第17話 円花さんと料理

「怖い怖い怖い。左手切りそう」

 包丁を握っている僕よりも、覗き込んでいる円花さんの方が怖がっている。


「大丈夫だよ」

 僕はニンジンを押さえて、慎重に包丁を入れていく。ゆっくり、ゆっくり。


「ニンジンは固いから、切りにくいよね。特に最後は。私が切ってあげたーい」

 ひとりでやきもきしている円花さんを放置して、なんとかニンジンを切り終えた。


「ふー」

 力が入っていた肩をほぐし、一息つく。


「お疲れ様。指切らなくて良かった」

 円花さんも僕の隣で、安心したような息をはいた。


 さっき、昨夜考えながら寝落ちしてしまった件を、円花さんに相談をしてみた。

 母さんの負担を減らす方法。

 円花さんは即答で、「家事の分担!」と言った。

 そうだよな。仕事は介入できないんだから、家事しかない。


 でも、何をどうやればいいのか、まったくわからない。円花さんにお伺いを立てたところ、彼女はベランダを指差した。


 そこには風で揺れる洗濯物が干しっぱなしになっていた。昨日、母さんが干した物だ。

 まず洗濯物を取りこみ、畳んだ。母親とはいえ女性の下着を手にするのは恥ずかしかったけど、あまり見ないようにして、布の端を持って選り分けた。

 畳んで仕分けした洗濯物を洗面所の棚や、自室と母の部屋に持って行く。


「洗濯の仕方は、おばさんのやり方があるから、勝手にやらないで教えてもらった方がいいよ」

「洗濯にやり方なんてあるの?」

「なんでもかんでも、洗濯機に入れればいいって思ってるでしょ」

 図星を指されて、言葉を失う。


「物によって手洗いとか、洗濯ネットが必要な場合もあるんだよ」

「なんで?」

「形崩れや、ダメージを防止できて、服が長持ちするんだよ」

「洗したら傷むの?」


「生地同士がこすれるからね」

「詳しいね」

「自分でやってたもん」

 円花さんはなんてことない、という顔で教えてくれた。


 親にしてもらうのが当たり前だと思っていたから、もしかして円花さんには親がいないか、やってくれなかったんじゃないか、と勘繰ってしまう。


 洗濯の整理を終えると、「次はお料理しよっか」と提案された。

 そして、昼食に焼きそばを作ることになった。

 焼きそばなんてカップ麺があるから別にいい、と言いそうになったけど、これも母さんの負担を減らすことになると考え直した。


「焼きそばぐらい、簡単だよ。豚肉とキャベツと麺を炒めて、ソースをかければいいだけだろ」

「お料理したことあるの?」

 疑い深い目でをして、僕を覗き込んでくる。


「学校でやったよ。中学の時。焼きそばじゃないけど」

「何作ったの?」

「飯炊いて、味噌汁と鮭焼いた。ムニなんとか」

「鮭のムニエルだね。美味しくできた?」

「まあ、それなりに」

「じゃあ、お野菜を足して、焼きそばを作ろう」


 というわけで、固くて切りにくいニンジンを切っていた。

 キャベツをざく切りに、玉ねぎを繊維に沿って切り、豚肉を一口サイズに切り分けた。



   次回⇒18話 円花さんと料理2

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