異世界野球 ~マネージャー志望は合格不可能の入団テストを受ける~
嗚呼昏々懇親会
第1話 ビースニャーとエリーフ
「お、お願い! ここのマネージャーになりたいんです!」
「あーそうかい」
「わたしたち、『野球』が好きなんです!」
野球。
それは十五年前、世界中で復活を遂げた。
古文書によると勇魔戦争時代の出生不明の戦士が考案したらしい、主に球と棒を使用した神話のチームスポーツは留まる所を知らぬ大流行を見せたのだ。
それは某国の主要都市のひとつであるこの街、ライスアンドボウルシティも例外ではなく、その証拠として最新技術の粋を集めた壮観なドーム型球場が近代的な街並みの中心部に鎮座している。
その関係者入口と書かれた扉で二人の少女が声高に長身の男に訴えていた。
紺色の制服に身を包んだ男はどうやらこの球場の警備員らしく、開けられたガラス戸の前に立って二人の入場を阻んでいた。
「……そりゃ見ればわかる」
「え?」
「そのなりで好きじゃなかったらどうかしてるだろ」
言われて二人は首を下げて自分達の恰好を改めて見直す。
二人が着ていたのは、縦にストライプが入ったどこかの野球チームのユニフォーム──を模したシャツ。どこからどう見ても野球ファンだ。
「あら。そういえばそうでしたわ」
「観戦なら正面のゲートに行くんだな」
「ち、違いますっ。チームで働きたいんです!」
ボサボサ黒髪の少女が拳を握って言う。
「あの……私ムスビって言います! ちゃんとルールだって分かりますし……あ、あと道具の手入れもできます! グランドの整備だって!」
続けてもう一人が、ボリュームのある髪と胸を揺らして、
「わたしはユーラですっ。ムスビちゃんみたいになんでもできる訳じゃありませんけど、それでも、こちらのチームのお役に立ちたいんです! お願いします、どうか中に入れさせてくださいっ!」
目元を潤ませて二対一で必死に迫るものの警備員は馬耳東風のあり様で、二人に見向きもせず特徴的な形の耳の中をほじり、指に息を吹きかける。
「はいはい。それじゃあ諦めてさっさと帰りな」
「そんなあ……」
「ほれ。回れ右だ、犬っころ」
「どうかお話だけでも聞いてください!」
辛抱強く頭を下げ続ける友人を見て、気の弱そうな方はぐっと拳を握る。
僅かな勇気と共に一歩踏み出して男に急接近。胸倉を掴んできそうな勢いに彼は「うお!」と思わず声を上げた。
「な、なんで……なんで私たちじゃ駄目なの!? ここの球団、スタッフ募集してるでしょ!?」
真っすぐな目に男は後ろめたく視線を泳がせて、やがて溜息と共に言い放つ。
「そりゃあ、だって、お前ら……『エリーフ』じゃねえだろ」
エリーフ。それは彼の種族の名前だった。
『エリーフのように美しく』、『エリーフのように賢く』、『エリーフのように優れる』。そんな慣用句が使い古される程に優秀で、世界をけん引する種族だ。
その特徴が、毛のない尖った耳と、陽光を連想する爽やかな髪色。
なのだが、
『ぺたん』
彼女たちの感情を無意識に表して可愛らしく伏せられるその耳は、確かに尖ってはいるものの警備員とは違って頭上に付いており、そして髪色の体毛に覆われた動物特有のそれ。誰がどう見ても立派な獣耳である。
「『ビースニャー』――いわゆる獣人だな」
「そっ……そう、ですけど……それの何が駄目なんですか?」
「お生憎様。ここはエリーフ以外お断りだ」
「エリーフの方以外はいらっしゃらないんですの?」
「ああ、そうだ。別に観戦に来ただけのファンなら止めないが……」と言って警備員は指折り数え始め、
「売り子のバイトだとか球団職員だとボールボーイだとか。トレーナーもスカウトもコーチも審判も選手も。それからメディア関係者と、お前らみたいに仕事に応募しに来た奴も。全てエリーフ以外お断りなんだよ。お偉いさんの指示でな」
悪いな、と大して悪びれずに男は言う。
あまりの誤算にユーラは見るからにしょぼくれて、ムスビは何故か頭から湯気を出して気を失ってしまう。
そんな彼女らの後ろから、革靴の音と共に一人の男が警備員に声をかけた。
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