第36話:チェンバレン、生涯現役を貫くのこと(中)
「チェンバレン首相、大変ですっ!!」
「……案の定か、それでは、潔く……」
「いえ、それが……」
「どうしたというのかね、君等は私と違ってジェントリだろう、確りしたまえ」
「……一通目、「潔く議会で現役の儘死ね」。二通目、「今更引退など虫が良い」。三通目、「英日同盟はさておいてアンタが議会で死ぬ姿は見たい」。四通目、「ああ死ね、但し英日同盟は締結して貰うぞ」。五通目、「肉屋に負けるな」。六通目、「死んでから休め」。……ええと、概ね、以上の通りです」
「……はい?」
チェンバレンに寄せられた手紙は、文面こそ「死ね」だの「くたばれ」だのといった悪口であったが、その飾り文句には「但し議会で」だの「生涯現役でいろ」だの「同盟締結してからな!」とか「引退するな」とか書かれており、まあ言ってしまえば、次のようになる。
「……まあ、概ね意見としては「肉屋に負けんな、生涯現役の儘議会で回顧録でも書かれながら斃れろ」だそうで」
「……ハハッ」
なんともやれやれ、どうやら我等が国民達は非常にひねくれ者らしい。そして、残酷だ。この老骨にまだ鞭を打って働けと命ずるとは。
「……首相?」
「いやなに、確かに、酷い文面だね」
言葉とは裏腹に、チェンバレンはこれ以上無いほどの笑みを浮かべていた。何せ、彼自身は遂に、「国民の意思」という名目で英国史上最高の首相として人生を終えることを許されたのだから!
「それじゃ、挨拶してこようかね」
「……そうですね」
チェンバレンの秘書も、またはにかんでいた。何せ彼も万一チェンバレンが憤死してはいけないと思い黙って文面を読んでいて、案の定ドギツイ文句が躍っていることに当初怒りで震えていたが、よくよく読むと「議会で生涯現役の儘潔く名誉を受けて老衰しろ」という文面が大多数、否、ほぼ全てを占めるという異例の事態に、チェンバレンが如何に代議士として愛されていたかを知ることになったのだから。
「……国民投票の結果、きちんと精査致しました。……どうやら、英国国民諸君に於かれましては、私を死ぬまで働かせたい、という結果になった模様です。よって、最期の仕事として、英日同盟を確りと復活させてから、地獄へ旅立とうと思います。尤も、入れてくれるかどうかまでは、全く見当がつきませんが……」
国民投票の後、イギリス連邦は大日本帝国との同盟締結、いわゆる日英同盟を再交渉し始めた。調査の結果より、大日本帝国の機嫌が大いに損なわれていることを把握したチェンバレンは、大日本帝国側の自尊心をくすぐる形で同盟再締結の交渉を開始。斯くて、1941年も9月になった頃には、早くも同盟再締結を行うための枠組が概ね確定した……。
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