第6話
第二十三章 R品と見直し
ランクアップしたその夜、実里はお香を炊いて早速『当所』の購買に向かう。
試験の影響で防具が欲しくなったからだ。後、可能なら手作りの木製から既製品のプラスチック製に切り替えていきたい。
そんな思いを抱えて、購買の品揃えを確認しつつ、価格のメモも取っていく。
そこでふと目に入ったのは、価格が他よりも一回り高く、注意を促すマークが付いた、大型シールドだった。
RNG-KS-D24/FPM
クロス・カイトシールド(プラモデル仕様)
そう銘を表示された商品のプレビューを見れば、一見ただの黒い凧の形をした大型の盾だ。
どんなものかと思い、テスターを送ってもらおうと操作。
すると、
【整備課をお呼びしています。しばらくお待ちください】
と画面がロックされてしまった。
こうなってはどうしようもないので、大人しく待っていると、ドアがノックされた。
中に入ってきたのは銀髪で顔立ちの良い青年。青い作業服を着ているが、オイルだったり薬剤を使ったのだろうか、黒や赤の染みが所々についている。また、その背中からは黒くのっぺりとした蝙蝠のような一翼の黒い翼と、先端がスペードを模したような形の細い尾が生えていた。
「はじめまして。整備課の弱槍暢(ジャクソン・トオル)と申します。暢と呼んでください。また、見た目はこんなナリですが、悪魔はここでは差別発言となりますのでご理解ください」
彼、暢が爽やかに挨拶すると、一声掛けて画面のロックを解除する。手に持っていたタブレットと合わせて何やら確認している。
「実里さん、ですね。R品は初めてとのことで説明させて貰いますね」
「は、はぁ……」
暢が説明するのは、『R品』と呼ばれる、特殊で色々とオカシな代物だ。
純粋にハイスペックなものもあれば、物理法則に喧嘩売ってる代物。
本当に様々なものがあるので、何も知らずに触ると大変危険らしいのだ。
それもそのはず。『R品』と呼ばれる物の『R』とは、『当所』の正規開発課から分離した、浪漫至上主義者の集まりで、主義の頭文字をとって『チームR』と呼ばれている。
彼らは浪漫を求めて独創的な事をするが、理解が追いつかないものも多数。しかし、技術力は正規開発課よりも非常に高いため、縛ってしまうと生かせなくなる故にやむなく自由にしているらしい。
そして、その問題の現物が目の前に送られてきた。プラモデルが組まれたものではない。本物である。
見た目は普通の凧盾だ。歴史の授業で見たことがあるようなものだ。
大きさは実里の体をほぼ全てを覆えそうな大きさ。
内側は革ベルトで腕と括り付けることができ、中程にグリップがある。
ただ、そのグリップは分割されてバネが仕込まれており、握り込むと何かありそうだ。
立ち会いの元、左腕に取り付けて持ち上げてみるが……
「おもっ……」
満足に持ち上げる事も出来なかった。
ユヴェナに変身してから改めて装備してみる。
今度はちゃんと持ち上がったが、やはり重量のせいか、腕の動きが遅くなる。また、腕が制限されるせいで、木刀を両手で取り扱う事もできなさそうだ。
うんうんと唸りだす実里。あまりにも悩んでいる様子に見かねた暢が整備課視点で相談を提案し、導かれた答えは。
「実里さん、気持ちは分かりますが詰め込みすぎです」
と呆れられてしまった。
そこで、更に相談して装備を見直すことに。
それでも決めかねるので、暢は私見ですがと断って発言した。
「僕は、パーティとはある意味一人の人であると思っています。聞いた構成ですと、戦士は右手、魔法使いは頭、ですかね。実里さんは、この様子ですと脚と左腕の兼任ですね。それで、このパーティという人の左手に何を持たせたいのか。という話です」
そう言われて、実里が今持たせようとしているものを想像すると、左腕一本に刀を持たせて肩に銃を括り付けて。更に盾を腕に取り付け、歪なシルエットとなる。
我ながら何をしたいのだと思い、苦笑いを浮かべる実里である。
ここからは僕の一存では答えを出せず、案を出すだけと断って彼は続ける。
「両手に剣という攻撃特化ならば、今のままでも良いと思います。防御は薄くなりますが、遠近問わず火力で攻撃を受ける前に制圧をするため、盾を選ぶ理由なんてありません。当然その分やられやすくなりますね」
