第1話「出会いを求めて飲み屋街へ」


俺は、王都の飲み屋街に来ていた。


目的? 決まってるだろ、嫁さん探しだ。


金はある、力もある。今さら魔王倒す気も世界を救う気もない。

俺の人生に足りないのは——そう、可愛い嫁さんだけだ!


そんな俺の夢を聞いて、知り合いの冒険者のオッサンが言ってきた。

「王都に、いい出会いがある店があるぞ」ってな。


……うさんくせぇとは思ったが、藁にもすがる気持ちで行ってみることにした。


ハク? あいつは家で留守番だ。

「ふ〜ん、私を置いてどっか出かけてくるのね……そう、行ってらっしゃい」

とイヤミたっぷりに言い捨てて、どこかにスタスタ走って行ったが……まあ、気にしない。


そして俺は、王都の問題の“飲食店”にたどり着き——絶望した。


女性は【時間無制限・飲食無料】。

男性は【時間制・課金制】で、口説きタイムスタート。


……ここ、異世界版・相席屋じゃねぇかッ!!


「マジかよ……俺、こんなんで嫁見つけんの……?」


そう思いながらも、諦めきれずに一人気合を入れ直していたそのとき——


「——あれ? タツヤじゃん。なにしてるの?」


背後から聞き慣れた声がして、振り返るとそこには一人の“イケメン”が立っていた。


赤い髪を一本に束ねたポニーテール。

男装の軍服風ジャケットに、長身スレンダーなスタイル。

ぱっと見、ただの美形男子。


……だが、コイツの正体は——女だ。それも、巨乳の。


名前はアルト・ベンダー。

昔モンスターに襲われてたとこを助けた縁で、ちょいちょい俺の所に顔を出してくる“元”令嬢だ。


「た、たまたま飯食いに来ただけだし!」

俺は慌てて言い訳する。まさか嫁探しに来たとは言えない。


「ふふっ。そうなんだ? じゃあ、一緒に食べよ? 僕、今からパーティーメンバーと合流するところだったし♪」


返事を待たずに、俺の腕を引っ張って歩き出すアルト。


……強い。物理的に強い。


そしてその途中、なぜか白銀の毛玉が俺の足元に現れた。


「……ハク? お前、なんでここに」


「たまたま見かけたから来ただけよ?」


フッと鼻で笑ったフェンリル(子犬サイズ)と、横を歩くアルトの視線が一瞬交錯する。


バチバチッ……!


——空気が、凍った。


え、なに今の? 殺気?


……いやいや、気のせいだよな。俺、幻でも見てるのかな。


「ま、いいか。飯、飯っと……」


ハーレム? そんなのは諦めた。

だけど……やっぱり嫁さんは、欲しいんだ。

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