ー1章ー 6話 「岩の向こう側にあるもの」

【リュウジ】「……ひでぇな、こりゃ」


隣村に着いた俺は、まずその光景に言葉を失った。

畑は完全に水に浸かり、ぬかるんだ土に足を取られながらも、村人たちが懸命にバケツで水を掻き出していた。


【リュウジ】「おい、大丈夫か!」


声をかけると、一人の中年男性が顔を上げた。

ぐしょぐしょの服、泥だらけの顔。でも目はまだ死んでいない。


【村人A】「……あんた、旅の人か?」


【リュウジ】「いや、隣村から来た。元々、川が繋がってた村さ。村に水が来てなくてな……様子を見に来たんだ」


【村人A】「そうか……あの岩のことか」


その一言で、俺は確信した。


【リュウジ】「やっぱり、あの岩……関係あるんだな?」


村人は、空を仰ぎながら語り始めた。


【村人A】「……ある晩だった。空が突然唸り声を上げたかと思ったら、でっけぇ翼を持った化け物が飛来してきてな……苦しんでるようだった。暴れまわって……その時山肌が崩れて、岩が川を塞いじまった」


【リュウジ】「……それで氾濫が?」


【村人A】「あぁ。次の日には村中がこの有様さ。人手もなけりゃ、あんなデカい岩をどうにかする道具もない。……正直、もうどうしたらいいか分からなくてな」


村人の顔に浮かんだのは、諦めと、どこか悔しさをにじませた笑顔だった。


【村人A】「それと川が枯れたのには他にも原因があってな…。なぜかは分からないんだが、水の量が著しく減っていったんだ。ここは水源に近いから水は問題ないんだが…水質も悪くなって、ご覧の通り泥水が流れてくるんだ。」


色々話を聞くと川が枯れた理由が見えてきた。

恐らくあの岩は、偶然魔物によって堰き止められ、川が枯れるのに拍車をかけたかたちに。

水量が減ったことで、見るも無惨だが、この程度で氾濫は収まっているということ。

しかし、なぜ泥水が?今は考えてもしかたない。


【リュウジ】「……わかった。とりあえず村に戻って、村長に相談してみる。少しだけでも何か支援ができるように取り合ってみるよ」


【村人A】「……恩に着る。何もできない自分が情けないが……それでも、助けてくれるって言葉は、ありがてぇもんだ」


俺は軽く頭を下げ、踵を返した。



村に戻ると、真っ先にじいさんのもとへ向かった。


【じいさん】「ふむ……そんなことがあったのか」


【リュウジ】「あぁ。水の氾濫で畑は全滅、家も何軒かやられてたよ。原因は、飛来した魔物による岩の崩落みたいだ」


【じいさん】「なんと!……それは他人事ではないのう」


【リュウジ】「それに水の量や泥水が流れてきてるのも気になる。自然にそんな事が起こるなんて考えづらいしな」


ミズハ村の惨状に、俺はある提案をすることにした。


【リュウジ】「じいさん、備蓄のイモってあるのか? もしあるなら、ミズハ村の人達に分けてあげたいんだ。あの様子じゃ食べ物だってロクにないだろうから」


正直この村だって余裕がある訳ではないだろう。

でもそれ以上にミズハ村の人達は困窮しているはず。

難しいお願いなのは重々承知の上でじいさんに頼んでみた。


【じいさん】「うむ、よかろう。困った時はお互い様じゃ。多少の蓄えはある。おぬしが責任をもって届けてくれるか?」


【リュウジ】「ありがとう!じいさん!」


じいさんは快く食料の提供を約束してくれた。

これで多少ではあるが、ミズハ村の人も安心するだろう。

そしてこの問題をどうすれば解決してあげられるのか…


【リュウジ】「問題は川を堰き止めているあの大岩だな…」


答えがでないまま、俺は備蓄庫へと向かった。



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