これは今までやってきた事なので、彼女も頷いている。
「次にパーティの左腕が盾であれば。盾役が持つ近距離攻撃は、最低限の自衛手段であるナイフ一本でも十分です。さっきの盾を持ち、拳銃で牽制しながら、後ろに右手と頭を連れて守りながら進む。それこそ本当のタンク戦術です」
「待って、タンク……戦車っていったら、あの長いほうしん? が主役のイメージがあるんだけど。あれ付けなくていいの?」
軍事に詳しくない実里が違和感を感じて質問を挟んだ。
「んー、整備課の僕がこう言うのもおかしいけど。戦車の主砲は、オマケであり主役かな」
その矛盾めいた回答に実里は頭をひねる。
「これは戦車の簡単な歴史になるけど、銃が発達したから、人が装備できる鎧や盾が意味なくなった。だから、仕方なく盾を移動できるようにしたのが、戦車の始まり。ついでに運ぶのが大変だから、城壁を壊せる砲も一緒に載せていたら、敵も動く城壁という戦車を出してきて、戦車は戦車で戦うしかない。という今の形になったんだよ」
その解説に実里は大きく感心し、詳しいならともう少し聞くのであった。
「ところで、さっき気になっていたんだけど。脚のユニットが動いているところを見てみたいんだけどいいかな?」
暢からそんな要望があり、場所を変えて走ってみせると、彼は考えはじめた。
実里からヒアリングをするも、彼女は初めての無限軌道だからこんなものと思っているようで、はっきりとした回答は得られない。
それでも彼は答えを導いたようで、模型状態のユニットを借りて離れること数十分。
その間再び購買で唸っていた実里に返却され、再び走ってみる。
「あれ? すごい! 曲がりやすーい!!」
「バランスが変に見えたから調えてみたんだけど、どうかな?」
「うん! うん! すごくいい! ありがとー! あ、でも……お金……」
扱いやすさに興奮していたが、費用を考えて現実に戻され、テンションが一気に下がった。
しかし、暢はお代は要らないと言う。
「所員や協力者達の装備の面倒を見るのが僕らの仕事だからね。それに、こういうことでしか、僕は君達の命を守るお手伝いができないからね」
気取ることなく言われたセリフに実里は暢のことを少しかっこいいと思ってしまったようだ。
その後もしばらく要望や相談で話をした後、実里はふと思い出した。
「そう言えばあの盾、すっかり忘れていたけど。なにか注意することあったの?」
あのR品のギミックを教えて貰った実里は、ただただ顔を青くした。
第二十四章 方針
宿に戻り、起床した実里は盾ぐらいなら朝ご飯までに間に合う。そう踏んで、つい買ってしまった例のプラモ盾を開封すれば、盾とは思えない量のランナーに絶叫する。
それが近隣住民を叩き起こし、詰め所の衛兵まで駆け込んでくるという珍事を起こしてしまい、謝罪騒動が勃発した話はさておき。
三人は移動に備えて買い物をし、その夕刻に実里は気になっていた事と、相談したいこと、聞いておきたいことを話題に出した。
気になった事は、出会ってすぐ実里をパーティーに勧誘してきたこと。
これは単純に『戦力の原石だ』と感じたからだそうだ。
本当に錫クラスの実力ならシルヴィ達が到着した時点で胃袋の中だっただろう。それが、ホワイトウルフに押さえつけられていたものの、抵抗できる力があった。だから誘えるなら誘いたくなった。とのことだ。
そして、見込みがあるのは早いところキープしておけば取られなくなるし、育てば自分たちの生存率も高くなる。そんな未来を見越しての勧誘だったそうだ。
もっとも、実里の装備が常識の埒外に出るというのは予想だに出来なかったらしいが。
相談したいことは実里の戦闘による立ち位置。
これには二人も大いに頭を悩ませた。攻撃に回ってくれても嬉しいが、盾となって守ってくれるのも助かる。しかし、どちらかを選ぶとなると、それは大変悩ましい。
最初にユヴェナと違った形の攻撃特化の子を購入する事を検討しているとは伝えてはいたが、それでもすぐには決めかねるようだ。
とりあえず当分はその二つを比べながら試していくこととなった。
そして聞いておきたいこと。
「あのー、空からくる魔物ってまだ見たことないんだけど来たりするの?」
「空かぁ。頻繁には来ないが、来るときは来る感じだな」
