第2話 放送部の“ミオナノート”
澪奈は、校内放送で「ミオナノート」として知られていた。
本名を隠して活動しているわけではない。けれど、普段の自分とはまるで別人のような、明るく軽やかなトーンで放送を続けているせいか、誰もその正体には気づいていない――
少なくとも、そんな風に思わせてくれる距離が、今の彼女には心地よかった。
顔が見えないということが、これほどまでに自由なのだと、放送部に入って初めて知った。
静かで、本ばかり読んでいる“地味な図書委員”。
けれどマイクの前では、澪奈の中のもう一人が、すっと目を覚ます。
「本日も“ミオナノート”がお送りします。校内BGMは、やや近未来的レトロ風チューンでお届け。眠気と戦う午後の生徒諸君、頑張ってくださいね〜!」
誰の記憶にも残らなくたっていい。
それでも――
この声だけが、この空間のどこかに、そっと残っていてくれるのなら。
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