第16話 意外と自分では気付かないこと
「何で善通寺くんは私のことを無視するのかな?」
喫茶店に入って席に着くなり琴平舞衣は頬を膨らませて怒りをあらわにする。
「しかもメッセージも返してくれないし!」
どうやらメッセージを返さなかった事も怒りを増幅させる要因になっていたようだ。うん、これからはなるべく返信するようにしないといけないな。
「ねぇ?聞いてるの?」
「聞いてるよ。無視はしたくてしたわけじゃないから。あんなに人のいるところで話しかけれるわけないだろ?」
「それとメッセージを返さないのは関係ないよね?」
ごもっともである。あまりに正論過ぎて俺はぐぅの音もでなかった。俺の言い訳のせいでもっと不機嫌になった琴平舞衣は分かりやすくソッポを向いてしまう。思っていたよりもヘソを曲げてしまっているようだ。
「悪かったよ。これからはちゃんと返信するようにするから」
「既読無視はやめて」
「分かった。既読無視はしない」
「なら許す!」
どうやら許して貰えたようで一安心である。
その代償が思っていたよりも大きいのだが。
だってメッセージのやり取りなんて普段やらないから面倒なんだよなぁ。俺がこれからの事を考え若干憂鬱になっていると
「それじゃ第二回負けない幼馴染み会議を始めようか!」
琴平舞衣がそんな事を言い出した。まじか!?
今からそれをやるのかよ。負けない幼馴染み会議をするとは思っていなかったのでウンザリしていまう。そんな俺に気付いたのか
「昼休みに出来なかったからねぇ!誰かさんのせいで」
そう言うと琴平舞衣は俺にジト目を向けてくる。昼休みの件に関しては別に俺のせいではないはずだ!それなのに彼女にそんな目で見られると何故か居心地が悪くなってしまう。
「それで今日は何を話し合うんだ?」
俺は誤魔化す様に机の上にあったメニューを手に取りながら彼女に質問する。琴平舞衣は呆れたように小さく息を吐く。
「まぁいいや、まずは現状の確認をしない?」
「確認ねぇ」
「なによ!何か文句あるの?」
「いいや。それで琴平さんから何か報告することはあるのか?」
「私からは特にないかな」
「だろうな」
そりゃそうだ。第一回負けない幼馴染み会議が開かれてから1週間も経っていないのだから進展なんてあるはずがない。
「善通寺くんは何かないの?」
「あるはずないだろ」
「何でないのよ!」
「ここんとこ毎日の様に顔を合わせてるのに、特に報告する様な事なんかあるわけないだろ」
今週だけでこの喫茶店に何回来たと思ってるんだ!俺達は最早常連レベルで通っている!
そんな頻度で顔を合わせて話をしているのに今さら何を報告すると言うんだよ。
「それもそっか」
「だろ?」
「だったら何を話そうか?」
琴平舞衣は俺の言い分に納得したようだが、会議をやめる気はないみたいだ。何やら考え込んでしまったので、その間に俺は店員を呼んで注文をすませる。取り敢えず彼女が何か思いつくまで俺は黙って待つことにした。
「お待たせ致しました」
店員が注文した品を持って来た事をつげると
琴平舞衣は驚いたように顔を上げると、テーブルに置かれていく品に目が釘付けである。
「以上で全てとなります。ごゆっくりお過ごし下さいませ」
そう言って店員が立ち去ったとたん
「私頼んでないよ?」
琴平舞衣はボソッと呟いた。
「何か考えるのに集中してただろ?邪魔するのも悪いと思って注文しておいたんだ。アイスティーとケーキにしたんだけど良かったか?」
いつもアイスティーとケーキを頼むので一緒に注文しておいたんだけど勝手に頼むのは良くなかったのかもしれない。もしかしてこういう所でデリカシーが無いと言われるんだろうか。
「ううん!ありがとう!」
俺の不安とは裏腹に琴平舞衣は嬉しそうにしているのでホッとする。
「フルーツタルトじゃん!」
「この前チョコケーキと迷ってただろ?」
「覚えててくれたんだ!」
「あれだけ迷ってたらな」
俺はその時の事を思い出して思わず笑ってしまう。だってめっちゃ迷っていたからだ。思わず2個頼めば?と言いってデリカシーが無い!と怒られてしまったのだ。そんな俺を見て琴平舞衣は頬を膨らませている。
「そんな笑わなくてもよくない?」
「悪かったよ。ほらミルク2個とシロップ1個でよかったよな?」
俺はそう言ってミルクとシロップを手渡す。
琴平舞衣はそれを受け取ると目をパチクリしながら俺を見てくる。
「これも覚えてるんだね」
「まぁこれだけ一緒に来れば覚えるだろう」
何を当たり前の事を言ってんだよ。どんだけ一緒にここに来てると思ってるんだ!流石に俺だって飲み物の好みくらい覚えれるぞ!
「そっか、そうだよね」
琴平舞衣はそう言うと嬉しそうにアイスティーにミルクとシロップを入れている。
俺は何がそんなに嬉しいのか分からず首をひねるのだった。
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新作になります。
完結目指して頑張ります。
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