実里の心配事。それは空からの脅威だ。
このパーティーでは、有効な攻撃をシャーリーしか持ち合わせず、シルヴィは近寄ってきたところへのカウンター狙いで待ちかまえるのみ。
実里の拳銃により対空能力は上がったが、それでも限度がある。そこで、実里が『当所』で聞いてきた『御守り』を導入するか、『二人目のプラモデル』を導入するか、という相談だ。
「これ、さっきの相談にも関わるんだけどね。その二人目が空を得意とする子なの。でも、ちょっと問題もあってね……」
と始め、それぞれのメリット、デメリットを述べる。
『御守り』
・メリット、組立時間が速くて一刻程度の見込み、銀貨五枚と安い。時間さえあれば明日からでも使える。
・デメリット、一回に使えるのは一発だけ。撃った後、もう一度使うなら五分間ユヴェナ本体も使えなくなり、その間実里が無防備となる。
『二人目』
・メリット、戦闘時間が長い、複数の相手にも対応できる。新しい戦略も出来る。
・デメリット、組立時間がほぼ一日仕事、皆と細かい連携がとれない、お値段小金貨五枚と高い。
「それなら『二人目』でいいですね。無防備になるのはいただけません」
「ランクが低いから収入で気になってんだろうが、小金貨五枚って割と手早く稼げるし、他に流通してる対空装備ならそれくらい簡単に越えるからな。そう考えるとむしろ安い」
二人の答えは即決だった。
「そもそも御守りって運頼みだろ。そんなんに頼るか? そんなんに頼るくらいなら確実な手段を選んだ方がいいじゃねぇか」
「……おっしゃるとおりです」
現役の、それも格上の言葉となると、頷くしかない実里である。
もっとも、『御守り』と言っても、シルヴィ達が想像もつかない凶悪な代物だ。それを知っていれば判断もかわるのだろうが、実里にとっては説明が難しいものなので、こう表現するしか無かったともいう。
相談も終わり、実里は盾を急ぎ組み立て、さっさとベッドに入ってしまう。
明日から移動なのだ。湧き上がる楽しみに興奮が高まり、中々寝付けないのであった。
第二十五章 想定外
いつもの朝の準備を済ませ、打ち合わせ通り門の前で待っていると、シルヴィとシャーリーが馬で引くような荷車を引っ張ってきたではないか。
「ミノリー! 借りてきたぞー!」
確かに実里は売り込む為に長距離移動のお手伝いができるとは言った。しかし、早速用意してくるとは思わなかったのだ。
「あ、ありがとーー!」
内心焦りながらもそう返すしかなかった。
町をでて、ユヴェナを纏い、荷車を持つ。
馬に固定するために伸びている棒の先に革を巻いて、簡単なグリップにされている。
実里は履帯を展開してステップに乗り、二人が御者席に乗り込んだのも確認する。
準備よしと意気込み、三人は次の場所に向けて出発……できなかった。
出発宣言から一分もしないうちに荷車を止め、実里は二人から説教をうけていたのだ。
出発してすぐ、実里は自らの常識に従って速度を上げたのだ。つまりは目指すところ、時速六十キロ。
しかし、速度があがるにつれて、手に伝わる振動や音が酷くなる。時速三十キロ程で明らかにおかしいと後ろを振り返れば、荷車が大暴れし、シルヴィは御者席にしがみつき、シャーリーは後ろの荷台に転げ落ちている。舗装されていない道で速度を出すとこうなるといういい見本状態だった。
慌てて実里は止まり、二人の無事を確認したのち、説教が始まったのだ。
常識という壁は、分厚いのである。
さて、説教も終わり、シルヴィとシャーリーが足回りに異常が無いか点検をしている最中。実里はこっそりとサツタに連絡を取っていた。
「サツタさん、これ、速度どこまでだしていいか知ってますか?」
『これ、荷車ですか? その時代でしたら時速十キロが限度だと思ってください。緊急で逃げるにしても二十キロも出せばすぐ壊れると思ってください』
「え? それだけ?」
『はい』
「馬車ってもっと速いって思っていたよ……」
『あるある案件ですね。同じような問い合わせが多いので、対応FAQにあるほどですよ』
「えぇー……複雑」
そんな事をしつつも点検が終わり、改めて出発する。
シルヴィやシャーリーからも速度に気をつける言葉が飛んで来る。しかし、その言葉に従ってサツタに教えてもらった速度で引っ張っても彼女たちにとっては革命的な快適さなようだ。
