ー1章ー 27話 「竜の加護とウルフたちの忠誠」

ドラゴンが去った数日後、リュウジはドラゴンに会いに行く準備を整えていた。

だが山までは距離がある。

イモを運ぶにも、歩いては到底無理。


【リュウジ】「よし……ウルフ車、借りに行くか」


そう呟き、森の奥へと足を運ぶ。

目的はもちろん、ウルフたちのボス・クラウガとリュナに交渉すること。


森を抜けた先、いつもの開けた場所には、クラウガと数頭の若いウルフがいた。


【クラウガ】「おぉ、リュウジか。今日は何の用だ?」


リュウジは軽く頭を下げ、挨拶をした。

すると首元から例のネックレスがちらりと覗く。


 その瞬間――


【ウルフA】「……ッ! ク、クラウガ様……ッ」


【ウルフB】「まさか、あれは……!」


空気が一変した。

若いウルフたちが目を見開き、クラウガでさえわずかに身構える。


【クラウガ】「……その首飾り、まさか貴殿は……」


【リュウジ】「え? ああ、これ? ドラゴンからもらったんだけど……なんかすごいの?」


クラウガは驚愕の眼差しでリュウジを見ると、深く頭を下げた。


【クラウガ】「それは……“竜涙石”。千年に一度、ドラゴンが流す涙からしか生まれぬ秘石。その加護を持つ者は、我ら魔物の間では“ドラゴンの同胞”として扱われる……」


【ウルフC】「りゅ……リュウジ様……!!」


 その場にいたウルフたちが一斉に頭を下げる。


【リュウジ】「ちょ、ちょっと待て!なんで“様”になった!?やめて!やめろぉぉぉ!!」


【クラウガ】「恐れ多くも、我らの守護者たる存在が認められし者……リュウジ様とお呼びせねば、礼を欠きますゆえ」


リュウジの抗議も虚しく、ウルフたちの尊敬の眼差しは止まらない。


【リュウジ】「……まぁ、いいか。どうせ言っても聞かないよな……この流れ。クラウガ、ウルフ車を借りたいんだけど……いいかな?ドラゴンの住む山に行きたいんだ」


【クラウガ】「もちろんです。リュウジ様のためなら、全力で若者たちを手配しましょう!」


【リュウジ】「う、うん………ありがとう………」


(なんか調子狂う…)



そのやり取りを聞いていたリュナが奥から現れ、話かけてきた。


【リュナ】「リュウジ様、その秘石をお持ちになられたのでしたら、ぜひ知っておいて頂きたいお話がございます。」


何やら神妙な面持ちに、自然と姿勢を正した。


【リュナ】「元々私たち魔物と人間は、共に暮らしていました。ですが、いつしか人間から私たち魔物と距離を取り……理由は分かりませんが、やがて敵同士の関係になってしまったのです。主様は悲しみました。その時できたのが、その秘石です。いつかこの問題に終止符を打つ者が現れたら託そう………そう仰せでした。」


【リュウジ】「だから俺、魔物の声が聴けるのか?いやでも、じいさんも聞こえてたよな………いやいや、ってか俺そんな大それた人じゃないからね!?今、川とイモで手一杯だから!それに、戦うスキルないからね!?いや、マジで!」


【クラウガ】「今はそれで良いのです。いずれ時がくれば分かります」


【リュウジ】「ま、まぁ………いいか。話せるのは便利だし、なくなるとちょっと不便だし?」


【リュナ】「ふふふっ、リュウジ様らしいです。ウルフ車の件、こちらで万全の準備をさせて頂きますので、ご安心ください」


結局、ウルフたちがやたら丁寧に荷車の準備を整えてくれるという、妙に恐縮する展開になった。


そして、出発の準備が整う頃――


【ウルフB】「どうぞお気をつけて……リュウジ様」


【リュウジ】「だから“様”やめろっつってんだろぉぉぉ!!!」


今日もまた、ぬちゃぬちゃとした人間と魔物の関係が、少しだけ進展したのであった。



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