ー2章ー 12話 「償いの一歩、受け入れの一歩」
太陽もすっかり高く登った昼過ぎ。
リュウジはホノエ村に戻り、ゴブリンキングから聞かされた話、村に対しての謝罪などの話を村人に伝えた。
【リュウジ】「……というわけで、ゴブリン族の長として、ちゃんと謝ってきた。償わせて欲しいとも言ってる」
広場に集まったタケトやナツキ、そして村人たちは、ゴブリンキングとのやり取りを聞いてはくれたが、被害者として簡単に受け入れる事は難しく重苦しい空気が支配していた。
【村人A】「ふざけるな……! 家畜が襲われたんだぞ!」
【村人B】「柵も壊されて……謝ったからって、信じろってのは無理だ!」
当然の反応だ。
俺だって、逆の立場なら同じことを言う。
ナツキも慎重な口ぶりで言った。
【ナツキ】「リュウジさん、気持ちは分かる。でも……私たちは被害を受けた側なんだよ?」
怒りや不安は、簡単には消えない。
けど、俺はあいつらの言動に、ほんの少しだけど“変わろうとする意志”を感じた。
だから、踏み込んだ。
【リュウジ】「分かってる。“いきなり許せ”とは言わない。ただ――“償わせる機会”は与えてやってほしいんだ」
村人たちは黙ったまま、俺の言葉を待っていた。
【リュウジ】「壊された村の中の建物は俺たちが直す。そこにゴブリンたちは関与させない、約束する。だからアイツらには外の道を直させたい。これなら村から距離が取れる。作業中も、こっちには絶対に近づかせない。怖がらせることは絶対にしない。だから……彼らの“償いの姿”だけを見てほしい」
しばらく、重たい沈黙が流れた。
【村人B】「リュウジさん……なんでそこまで………?」
【リュウジ】「誰だって生きてれば間違いを犯す事くらいあるだろ?理由はさておいても、反省して許して貰えなくても償いたいって言ってるなら、見届けてやるのは被害者側の責任じゃないかな?って思ってさ。それでも許せないなら、それで良いと思ってる」
リュウジの言葉にみんなが言葉を失った。
ーーーそして
【村人C】「……見るだけなら。リュウジさんたちが居なかったら、今頃村は壊滅して終わってた。アイツらを信用はしてない!でも、見るだけなら……」
【村人A】「……まぁ、それくらいなら……」
【村人B】「近づかないなら、な」
俺は静かにうなずいた。
第一関門は、越えられた。
翌朝。
空が白み始める頃、村の外にゴブリンたちが姿を見せた。
作業を任されたのは、百匹近いゴブリンたち。
統率は取れていて、乱れた様子はない。
タケトが簡易な設計図を渡し、現場監督として見守ってくれていた。
【タケト】「やるな……意外と、手際いいじゃん」
ゴブリンたちは黙々と、道に転がる石をどけ、丸太を運び、地面のデコボコをならしていく。
その様子を、少し離れた建物の陰から村人たちがそっと見ていた。
【村人C】「なんか……ちゃんとやってんだな」
【村人D】「村を襲って来た時と雰囲気が違う……」
完全に信頼されたわけじゃない。
けれど、少しずつ、空気がやわらいでいくのが分かった。
休憩の合間、ゴブリンキングがひとり、村の方角に深く頭を下げた。
声も言葉もない。
ただ、そこにあるのは――誠意だった。
夜。
再び広場に集まった村人たちの前で、俺は口を開いた。
【リュウジ】「今日、ゴブリンたちが真面目に作業をしていたのは見たと思う。もちろん、これからが大事だ。でも俺は……“怒りだけじゃ前に進めない”って思ってる。だからこそ、行動を見て判断してほしい。どうするかは、みんなに任せる」
再び沈黙。
けれど、今回はほんの少し、あたたかかった。
【村人A】「……とりあえず、様子は見る。けど、村には近づかせないでくれ」
【村人B】「壊したもんを直すなら、それくらいは……な」
誰もが納得してるわけじゃない。
けど、それでも――
一歩、進んだ。
その翌日。
ゴブリンキングが再び俺の前に現れた。
【ゴブリンキング】「村の外周にある柵……あれも我らが壊した物。どうか、それも修復させていただきたい。ただし、村人には近づきませぬ。姿もできるだけ見せぬよう、気をつけますので」
【リュウジ】「分かった。ただ、昼間は村人が居るし、まだお前らを怖がっている人もいる。だから、夜の間に作業してくれ。完成したら、お前達が直した事を俺が伝える」
【ゴブリンキング】「感謝いたします。我ら、全力を尽くします!」
かつて敵だった彼らが、償いを始めようとしている。
それを受け入れる村もまた、変わろうとしていた。
ホノエ村とゴブリンたちの――
“次の再生”が、静かに動き出していた。
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