ー1章ー 28話 「ぬちゃぬちゃ配達と山の奇跡」

ウルフ車に荷物を積み、俺は緑スライムと共に出発した。

目的地はもちろん、ドラゴンが住まう山。

ネックレスと槍のお礼を兼ねて、イモ持参で山に向かう。


【リュウジ】「よし、出発進行だ、緑スライム。今日もぬちゃっとよろしくな!」


 スライムはぷるぷると震えながら、意気込みを見せた……ような気がする。


なぜスライムを同行させているか?と言えば、以前ドラゴンが、住んでいた山に薬草が自生していたと言っていたからだ。

何か槍やら加護やら貰いっばなしな気がしたので、薬草生やしたら喜ぶかなぁと思い、連れて行くことに。



 山道は険しかったが、ドラゴンの加護を受けた今となっては、動物たちも俺に警戒することなく道を譲ってくれる。

魔物にも襲われない。


 そして、到着した山頂付近――


【ドラゴン】「おぉ……来たか、リュウジよ」


 俺を見つけたドラゴンは、ゆっくりと翼を畳み、着地する。

 スライムがぴょんぴょんと跳ねて近づくと、ドラゴンが笑った。


【ドラゴン】「その相棒も、連れてきてくれたか。……まさか、あれほどの力を持つ薬を作るとはな!大したものだ!」


【リュウジ】「今日はお礼がてら、欲しがってたイモ持ってきた。ちゃんと蒸かしてあるぜ!お前も食えるんだろ?」


【ドラゴン】「ふむ……いただこう」


 ドラゴンは見た目にそぐわぬ丁寧な所作でイモを口に運び、静かに目を閉じた。


【ドラゴン】「……うむ、ぬくもりのある味だ……何より鼻から抜ける香りが素晴らしい!」


 ぬくもりのあるイモ……いい表現かもしれない。


 食後、俺はドラゴンに頼んでみた。


【リュウジ】「なぁ、この山に昔は薬草が育ってたって言ってただろ? こいつの“ぬちゃぬちゃ”で、何かできるかもしれないんだ」


【ドラゴン】「おお、そうであったか!では試してみるといい」


 スライムを案内し、以前薬草が群生していたという岩場へ。

 スライムがぬちゃりと身体をこすりつけると……


【リュウジ】「おおっ!? 芽が……出た!?」


 緑の芽がいくつも顔を出し、瞬く間に薬草らしき若葉へと成長していく。

 

【ドラゴン】「……これは、“上位種”だ……わしも、久しく見ておらぬ」


それは、かつて育っていたという薬草よりも明らかに太く、たくましいものだった。

ドラゴンは感動の面持ちでスライムを見つめる。


【ドラゴン】「リュウジよ、これはそなたの功績である。受け取ってくれ」


 そう言って、ドラゴンは鱗のひとつを爪で剥がし、俺へと手渡した。


【リュウジ】「え、いいのか? これって武器とか防具の素材になるってやつだよな?」

【ドラゴン】「貴重ではあるが……そなたには、それだけの価値がある」


 なんか……照れる。


 その後、ドラゴンはふと遠くの山脈を見やった。


【ドラゴン】「リュウジよ。あの霊峰を見てみよ。あそこには、我が同胞……“アイスドラゴン”がいる。いつか、彼女と語らってやってほしい」


【リュウジ】「あぁ……まぁ、行く機会があればな。イモ持参でな!」


 ドラゴンは満足そうにうなずく。


【ドラゴン】「……川の完成も、近いのだろ? 完成したら、狼煙を上げよ。止めおいてある山の水を、その合図で流してやる」


【リュウジ】「おお、それ助かる! 任せとけ!」


【ドラゴン】「………それとリュウジ。」


【リュウジ】「ん?」


【ドラゴン】「この国をどうにかできたなら、またここに来るがよい。その時おぬしに伝えたいことがある」


【リュウジ】「んーまぁよく分からんが、そうするよ」


 こうして、イモとぬちゃを携えた山の旅は、実りと友情を持って終わりを迎えた。


 そして帰り道、ウルフたちに向かって俺は言った。


【リュウジ】「……次はな、あの雪山だってよ。行くか、ぬちゃぬちゃスライム旅団!」


 スライム:「ぷるるっ!」(どや顔)


 ぬちゃぬちゃの奇跡は、止まらない――!

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