第17話 第二回負けない幼馴染み会議

「そういえば姫華の呼び出しは何だったの?」


ケーキをペロッと食べた琴平舞衣はアイスティーを啜りながら今日の昼休みの事を改めて聞いてきた。坂出さんには誰にも言わないと言ったのだがこれは例外なので許してもらいたい。


「本屋での事だよ。誰にも言わないで欲しいってさ」

「なるほどね!でもお弁当の本を買ったのってそんなに秘密にしたいのかな?」


それは俺も不思議に思っていたのだ。誰かさんみたいに普段買わないようなイトノベルであれば秘密にしたいと思うのは分かる。しかしお弁当の本と言っても料理の本なのだ。普段から料理をしている坂出さんが買っていてもおかしくないと思うんだよな。俺が思っていた事を伝えると琴平舞衣は少し考えながら


「もしかしたら大屋冨くんにお弁当作ってくるつもりなのかも」

「というと?」

「お弁当を作って来る前に本を買った事を知られたら何か渡しづらくない?なんかこう言い訳の余地がないっていうかさ」

「なるほどね」


確かにそれはあるかもな。特に坂出さんは異性に対して奥手みたいだし、お弁当の本を買った事を大屋冨が知っている状態だとあからさまに貴方の為に作ってきましたってアピールしてるのと同じだもんな。


「てことは例のお弁当作戦に前向きになってるってことか」

「じゃないのかな?」

「なら悪くない傾向ってことだよな」

「だと思う!アピールする気になったってことだもんね!」


どうやら負けない幼馴染み作りにほんの少しではあるが進展が見られたみたいだ。正直何の進展もない事も覚悟していたので少しでも進展があるのは良い事である。


「取り敢えず坂出さんは見守る方がいいか?」

「だね!変につつくとお弁当やめちゃうかもしれないし」

「なら進展あれば教えてくれ」

「分かった!何か会議っぽくなってきたんじゃない?この調子で色々考えていこ!」


どうやら琴平舞衣もやる気になっているようである。それ自体は悪く無いことではあるんだが考えてと言われてもなぁ。


「前に話してた別方向からってやつで何かいいアイデアない?」

「あぁそんな話ししてたな。でも偽彼氏はいやなんだろ?」

「偽彼氏はね。でも姫華の事を見守るんならそっちで行くしかないよね」


確かに言う通りではある。あるんだが偽彼氏以外でとなるとすぐに浮かんでこない。

何かないかと考えているとふと思い付いたので提案してみる事にした。


「例えば琴平さんに好きな人がいる事にするのはどうだ?」

「却下で!」


俺の案はまたしても速攻で却下されてしまった。しかし俺は食い下がる。


「そう言わずちょっと話を聞けよ」

「聞いても変わんないと思うけど、一応聞いておこうか」


琴平舞衣は呆れながらも話を聞く姿勢を見せてくれたので俺は話を続ける。


「偽彼氏は色々とボロがでそうだって話だったけど好きな人とか気になる人だと設定を練ればどうにかならないかと思ったんだよ」

「それで?」

「あくまで架空の人物だからスペックは盛り放題だろ?」

「盛ってどうするの?」

「それとなくグループ内でそいつが気になってるいる事を匂わせれば、そんな高スペックなやつ相手じゃ無理だって諦めるんじゃないかと思ったんだけど……」


俺は話しながら割といい案じゃないかと思って熱弁したのだが琴平舞衣がすごい目で俺を見ているのに気付いて尻すぼみになってしまった。


「はぁ〜!それって偽彼氏と何にも変わんないじゃん!やっぱり却下で!」


大きなため息とともに呆れた顔をしながら俺の案は却下されてしまった。

偽彼氏に続き架空の好きな人もどうやらお気に召さなかったようである。


「でも坂出さんがアピールをしたとしても、

琴平さんが大屋冨に興味がないってのが伝わってないと効果が薄いと思うんだよな」

「そうかもしれないけど……」


今度は琴平舞衣の歯切れが悪くなる。

俺の言葉に反論出来ない代わりに唇を突き出してしまった。それを見た俺は1番しんどいのは琴平舞衣だという事を思い出した。

別に俺は彼女を責めたかったわけではない。


「すまん。ちょっと言い過ぎた」


俺なんかに言われなくても彼女は分かっているはずなのだ。でもどうしようも無くなったから俺なんかを頼っているんじゃないか?

そう思った俺は素直に謝罪した。


「私こそごめんね。善通寺くんがいう事は分かるんだけど、偽彼氏とかそういうのは嘘をついてるみたいで何か嫌なんだよね」

「琴平さんがそう思うんならこの方法は違うんだと思うよ。だから別の方法を考えようか」


彼女が望む結果を得るために協力を惜しまないが、その為に望まない方法を取るのは確かに間違っているんだろうな。


「とは言ってもすぐに他のアイデアが出るわけじゃないしな。恋愛経験が無いのはこういう時に困るな」

「それは私も同じだからお互いに様だよ」


俺達はお互いに顔を見合せて笑ってしまう。

ほんと恋愛経験ゼロな2人で恋愛相談とか改めて考えるとやばすぎるな。


「まぁでも進展はしてるわけだしな」

「だね!恋愛経験なんて関係ないんだよ!」


改めてやる気になっている琴平舞衣を見ているとほんとそう思えてくるから不思議である。


「そうだ!色々勉強したいから善通寺くんのオススメのライトノベル教えてよ!」

「ちゃんと読んでるんだな?」

「読んでるよ!前言ったけど思ったよりハマってるんだよね」


そういやそんな事を言ってたな。自分の好きな物を気に入ってもらえるのは案外嬉しいのなんだと改めて気付かせてもらえる。


「そういうことならオススメ貸すよ」

「いいの?」

「もちろん。まぁ参考になるかは分からないけどな」

「大丈夫だよ!『おさこい』のお弁当は参考になったでしょ?」

「確かにそうだな」

「でしょ!だから善通寺くんのオススメめっちゃ楽しみ!」

「どんなのが好みとかあるか?」

「そうだなぁ」


こうして俺達は負けない幼馴染み会議そっちのけでライトノベルの話で盛り上がるのだった。 

しかし不思議と悪い気はしなかったのである。



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新作になります。

完結目指して頑張ります。


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宜しくお願いします!

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