第24話 彼女はこれをデートと呼ぶ

「おっ!こっちだよ!」


駅から出て辺りを見回していると、琴平舞衣が俺に気付いた様で手を振りながら呼んでいる。


「すまん。待たせたか?」

「ううん!私もさっき来たところだよ」


彼女の元に行って声をかけるのだが、何だかデートの定番みたいなやり取りになってしまい急に恥ずかしくなる。


「やっぱり集合時間、早すぎないか?」


なんてことはなく俺は琴平舞衣に文句を言ってしまった。だって今は8時半なのだ。

最初の集合時間は10時だった。それでも早いなと思っていたのだが、夜になって彼女から急に集合時間を早めたいとメッセージが送られて来たのだ。本屋巡りをするには早すぎる時間なので俺は難色を示したのだが結局押し切られた上に早めた理由も教えてもらっていない。

そりゃ文句の1つも言いたくなるだろう。


「はい、善通寺くんマイナス1ポイント!」


しかしそんな俺に対して琴平舞衣はダメ出しをしてきた。いきなりのマイナス1ポイント発言に俺が戸惑っていると琴平舞衣は呆れた顔をしている。


「今日はデートなんだよ!しかも初デート!

なのに最初に言う事がそれはどうかと思うよ!そんなじゃ女心は掴めません!」


まじか!どうやら今日はデートらしい。

初めて知る事実に俺は驚きを隠せないでいる。

本屋巡りだと思っていたのにいつの間にかデートになっていたのだ。驚きもするだろう!

しかし、そんな俺のことなどお構い無しに


「ほら!他に言う事があるんじゃない?」


そう言って琴平舞衣はその場でくるっと一回転するとスカートの裾を持って可愛らしく小首を傾げる。なるほど!そう言うことね。

何を言って欲しいのか理解したが途端に先ほどのデート発言を思い出し変に意識してしまい


「服、似合ってるぞ」


何とも素っ気ない言い方になってしまった。

だってめっちゃ恥ずかしいのだ!

女子の服装を褒めるのがこんなにも恥ずかしいとは思わなかった。


「ちょっと素っ気ない気もするけど、及第点をあげましょう!」


俺が褒めた事で気を良くした琴平舞衣は謎の上から目線でそんな事を言ってくる。いつもなら何か言い返す所だが俺は何も言えないでいた。

そんな俺に琴平舞衣は一歩距離を詰めて


「それに意識してくれたみたいだしね!」


そう言って上目遣いで俺を見てくる。

どうやら意識してしまっているのがバレているようだがそれどころでは無かった。

何故なら俺は不覚にも琴平舞衣に見とれてしまっていたからだ。そんな俺を見て彼女は満足そうに笑うのだった。


「それで時間を早めた理由は?」


なんとか平静を取り戻した俺は集合時間を早めた理由を改めて聞いてみた。


「それなんだけど善通寺くんと行ってみたい所があるんだよね」

「行ってみたい所?」

「そう!こっちだよ」


そう言うと琴平舞衣は歩き出したので俺はそれに付いて行く。それにしてもこんな早い時間に俺と行きたい所って何処なんだろうか?

そんな俺の疑問はすぐに解消された。


「到着しました!」


5分ほど歩いた所で立ち止まると琴平舞衣は目的の場所に着いた事を教えてくれる。

彼女が俺を連れて来たのはパン屋だった。


「パン屋に来たかったのか?」

「そう!2階がカフェになってるんだよね」


そう言うと店の中に入って行く。

店内に入ると焼き立てのパンの匂いがして食欲をそそられる。2階に上がるとこじんまりとしているがレトロで落ち着いた雰囲気だ。


「何か雰囲気いいな」

「だよね!何か落ち着いてて良い感じ」


席に座った俺達はそんな事を言いながらメニューに目を通す。何を頼もうか悩んでいると


「ここのモーニングが美味しいって聞いて1回来て見たかったんだよね」


琴平舞衣はそう言って嬉しそうにしている。

メニューを見るとモーニングセットのところには10時までと書かれている。


「だから早い時間にしたのか」

「うん!昨日の夜に思い出して、せっかくだから善通寺くんと一緒に行きたいなって思って」

「それならそう言ってくれよ」

「何かサプライズ!みたいな感じにしたかったんだよ」


そう言いながら少し恥ずかしそうにしているのを見て俺は何となく琴平舞衣がここに来るのを隠していた理由が分かった気がした。


「別に断ったりしないぞ。普通に誘ってくれればこのくらい一緒に行くから」


前に教室で俺に声を掛けて来た時にどう誘っていいか分からないって言ってたからな。

ほんと誘うのが下手くそ過ぎるだろ!

俺の言葉に目をパチクリさせている琴平舞衣を見て思わず笑いそうになる。


「そっか。そうだよね」


何やら独り言を呟いていたかと思うと


「ありがと!これからはいっぱい誘うから!」


琴平舞衣は嬉しそうにそんな宣言をしてくる。

別にいっぱいは誘わなくても良いんだけどな。

しかし俺は思うだけで口にする事はなかった。

この笑顔を見たら流石にそんなのは言えないよなぁ。目の前でニコニコしている彼女を見てそんな事を考えるのだった。


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新作になります。

完結目指して頑張ります。


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宜しくお願いします!

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