ヒロイン③ 浴衣姿の年上彼女~君の長旅でたまった疲れを癒してあげる~

 場面設定 近所にある神社の入口 田舎特有の環境音


 //SE 虫の鳴き声。石段を上がる下駄の音が近づいてくる。


「……ごめんなさい 夏祭りに出掛ける浴衣ゆかたの着付けが結構、手間取っちゃった」//息をはずませながら


「お兄ちゃん、ほら見て!! アップにしたこの髪型、この浴衣に似合うと思わない?」


 //SE 石段を上がる下駄の音  隣に座る浴衣の衣擦れ


「……あれっ、返事がない」


「……ねえ、私の話、聞こえてないの。お~いお兄ちゃん!!」


波音はのんが約束に遅れたことを怒ってるの?」//困った様子


「……」


「もしもーし、私の声がちゃんと聞こえてますか?」//耳もとでささやきかける。


「……」


「もうっ、寝たふりなんて卑怯だよ。……謝るから、ねえ、お兄ちゃん、こっちをむいてよ。お願い!!」//泣きそうな声


「……」


「……もしかして、本気で寝ちゃってるのかな? そういえばお兄ちゃん、長旅でかなり疲れたって言ってたよね」


「どうしよう」


「……」


 //SE 虫の鳴き声 時刻を確認する浴衣の衣擦れの音


「打ち上げ花火の開始まであと一時間か。このままお兄ちゃんを寝かせといてあげようかな。……それがいい。夏祭りはまだ始まったばかりだし」


「ゆっくり寝てていいよ、お兄ちゃん」


 //SE 虫の鳴き声 田舎特有の環境音


「……懐かしいなぁ。この神社は昔とぜんぜん変わってない。お兄ちゃんと境内でかくれんぼして、日が暮れるまで夢中で遊んだっけな」


「。……何だか嬉しいな。神社の前の石段でお兄ちゃんとよく並んで座ってたよね。こうしているとあの頃に戻ったみたい」


「……そうだ、これだけ熟睡じゅくすいしてるなら、私の声は聞こえていないはずだよね?」//いたずらっぽく


「あんなに会いたかったお兄ちゃんの寝顔が、こんな近くにあるなんて、まるで夢を見てるみたい。……せっかくだから、もう少し近くに寄っちゃおうかな」


(声がだんだん近くなる)


 //SE 虫の鳴き声 浴衣の衣擦れの音


(身体を密着させる)


「こ、これは、決して寝込みを襲うわけじゃないんだからね。密着しないと、お兄ちゃんが石段から寝ぼけて落っこちないように、私の身体で支えているだけなの!! か、勘違いしないで!!」


「……」


「って私は何をひとりで照れてるの? いったい誰にむかって言いわけをしてるのかな」


「……本当にお気持ち全開でばかみたい。秘密基地でお兄ちゃんと再会出来たときも、気持ちが高ぶりすぎて先走った行動ばっかりしちゃった」//反省をこめて


「それにいきなりタイムカプセルを探してだなんて、無理なお願いしちゃった。……お兄ちゃんに激重な女の子って、ドン引きされなかったかな?」 


「……私が積極的な態度を見せるのは、お兄ちゃんの前だけなんだよ。……後はで誰かを演じてるときだけ」


 「それにしてもかわいい寝顔 だな。 すやすやと寝息をたてて、まるで子供みたい」


「んっ、お兄ちゃんって近くで見ると、結構まつ毛が長いんだ。ちょっとうらやましいかも」


「……」


「すぅ、はぁ~。……なんか幸せだな」//深呼吸


 //SE 急に身体がぶつかり合う音 激しい衣擦れ


「きゃっ、ええっ!? お、お兄ちゃんの頭が私の肩の上に乗っかってきた!! ……あ、ああああっ、ど、ど、どうしよう。めっちゃ顔が近いよぉ!!」


(身動きが取れなくなり完全に固まってしまう)


「ちょ、ちょっと、息が、お兄ちゃんの寝息が、私の肩にかかってる!! 浴衣の生地は薄いんだから、脇の下まで息が届きそうだよぉ!! あたたか~い。 ……なんてのんきに言ってる場合じゃない!! 無理無理っ!! 心の準備がまだ出来ないんだから」


「はぁはぁ、お兄ちゃんの寝息が熱い……」//切なそうな声で


 //SE 虫の鳴き声 激しい衣擦れの音 


「……はっ、大ピンチだけど、私が下手に身体を動かしたら、お兄ちゃんが石段から真っ逆さまに転げ落ちちゃう!? それだけは絶対にだめ!!」


「……例のを使うしかないわ!!」


(火事場のなんとやらで、瞬間的に危険回避行動に出る)


「浴衣の似合う年上彼女になあれ」


「……よ~い、本番、はい」//小声で


 //SE かちりと切り替わる作動音


「……憑依完了」//年上の女性の口調に変化


「ふふっ、無防備な顔をして眠ってる。子供っていうより君は赤ちゃんみたいだね」

 //大人の余裕を感じさせる口調で


「君が無理をして、私に会いに来てくれたのは知っているよ。ほとんど寝てないってことも」//肩枕されて片耳がふさがった状態 くぐもって聞こえる。


「昔から君はそういう性格だったね。約束は絶対に守るタイプ」


「……僕がずっと君のそばにいて私を悲しませる物、すべて遠ざけてやるから。その言葉が当時の私にとって、心の底からに嬉しかったんだよ。君はもう覚えてないかもだけど」

//まるで赤ちゃんをあやすような優しい声


「……君が与えてくれた優しい陽だまりみたいな想いに、私は何を恩返し出来るのかなぁ」


「いまの私の精一杯は、長旅で疲れきった君を包み込むくらいしか出来ないから」


(向きを変え、両手で相手の身体を抱きしめる)


 //SE 虫の鳴き声 浴衣の衣擦れの音 お互いの身体が触れる音


「手紙には明るい話題しか書いていなかったけど、海外の慣れない環境で苦労したんだよね。……私に心配かけまいと無理してたの知ってるよ。何で知ってるかって? あなたのご両親から電話で教えてもらったの。君のことが心配だって」


 //SE こちらの頭を優しくなでる 髪の毛を手櫛が通り抜ける音

(※数回くりかえし}


「本当に頑張ったんだよね。偉かった君に表彰状を送りたいくらい」


 //SE 優しく頭をなでる音


「偉かったでしょう の副賞を君にあげる」//耳のすぐそばで


「ほっぺにチュ♡」


 //SE 頬にキスする音


「……」


「君の唇にじゃないから、これはノーカウントだからね」//照れた口調


「……花火が上がるまで、ゆっくりおやすみなさい」

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