「いやー、ミノリのおかげで早く楽に移動できるなんて助かるな」
「本当ですね」
と、感謝の言葉が来てはいる。しかし……
(おっそい……)
実里は自転車以下の速度でしか動けないことに不満を抱いていた。
第二十六章 道中
実里のおかげで道中速く進めて安全。と言うことはない。
『実里さん、左手前方約五百メートル、いくつか反応があります』
サツタからの忠告を受けて、荷車のグリップから左腕に留めているカイトシールドのグリップにこっそり持ち替える。しかし、速度は変えない。
程なく実里の視界に映るレーダーにも、その反応を捉える。探知は五秒毎。三回分ほど観察しても動く様子はない。
しかし、反応に近づくにつれて荷車の二人も何か感じ取ったのか、気配が変わった気がする。
『そちらに向けて弓を構えているのが見えます。警戒を』
その言葉を聞きつつ、反応があるやぶの真横を通り過ぎる瞬間、その中から数本、矢が飛び出してくる。
咄嗟に止まり、盾に身を隠してやり過ごしてから、無限軌道ユニットで急加速して回り込む。勿論荷車は手放してる。
あまりにも速い速度で迫る実里に賊は驚いて反撃もままならずに追い立てられ、道に飛び出る。そこをシャーリーの魔法で無力化され、瞬く間に制圧されてしまった。
シルヴィはシャーリーが魔法を放つ頃にはロープを握っており、倒れた賊どもを手早く捕縛した。
それらを既に先客のいる荷車に放り込んで移動を再開する。
「ある程度覚悟してたけど、治安悪くなーい? この街道」
「こんなに襲撃が多いのは初めてですね」
「だなー。普段は襲撃自体あるかどうかなんだが」
そんな会話を始める証拠として、後ろの荷車には
「まぁ、懸賞金で懐は暖かくなるんだが、こうも多いとうんざりするよなぁ」
シルヴィは実里の背中に搭載されていたクロスボウを断って取り、荷車に打ち込むと縛られている賊からくぐもった悲鳴が聞こえる。
賊の前に簡易的な的を設置しており、そこに撃ち込んだのだ。逃げれば撃つという警告を込めて。
このクロスボウも実里がテストがてらに作った模型であり、調べた結果は至近距離であれば、他の人でも使えることが判明した。
そのため、気晴らし兼射撃練習に、不定期にこうやって撃ち込まれているのだ。
なお、賊に関しては生きていれば死体より高く引き取られる程度で、死んでいたとしても罪には問われない。例えここで誤射をしてもただの事故として扱われるくらいである。
実里もまた、最初に賊や赤子鬼と対峙したときは、人型ということで躊躇していた。しかし、襲撃が多すぎて実里も躊躇しなくなってしまったようだ。
「私も慣れちゃったなぁ……」
荷車を引きながら、実里はぽつりと呟いたのだった。
第二十七章 交易街ヘイブ
更に移動すること数日。カムレ程の高さではないが石材で城壁が築かれた街にたどり着いた。
街の名はヘイブ。
カムレよりも街の規模が大きく、街の少し前からいくつもの街道が合流し、より多くの旅人や馬車が行き交っている。
主に商人達による非常に長い入街待機列が形成されているが、実里はシルヴィの指示に従って左に逸れ、商人達を追い越していく。
いやな目線を向けられると覚悟していた実里だが、そんなことはなく、履帯ユニットに対して好奇の目線向けられるばかりであった。
しばらく追い越していると、もう一つ並んでいる列が見えてきた。
こちらも馬車は見えるが、その数は少なく、商人のような風貌の人は居ない。
列が短いにもかかわらず、商人列と違い木目調の金属製──おそらくダマスカスと呼ばれる金属──の装備を纏った衛兵達が数多く配備されている。
先を覗きこめば、衛兵が縄で人を引き連れた冒険者らしき人を列から引っこ抜き、更に列の左から先に進んでいくのが見えた。
恐らく捕らえた賊に関する手続きをするのだろう。
そうやって引き抜かれることもあってか、商人列と比べると進む速度が桁違いに速い。とはいえ、彼女たちもまた賊どもを引き連れている身。どんどん進む列で待っていると衛兵に引っこ抜かれて、別の門へと連れていかれる。ちなみに、彼女たちが並んでから衛兵に引っこ抜かれるまでの間、商人列はごくわずかしか進まなかった。
