、少しずつ興味が減って行く感じなのだ。
このプラド美術館も、凄い美術館なんだろうけど、英一にはそれほど感激するような事は無かった。
あちこちと、30回程海外旅行をしていると有名な美術館巡りも多い。
いつも思うのだけど、有名な美術館ではどこも膨大な量の絵画があっても、時間的にガイドさんが紹介できるのは限られているので、ほんの一部だけ見るのだ。
そんな訳で、慣れてくるとそれほど感激は無くなる。
例えば、モナリザも見たけど写真で見ているから思ったより比較的小さいという印象だった。何だろうね。絵も建物もその印象は、大きさで見る感じがある。
何らかの折に、知り合いなどに話すと、その方面の方には、うらやましがられるけど、外国の有名な美術館に行ったことがあると言う程度なのだ。
それから、昼食後にマドリード市街地を観光した。
白い建物の壁を優しく照らし、鉄製のバルコニーに吊された赤いゼラニウムが風に揺れて綺麗だった。空は高く、スペイン特有の乾いた青。
突然、さっきの彼女が近くに来て、
「あの~、何処から来たのですか」と、聞いて来た。
「ああ、神奈川の藤沢です。」と言って直ぐに、
「そちらは何処からですか」と聞いた。
「奈良の天理です」と、彼女は答えた。
「ああ、良いところですね」と、英一が言った。
まあ、ツアー同士の、定番の質問コーナだ。次は、名前だ。
「お名前は、」と聞いたら、
「葉山美紀と言います。」と返事が返って来た。
「そちらは、」と聞かれたので
「ああ、奥野英一です。」と、言って
「短いツアー期間ですけど、よろしくお願いします。」と、答えた。
彼女からも、
「こちらこそ、よろしくお願いします」と、返事が来て、美紀という名前を憶えた。
さて次に、飛行機でマドリッドから、セビリアに移動した。
到着後、ホテルでバタンキューだった。
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