2-3
誕生日当日。次々と招待客が訪ねてくる。
兄のバルセットは、「せいぜい恥をかくな。男爵家の
そんなに家が大切だというのなら
ジェレミーは父と一緒に、招待客を
「男爵、今日はおめでとう」
「これはシャフト子爵様、ありがとうございます」
「はじめまして、子爵様」
ジェレミーが頭を下げると、赤毛のスマートな
「おお、君がジェレミーか。クリスから話は聞いてるよ。学校で
「こちらこそ仲良くしていただき感謝しております」
「ボーディガン家のご子息とばかり一緒にいるから心配だったんだ。親密なのは光栄なことだが、様々な人たちとの交流も将来の
義父と並んだクリスは照れくさそうにはにかみ、ジェレミーの耳元で「正装、よくお似合いですよ」と
「自分ではちょっといつもと違う格好だから
前世もそうだったが、正装はやっぱり肩が
「すごく大人びていて、目を
クリスもなかなかいいお世辞を言ってくれる。
「ありがとう。自信が持てそうだ。今日は楽しんで」
招待客の出迎えが終わると、改めて客人たちへ
一段落つくと、ジェレミーはクリスの元へ向かった。
クリスといると気心が知れている分、ほっとできる。
「楽しめてる?」
クリスは
「まだこういう場にはぜんぜん慣れなくて。すごく
「肩の力を
「ありがとうございます。……ところで、どうしてルーファス先輩はいらっしゃらないんですか?」
「色々あって招待できなかったんだ」
「残念ですね。ジェレミー先輩にとって大切な日なのに」
その時、場がどよめく。
「何だ?」
「行ってください」
「――男爵、悪いな。招待状をなくしてしまったんだが……当然、入れてくれるだろ。ジェレミーは従者だ。その成人を祝うパーティーに主人がいなければ、始まらない」
「!?」
黒いシックな夜会服に身を包んだルーファスが何食わぬ顔でいた。
思わずそのモデルのような姿に見とれてしまう。
その場の誰もが右手を胸に当てながら深々と頭を下げ、王族への敬意を示す。
無能者、王家の
あれだけ
「も、もちろんでございます……」
「安心した」
口元に満足げな笑みを浮かべたルーファスと、目が合った。
「……」
「殿下……?」
ジェレミーを見つめたまま何も言わないルーファスに、気まずさを覚えてしまう。
ルーファスははっと我に返ったように、
「……誕生日おめでとう、ジェレミー」
「ありがとうございます」
ルーファスはバルセットの元へ向かう。
自分より頭一つ分高いルーファスに見下ろされたバルセットは
「殿下、このたびは弟のためにお
ルーファスは
バルセットの顔が
「……クラバットが曲がっているぞ。まともに服も着られないのか?」
「も、申し訳ございません……っ」
ぞくりとするような低い声で言ったルーファスは、オイラスに微笑んでみせた。
「男爵。ジェレミーと二人きりになりたい。プレゼントを渡したいんだ」
「もちろんでございます。ジェレミー、
「僕の部屋へどうぞ」
ジェレミーは、ルーファスと一緒に二階に上がると、部屋へ案内した。
「オイラスの顔を見たか? 冷や汗でとんでもないことになっていたぞ。私への招待状を
ルーファスは悪役笑顔を見せ、
確かに招待状を
「殿下、いらっしゃってくださったのはすごく嬉しいんですけど、でもどうして? 招待状が出せないと知ってあっさり引き下がったのに」
「最初はお前の誕生会など行かなくとも構わないと思ったが……押しかけた時のオイラスの顔が見たくなったんだ。私を拒絶した男がどう反応するか」
(行動が少し悪役だ……)
「それにしてもプレゼントを渡すくらいであれば、わざわざ二人きりにならなくても……」
「お前があまりに
「分かりました……?」
「一目でな。お前は分かりやすい」
「そう言えば、子どもの
「そうだったか?」
「目を見れば、僕がどんなことを考えてるかが分かるって」
「忘れた」
ジェレミーにとって子どもの頃のことは大切な思い出だ。
昔の話だから仕方がないとはいえ、ルーファスが忘れていたのは少し
「ほら」
ルーファスがラッピングした手の平サイズのケースを差し出してくれる。
「ありがとうございます。開けても?」
「ただの
「殿下と同じ香り……オレンジ、ですか……?」
「
「ありがとうございます。香水って大人になったみたいです」
ルーファスは
「この本」
「子どもの頃、殿下が僕の誕生日を初めてお祝いしてくれた時のプレゼントですよ」
特別
それでも夢中で何度も
お陰でボロボロ。それを補修を重ねて
内容が楽しかったのはもちろんだが、それ以上に家族から
「こんな本、まだ持っていたのか。どれだけ物持ちがいいんだ。大した本じゃない。安物だ」
「値段は関係ありません。殿下から初めて頂いたものだから大事なんです」
「……物好きな奴」
「他のプレゼントも全部、取ってありますよ」
ジェレミーはプレゼントの数々を、ルーファスに見せた。
ペンや
「子どもの頃の私は相当、物好きだったんだな。従者にここまでするとは」
そう、確かにただの主従であればそうだろう。
でも当時、ルーファスとジェレミーは親友だった。
「ところで、これからどうされますか? クリスと庭を散歩しますか?」
「なぜクリスの名前が出てくる?」
「だって、クリスも招待客の一人ですから。会場にいましたけど気付きませんでした
か?」
「……そうだったか?」
「それでクリスとは」
「今日はやめておく。仮にもお前の誕生日だからな」
「そこは気にしなくても……」
「変に気を回すな。クリスとは学校でも会える」
「分かりました」
ルーファスらしからぬ反応にジェレミーは首を
ルーファスは
いつの間にかパーティーの主役はルーファスになっていたがどうでもいいことだ。
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