連れられた門は詰め所を兼ね、さらには地下牢に直結しているようで、荷車の上でしなびたモヤシのようにぐったりとしていた賊が続々と衛兵によって運び出されていく。
冒険者カードで身分を証明し、賊の人数によって確定する賞金を受け取る。そして、生存ボーナスや手配書との照会による賞金首ボーナス等の細かい査定結果は後日冒険者ギルドを通して渡されるので、この街の冒険者ギルドには顔を出すように。と言われれば、手続き終了。
思いのほか早く街の中に入れてしまったのだ。
街の建物としては、カムレと変わらず石材中心のようだ。そして、緑もまた見あたらない。
但し、人々の賑わいはカムレの比にならないほどである。シルヴィやシャーリーがいなければ人混みの中で立ち往生していただろう。
馬車ギルドに荷車を返し、冒険者ギルドで討伐証明を換金して宿へ向かう。
今回の宿はフラウの宿と呼ばれ、ヘイブ中心から¥はやや離れて不便ではあるものの、詰め所が近くて女性に優しいと謳われている。
何せ女性店員だけで構成され、宿は男子禁制を取るという珍しい店だ。一応地階の酒場までなら男性も入ることを許されている。
その分少しお
実里の知識ではこの時代、女性が活躍すれば男性によって邪魔が入る。という定番の展開があると思っていたのだが、そうでもないようだ。
流石は実力主義の国。そして。
「いらっしゃーい。泊まりかな?」
出迎えてくれた女性は、声こそ猫が鳴いたかのように可愛らしいのだが。
どこかのバトル漫画で、本気を出した戦闘種族よろしく、全身の筋肉量が凄まじかった。
それ故に、実里は内心ビビりたおしつつも、妨害を受けていない理由を悟ったのであった。
夕刻、食事の時間。
「ミノリ、酒飲むか?」
シルヴィが注文する前に聞いてくる。
「あー、私まだ十七だから、お酒は……」
「十七はもう成人じゃねぇか! それにミノリのお陰でこんなに早く着いたんだ! 祝いにパーッとやろうぜ!」
いつもより上機嫌なシルヴィに押し込まれ、拒否したくとも、つい頷いてしまう実里であった。
「それじゃあ、ヘイブに早く着いたということで、かんぱーい!」
『カンパーイ!』
今日の宿の夕食──焼き締めた黒パン、葉野菜たっぷりのシチュー──を前に、三人はエールの入ったジョッキを掲げた。
話す内容は道中による実里の活躍話だ。
二人は知らない反則品による早期の敵発見、敵を逃がさない装備。そして、拳銃による戦果。
特に
実里は最初人型ということで、彼らへの攻撃に忌避感や罪悪感を抱いていた。しかし、いわゆる女の敵であると言うことを言われてしまえば、対処せざるを得ないという事で攻撃に積極的となったのだ。その後はただ追いつかれない速度で後退しながら撃つだけという状態だったため、見所無しとして全カットと相成った敵である。
今更ではあるが、赤子賊とは、赤い皮膚に切れ目のような細い目。団子鼻で長い耳ながらも先端はくるりと巻いた形状をしている。
また、成体で百三十センチ程と小さいが、全裸の素手で襲ってくるというちょっと、いや、かなり出会いたくない部類の敵性体である。
余談ではあるが、よその国では群れても十程が大半らしいが、この国ではただの街娘相手ですら瞬殺されてしまうので、対抗するために基本的な群の規模が大きくなっているという。
なんともな話である。
慣れないエールをちびりちびり飲んでいた実里は謙遜しながら苦笑いを浮かべていたが、一杯目を飲み干してすぐ二杯目を渡され、それに少し口を付けたあと。
彼女がジョッキをテーブルに叩きつけた。
その目は虚ろで、顔も真っ赤になっている。
そして、実里は今まで聞かせた事のないような口調、回らない呂律でその場にいる人にとっては理解のできない言葉を並べていく。
辛うじてわかったのは、パーティーメンバーへの不満ではなく、ストレスの掛かった荷車含む装備らしきものへの不満。
ひとしきりはやし立て、ぐいっとエールを流し込んだ直後。
女の子が出してはいけない音とモノを出し、テーブルに突っ伏して寝てしまった。
実里の仲間二人は困惑しつつも掃除し、実里を部屋に寝かせ、実里に二杯目は出さないと決めたのだった。
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