第10話 喫茶店に誘ってみた
「何なのあのメッセージは?」
放課後、喫茶店で俺は琴平舞衣に詰め寄られている。何でそんなことになっているのかというと原因は昼休みに送ったメッセージだ。
「良い相槌ってなによ!」
「だって相槌しかしてなかっただろ?」
「そんなことないよ!」
「そんなことあるだろ」
俺が『良い相槌』と送った事がよっぽどご不満だったようで放課後になってもこうやって文句を言ってくるので俺もつい言い返してしまう。
「頑張ってお弁当の話題を出したのに!」
琴平舞衣はジト目で俺を見てくる。頑張っていたのは認めるが話を回していたのはギャルじゃないか?俺はそう思ったがそれを言うともっとヘソを曲げそうなので飲み込む。
「そうだな頑張ってたと思うよ」
「………」
「だからほら好きなの頼め」
「………」
俺はそう言ってメニューを手渡した。ジト目で俺を見続けながらもメニューを受け取ったので少し安心していると、琴平舞衣はメニューで顔を隠すと目元だけ覗かせながらおずおずと言った感じで話しかけてきた。
「ご褒美なんだよね?」
「そうだよ。頑張ったご褒美だ」
「ありがと」
どうやら散々文句を言ったのでどうやって矛を収めたらいいのか分からなかったようだ。
ほんと不器用すぎるだろ!俺は思わず笑いそうになってしまう。
まぁ俺も何だかんだと言ってはいるが彼女が頑張ったのは認めているし労いたいとは思っているのだ。だからこうして放課後に喫茶店に誘っているわけである。機嫌が直ってくれて本当に良かったよ。俺は心からそう思うのだった。
「それにしても善通寺くんから誘ってくれるとは思わなかったよ」
ご褒美と称して注文したパフェとケーキをペロッと食べてすっかり元通りになった琴平舞衣が
紅茶を飲みながら言う。
「俺は琴平さんが弁当の話をしたことの方が驚きなんだけどな」
確かに今までの俺なら放課後に女子を誘うなんてしようとも思わなかった。しかもイケてる女子を喫茶店に誘うなんて面倒になりそうな事であれば絶対にしなかっただろう。
ただ琴平舞衣と話すようになって彼女の事を前よりも知ったからなのか、誘うのにまったく抵抗はなかった。だから俺は彼女を誘ったのである。俺からすれば驚くべきことなのだが、それを知られるのは何だか気恥ずかしかったので俺は話題を変えることにした。
「なんか話の流れ的にイケるかな?って思ったんだよね」
「ちょうど弁当の話になってたもんな」
「そう!あまりにもタイミング良すぎてビックリしたよ」
どうやら話題を変える事に成功したようなので俺はそのまま話を続ける。
「でも琴平さんが言ってた通りかなり弁当作りはハードルが高いみたいだな」
「ねぇ!やっぱり幼馴染みでも難しいみたい」
「ラノベだと結構出てくる描写なんだけどな」
お弁当を作ってくるエピソードはラノベだと定番である。幼馴染みモノに限ればほぼ100%で出てくるエピソードのはずなんだけど現実では難しいようだ。
「『おさこい』だとお弁当以外にも家に作りに言ったりしてるのにね」
「そうだな。あの感じだと弁当よりもっとハードルは高そうだけど」
「確かに!よく考えれば他の家で料理するって友達の家でもやらないかも!」
「それが異性なら尚更難しいだろうな」
「そう考えるとラノベの登場人物って結構凄いことやってるだね」
琴平舞衣は感心したように頷いている。
そんな彼女を見ながら俺は1つ気になった事を聞いてみた。
「ラノベちゃんと読んでるんだな」
「うん!最初は参考になればいいかな位の気持ちだったんだけど読んでみると面白くてさ!
実は結構ハマってきてるんだよね」
おお!昨今は活字離れが叫ばれていたりするがこうやって読書の楽しさに目覚めてくれるのは嬉しいじゃないか!
「そうだ!善通寺くんのオススメ教えてよ!
今読んでるやつが終わったら読みたいからさ」
「まかせろ!好きな系統を教えてくれれば何冊かピックアップするよ」
「やった!どんなのが良いか考えとくね!」
嬉しそうにしている琴平舞衣を見て本当にラノベにハマったんだというのが伝わってくる。
出来ればこのまま読書の沼に引きずり込んでしまいたいな。何を読ませたら引きずり込めるか考えていると
「ラノベみたいに上手くいってくれると良いんだけどなぁ」
琴平舞衣がそんな事を言うのだ。それは俺に話しかけたというよりも思わず漏れてしまったという感じだった。元々ラノベに手を出したのも俺に話しかけたのもそれが理由だもんな。
「今日のは悪く無かったと思うぞ」
「そうかな?」
「あれだけ弁当の話をしたんだ。少なくとも坂出さんには大屋冨との事を応援してるって伝わったんじゃないか」
「それはそうかも」
「それに弁当の件みたいに話を振っていけば、どれかは興味を持って行動に移してくれるかもしれないだろ?」
「うんうん!」
「そしたら坂出さんも今より積極的になるかもしれないしな」
「ちょっと希望が見えてきたかも!」
そう言って拳を握ってやる気を出している琴平舞衣はさっき独り言を漏らしていた時よりも声に元気がある。
「近いうちに第二回負けない幼馴染み会議をやらないとね!」
やっぱり第二回もあるんだな。やる気が出たのは良いことだがあり過ぎるのも考えものだ。
まぁでもこの方が彼女らしくて良い。
琴平舞衣が弱音を漏らしたのをみて落ち込んでいる姿を見たくない、俺は柄にも無くそんな事を思ってしまったのだ。ほんと毒されてる気がするよ。
「ありがとね」
「何がだよ?」
そんな事を考えていると突然、琴平舞衣はお礼を言ってきた。何の事か分からない俺は困惑してしまう。
「なんか急に言いたくなったんだよ」
「なんだよそれ?意味が分からんのだが?」
「わからなくても良いいの!私が言いたかっただけなんだから」
俺は本当に意味が分からなかった。でもそう言って楽しそうにしている琴平舞衣を見ているとそれでも別にいいかと思えるのだった。
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新作になります。
完結目指して頑張ります。
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