図書室リフレイン

泡依 ひかり

第1話 放課後のノイズ

 図書室の時計が午後五時十五分を指したとき、白取澪奈は、また――

“それ”の音を耳にした。


 カリッ……カチッ……。

 電子ノイズのような、どこか人工的で、だけど何かを告げるような断片的な音。書架の奥、封鎖された旧資料室に設置された古びたモニターから、今日もまた不規則な信号が滲み出すように流れていた。


 澪奈は、制服のスカーフの端を指先でそっとつまんだ。無意識の癖だった。緊張するたび、こうして手元に意識を落とすのが習慣になっていた。


 図書委員としての業務を終えたあとのこの時間――

 澪奈は毎日のように、この奇妙な現象を観察している。先月、ふと立ち寄った旧資料室で偶然見つけたそのモニターは、電源が切れているはずなのに、きまって午後五時十五分になると、突然点滅を始めるのだった。


 しかも、ノイズに混じって、時折自分の声が聞こえてくる。


 ――「白取澪奈。聞こえる?」


 けれど、その声は、過去の自分のものではなかった。

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