第5話
王都は歓声に包まれていた。
国王自らが玉座から降り、俺に黄金の勲章と莫大な褒美を差し出す。
「英雄タツヤよ、その望みを申すがいい」
俺は首を振った。
「金も地位もいらない。俺が欲しいのは、家庭的な奥さんだ」
ざわめく謁見の間。
だが俺は本気だった。
⸻
その夜、宿に戻るとアルトとハクが同時に口を開いた。
「タツヤ、聞いてほしい」
「アンタ、はっきりさせなさいよ」
先に言ったのはアルトだ。
「ずっと見てきた。誰よりも近くで、あんたの努力も、優しさも、全部。だから僕が一番、タツヤを幸せにできる」
続いてハク。
「私はフェンリル。誇り高き者は、ただ一人の伴侶を選ぶ。そして私は決めたの。アンタの隣にいるのは、私しかいない」
二人の真剣な瞳に、俺は頭をかきながら答えを探す。
⸻
「……ありがとな。正直、俺にはもったいないくらいだ」
一度深呼吸し、笑って言う。
「でも俺は、こんな俺を待ってくれる人と、ゆっくり歩いていきたいんだ」
沈黙の後、アルトとハクは同時にため息をついた。
「結局、はぐらかされたな」
「でも……それがアンタらしいわね」
⸻
◆エピローグ
翌朝。
新しいクエストの知らせを聞き、俺たちは再び旅立つ。
「ま、こいつらがいれば——悪くないか」
赤いポニーテールと、フサフサの白銀の毛並みを横目に見ながら、俺は静かにそう呟いた。
最強冒険者、婚活中につき。 珍 @tinTarou86
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