第22話:アインシュタイン変死

 それは、突然の出来事であった。アインシュタインが手紙を書いている最中に謎の変死を遂げた。通称、「シラードは未だ知らず」事件である。その目は見開かれており、毒殺特有のものであったという。此により原子力の研究は数段遅れることになるが、その方が世界や地球環境にとっては幸運だったのかもしれない。その手紙は、早々に焼き捨てられこの世から消えた。

 不可思議なのは、そこに残された犯行声明である。その犯行声明にはこう書かれていた。

 「貴方が日本に対して恩を仇で返した事実は永遠に雪げぬ悪名として残るでしょう。故に、この世界では死んでもらいます。

  私が観測する世界に於いては、貴方はこの時刻までに絶対に死ぬ運命にあります。

  貴方が私に対して、仮にどんな弁明をしようと、絶対に、赦しませんから。」

 一体その犯行声明がどういう意味を持っているのか。恩を仇で返したとは一体どういうことなのか。天才物理学者にだけ解るのかもしれない。あるいは……。

 一方で、ハルハ河近辺における日ソ間の緊張は益々高まっていった。否、それは最早ハルハ河近辺などという名称はふさわしくなく、極東ソ連炎上、といってもまず差し支えはなかった。通称、「ザバイカルの悪夢」である。

 何故、悪夢と言えるのか。それは、死んでいく兵員の割合が、ほぼソ連軍のみであったから赤軍がそう名付けたとも言える。特に、冬将軍の援護無きソ連軍というものは、ジュガシヴィッリの粛清が仮に無かったとしてもひどく乏しい戦力であった。無理もない、ソ連軍とはそもそも玄人達である白衛軍を殺しつくした後に、素人で立ち上げた軍隊なのだから、それこそこの時期の日本軍に優る要素は数しかあり得なかった。一方で、実は日本側にも楽観視は出来ない状況であった。なぜならば……。


「参謀長、どうやら赤軍を蹴散らすことは出来そうですな」

「阿呆、アカを撃滅できるのは当たり前だ。そんなことより、前線が伸びきっている。仮にそこを衝かれでもしたらどうする」

「ああ、そのことでございましたら……」


「まさか、白衛軍の真似事をする羽目になるとはね……」

「ぐちぐち抜かすな、後ろから督戦隊の弾丸が飛んでこないだけ有難いと思え」

「へいへい……」


 ……この時期から既に、亡命元赤軍は動いていた。裏を返せば、この時期から既に亡命元赤軍を動かさねばならないほど、日本軍には戦力の余裕がなかったのだ……。

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