第7話 形容し難い異物

二人は調理場へやってきた。

この調理場だけで瑞稀の前世の教室より広そうだ。

「瑞稀さんは何を作りたいのですか?」

「あー...とりあえず材料を見てから決めるよ」

そう言いながら瑞稀は地下のパントリーへと続く階段を降りていった。

「なにか、嫌な予感がしますね。瑞稀さんの過去が見えないのにも関係しているのかもしれません」

ヒュプシュのつぶやきが誰もいない調理場に響いた。

「できた!」

「これは...」

料理が完成した。

ヒュプシュは言葉に詰まっているようだ。

「これはなんですか?」

「...」

それは名状し難い物質。

瑞稀は自分自身でも何を作ったのかわからなかった。

日本で生活していたときは、自炊も嗜んでいたというのに。

遡ること約40分前...

パントリー内部の材料を見ていて、瑞稀は大事なことに今更気づいた。

この世界アイノアの食い物なんて知らねぇ!

瑞稀がしばらく困惑していたら、ヒュプシュがパントリーに降りてきて言った。

「何を作るか迷っているのですか?」

「...そんなことないぞ」

瑞稀は手近な材料をテキトウに持って、調理場へ戻っていった。

そして現在...

瑞稀はこの失態を認められずにいた。

あれらはただの調理対象物だ。

調理されるために存在しているのであって、料理になるために存在しているわけではない。

豚肉を生で食べてはいけないように、野菜を直火焼きしてはいけないように、材料調理対象物の性質を知らなければ料理は完成しない。

だがこの言い訳も終ぞ語られることはなく、皿の上の異物が結果を語っていた。

      

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