⑤【文芸評論】 『ブレンドのモノクローム』論|記憶と空間が交差する場所で

@tanuki_0628

小説『ブレンドのモノクローム』が描く、かつて在った空間の余韻。

日常 × 心理 × トラジディ


ひとつのカフェを舞台に、繰り返される日常と微細な違和感を積み重ねていく『ブレンドのモノクローム』は、ポストコロニアル文学として興味深い作品である。特筆すべきは、作者が現実の歪みを一切の露骨な演出を廃して描写のみによって語る、その技巧だ。


作中、カフェの描写は懐かしさと落ち着きに満ちているが、読者がその居心地の良さに浸りきる前に、登場人物の台詞や行動の微妙な齟齬が静かに現れる。


本作は、明確な結末や解答を提示しない。だがそれこそが、本作の持つ強度である。曖昧なままの真実、語られなかった記憶。それらが読者の心に長く尾を引く。それは、私たちが日々失っている風景そのものかもしれない。──そんな経験を与える作品は、そう多くはない。


本作を単なるミステリーものと見なすには惜しい。これは、「人がなぜ記憶に還ろうとするのか」という問いに対する、ひとつの静かな応答なのだ。


編集部コメント:バリスタ三毛猫、推し度激高


西暦2024年 第――回 江戸川乱歩賞

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