この恋、特許出願中。〜私生活ダメダメ神絵師の恋はAIトレスなんかじゃない〜

灼霧ゴッカ

前文 炎上の発火点


「助けて十御くん! わたしの絵が炎上してるの!!!」

 

 少女の叫び声が、アパートのリビングに響き渡った。

 休日の朝、ようやく二度寝を決め込もうとしていた十御──守矢もりや 十御とおんは、思わずソファから転げ落ちた。


「えっ、なに……? どうしたの美咲、炙り出しでもやってるの?」


「SNS! トレンドに入ってるの、多分わたしの絵なの! ちょっと見て!」


 美咲──亜土あど 美咲みさきが手渡してきたスマホの画面には、「#炎上中」「#神絵師トレス疑惑」なんて不穏な文字が並んでいた。タイムラインには、怒りや憤りや、そしていくらかの嘲笑も混じって、膨大なリプライと引用RTが流れている。


「あー……これは……うん、確かに盛り上がってるな」


「どうしようどうしよう! 燃え広がっちゃって、やっぱり……あの……わたしの活動、終わり……?」


「落ち着いて。大丈夫、ちゃんと確認するから」


 慌てふためく美咲の肩を抑えて、十御はスマホを操作する。問題のツイートには、一枚の絵が添付されていた。


 間違いない。美咲がこの前描いていた、あのイラストだ。彼女の手癖が色濃く残る背景、レイヤーの処理、キャラクターの髪の分け目に至るまで、十御はしっかりと覚えている。


──問題は、それを投稿したアカウントの方だ。


「……ああ、なるほどな。これは“無断転載+自作発言”だな」


「えっ?」


「この人、自分の絵として勝手にアップしてるんだよ。それで、人気が出たら、"本当の作者はこの人じゃない!"って告発された。だから"炎上"って流れ。よくある話だよ」


「……じゃあ、わたしは……悪くないの?」


「もちろん。悪いのはこの人。ただ、美咲の名前が広がっちゃってるから、今は“巻き添え”って感じかな」


「でもなんで……“わたしの”絵が炎上してるの? なんでこの人が怒られてるのに、わたしまでこんなことに?」


「それは……この人が“私が描きました”って言っちゃってるから」


「……だめなの? もしかしたら本当に、この人が描いてるかもしれないじゃん?」


十御は、額を押さえた。何度目だこの問答は、と呟きそうになるのを、ぎりぎりで飲み込む。


「……ダメだよ!? 仮にトレスだったとしても、他人の著作物を、自分のだって言うのは“著作権の侵害”っていう立派な違法行為。しかも“自作発言”は、単なる転載よりもずっと悪質なんだ」


「うう……そっか。でも、わたし……法律って全然わかんなくて……」


「まぁ、知らなかったで済むなら警察はいらないからな。でも心配すんな。俺がついてる」


「うん……ありがとう、十御くん。ほんとに助かった……」


美咲がほっと息をついた瞬間、彼女のお腹が盛大に鳴った。


「……えへへ。安心したらお腹すいちゃった」


「はあ……。じゃあご飯作るか、今夜はハンバーグの予定だったよな」


「ハンバーグ!? やったぁ!」


「……今日こそは自分で作れるようになってもらうからな?」


「ん~、やってみる! やってみるけど、たぶん途中で任せるねっ!」


元気に宣言する美咲に、十御は盛大なため息をついた。


(結局、俺が作ることになるんだろうな……)


ふわふわとした少女の神絵師ライフと、現実的なトラブルの仲介役。

この“本則ものがたり”が始まったのは、ほんの数日前のことだった。

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2026年1月2日 12:00
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