ー2章ー 9話 「謝罪から始まる対話」

ホノエ村の朝は静かだった。

だがその静けさを破るように、村の外れからざわめきが広がり始めた。


【ゴブリンA】「す、すすす! すみません! おおおお、お話がぁぁぁぁ……ありまして……!」


震える声を絞り出しながら、ひとりのゴブリンが森から姿を現した。

手には武器も持たず、ひたすら地面に額を擦りつけるようにして進み出る。


【リュウジ】「……わかった。話してみろ」


警戒は解かずにリュウジが答えると、ゴブリンはさらにおびえた声で続けた。


【ゴブリンA】「あなた様に……我らが王、ゴブリンキング様がお話したいと……仰せでして……つきましては………」


【リュウジ】「まずは謝らんかーーーーい!!!!」


その一喝が森に響き渡り、ゴブリンはビクリと肩を震わせ、慌ててその場にひれ伏す。


【ゴブリンA】「す、すみませんでしたああああ!!!」


【リュウジ】「村をここまでボロボロにしておいて……まず謝罪が先だろうが!」


怒鳴りながらリュウジは続ける。


【リュウジ】「今、近くに来てるゴブリン、全員出てこい!!」


すると、岩陰や木の陰から次々と姿を現すゴブリンたち。

その数、およそ三十体。

中には一際大柄で威圧感を持つゴブリンロードの姿もあった。


【リュウジ】「お前……隊長か?」


【ゴブリンロード】「は……はい!」


【リュウジ】「お前は部下に何させてんだー!!」


【ゴブリンロード】「す! すみませんでした!!!」


次々と飛び交う謝罪。

村の人々もただ呆然とその光景を見守っていた。


【リュウジ】「よし、まずはこの村の人たち、そして牛さん、豚さん、鶏さんに、全員で謝れ!!」


【ゴブリン全員】「すみませんでしたーーーー!!!!!」


その声は村中に響き渡り、どこか滑稽で、それでいて必死だった。


ようやくリュウジが静かに言った。


【リュウジ】「で? 何でこんなことしたんだ?」


ゴブリンロードが一歩前に出て、深く頭を下げる。


【ゴブリンロード】「……我々も、食べ物が尽きてしまい……人間との距離を保って暮らしていましたが、ここ数ヶ月、森の資源も枯れ、どうにも……」


【リュウジ】「……なるほどな。でも、人様のものを盗って良い理由にはならないぞ?

お前らの王が俺に話があるんだよな?ならお前らの罰をそこで決めさせてもらう。文句ないな!?」


【ゴブリンロード】「はい、仰せのままに………。」


【タケト】「リュウジ、これは罠の可能性もあるぞ?大丈夫なのか?」


【リュウジ】「ああ、だからウルフを護衛につけて行く。あいつらの脚力があれば、いざって時は逃げられるだろ?」


そう言うと、リュウジはゴブリンたちに告げた。


【リュウジ】「よし、案内しろ。お前たちの王に会いに行く」


森の中はひんやりとした空気が漂い、緊張感を含んでいた。


やがて一行は、岩と木に囲まれたゴブリンたちの集落に辿り着いた。

意外にも整然としており、粗末だが秩序のある生活の痕跡が見て取れた。


案内されたのは、集落の一角にある小屋の中だった。


そこには──


包帯を巻かれ、横たわったゴブリンがいた。大柄で威厳を感じさせるが、今は体を動かすのもやっとといった様子。

顔には深い皺と疲労が浮かび、呼吸も浅い。


【リュウジ】「……これが、ゴブリンキング……?」


近づくと、彼はか細い声で語りかけてきた。


【ゴブリンキング】「……遠路遥々、無理を聞いて頂いてありがとうございます……ドラゴンの同胞殿……」


弱々しいその言葉に、リュウジは何か胸に引っかかるのを感じた。


何故長であるゴブリンキングが衰弱しているのか。

何か、深い事情があるのではないか?

そう思えてならなかった。


物語は、新たな対話の局面へと進んでいく――。

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