第33話:波、未だ徐か
アメリカ合衆国という国家はよく株式会社に比喩される。その理由は利潤追求への飽くなき渇望や資本主義の成功者であることをよく聞くが、利潤追求のためならば倫理問題を蹴り飛ばす危険な存在という意味の揶揄であるということを知る者は少ない。
1941年2月5日、大蔵省のある一室にて。
「ふむ、しかし可能なのかね」
「ええ、アメリカ合衆国側も、否とは言えないでしょう」
「とはいえ……」
「大丈夫でしょう、オトポールの件でユダヤ財閥は我が国へ若干なりとも好印象を持っているということが前提条件にはなりますが」
「……それは、危険な賭けではないのか」
「ええ、しかし最悪でも血は流さなくて済む」
「……なんともやれやれ、交渉はお前がやれ、権限は渡す」
「よろしいので!?」
「逆に、お前の言行はお前にしか出来んよ」
「……わかりました」
1941年、同じく2月5日(ただし現地時間)
「大統領、日本大使館より連絡が入りました。何でも、現在買い取り手待ちのアメリカ合衆国の国債を全て買い取る代わりに連邦準備制度の株主に成りたいとの由」
「……そうか」
「やはり、断りますか」
「莫迦を言うな、こんな好条件で国債を売りさばけるんだ、連邦準備制度の席を一つ譲る位やむを得まい」
「しかしっ……」
「それとも、
「……畏まりました、どうなっても知りませんからね」
「……ああ」
斯くて、大日本帝国はアメリカ合衆国の出資者となった。ただし、その代償は余りにも大きかった……。
「……大丈夫か、これ」
「何、彼らは我が国への国債を持っています。いざとなればこれで相殺できますよ」
「いや、そういう問題では無くてだな……」
……大日本帝国の本貫地である日本列島は、比較的金山や銀山の多く、レアメタルも多数出土する地質である。石油も、樺太にしか大規模なものは存在しないが、近隣の、特に満州では石油がとれることはもう確認済みである。故に、このような荒行ができたのだがそれは余りにも大きな金額に上った。無論、国債である以上いつか返済日には利息を含めて帰ってくるのだが、その日は最大で、三十年である。
太平洋の波は、まだ静々としていた……。
一方で、パレスチナにおける独立戦争はなおも続いていた。武力衝突こそ徳島議定書によって収まったが、今度は長い歴史の中で詭弁に長けるユダヤ人がアラブ人へのネガティブキャンペーンを実行。ヨーロッパ諸国は今までの反ユダヤ感情も忘れてアラブ排斥に傾き始めた。だが、彼らユダヤ人にとって思わぬことが発生する。それは……。
「アラブ側を支援する!?」
「本気ですか、大臣」
「……早合点するでない。あくまで我々が行うのは、ユダヤ人のための国家を設立し、中東動乱の火種を根から絶つための行為だ」
「しかし……」
「樋口将軍を呼べ!」
「は、樋口、でございますか」
「ああ。宇垣元首相に許可は取ってある」
「……畏まりました、それでは呼んで参ります」
「樋口、季一郎でございます」
「首相の堀です、まあ掛けて下さい」
「はい。……用件は先に聞いております。安江も入れて宜しいでしょうか」
「おお、さすが察しが良い。どうぞどうぞ、やはり連れてきて下さいましたか」
「許可が出たぞ、入って宜しい」
「畏まりました、それでは」
「……用件は聞いておりますが、パレスチナでは拙いのですな?」
「ああ、彼らの聖地である旨は聞いているが、かといってパレスチナにも人はいる。なれば、民族国家を作り上げるのは宜しくない」
「……一つ、案は考えておきました」
「ああ、してどこかね」
「……ソビエト連邦は解散したでしょう、なれば、その中で比較的温暖でなおかつパレスチナから離れた処にいくつか候補を絞っています。まずは、カフカス。他には、沿海州。あるいは、外蒙古。いずれかの地方の、比較的繁栄している都市に作りましょう」
「……できるかね」
「彼らが頷きさえすれば」
「……良いだろう、樋口、安江。貴官らに一任したい」
「「畏まりました」」
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