第35話「ルルとの契約」
バジリコ三姉妹と共に、ルルを助け出した後、俺はルルと一緒に、地球へ帰ることにした。
バジリコ三姉妹もついて来ようとしていたが、拷問でふにゃふにゃになったハラペーニョを継いで《PIЯI PIЯI》の実権を握る、タバスコ夫人に呼び出された。今回のハラペーニョの浮気を報告したことと、奇抜なポップコーンの手柄で、夫人に気に入られ、昇給することになったらしい。
自分の部屋に帰ると。かなりの時間が過ぎた気がしたが、着いた時間は、ルルを助けに行った時から進んでいなかった。
「久々って感じだな」
「うん。やっぱりここが落ち着くね。カナメくん本当にありがとうね」
「なんだか疲れたな、寝ようか」
その日の夜は、ルル奪還の興奮と疲労でぐっすり眠った。ハラペーニョ大佐のことは、タバスコ夫人が処理してくれるという安心感があった。
翌朝、学校でヒナとデートの打ち合わせをした。予定通り、ルルと行った遊園地に翌日行くことになった。
その夜、バジリコ三姉妹が俺の部屋に顔を出し「昇給パーティーだ!」と騒ぐのを尻目に、俺は翌々日に迫ったヒナとのデートの準備をしていた。
そして、しばらく談笑した後、三人を明日早いからと言って帰し、ルルと二人きりになったとき、ルルが口を開いた。
「カナメくん。明日、いよいよヒナちゃんと会うわね」
俺はドキリとした。ルルの表情は、いつもの明るい笑顔ではなく、どこか覚悟を決めたような、切ないものだった。
「そうだよ。ルルと遊園地下見してるから安心だよ、キスまで行けちゃうかもな」
「そっか、私の指導もいよいよ終わりかな」
「終わり?」
「そう、お別れ」
「ヒナちゃんとキスしたらってこと?」
俺が尋ねると、ルルは悲しそうに微笑んだ。
「その通りよ。私のラブマスター契約の終了条件は一つ目、『対象者の恋愛が安定期に入った時』。ヒナちゃんとキスをしたり、それ以上の行為で愛を確かめ合ったりしたら、私の任務は完了なの」
俺は全身から力が抜けるのを感じた。
「じゃあ……ヒナちゃんとキスをしないで、今のままの距離感を保ってたら……俺たちは、ずっとこのままでいられるのか?」
「それは、カナメくん自身が恋愛の進展を拒んでることになるから、これ以上の恋愛指導の必要はないとみなされて、やっぱり契約終了になっちゃうの」
「契約が終了して、お別れってなっても、遊びには来れないのか?」
「無理だよ。ラブラブ星とここの間のワープ道が無くなっちゃうから、もう来れなくなる」
その時、押入れのあたりに空間の扉が開き、バジリコ三姉妹がまた帰って来た。
「それ、本当かよ!?私たちも来れなくなるじゃん」
「せっかく、カナメ様とこんな仲になれたのに、耐えられないですわ!」
「イヤっす。絶対別れたくないっす!何とかならないっすか?」
「お前ら、帰らないで俺たち覗き見してたのかよ」
ツッコミにも覇気が無かった。一体どうすればいいのか頭がぐるぐる回っていた。
「……一つだけ、方法はあるわ」
ルルは、三姉妹の言葉を遮るように、静かに、そして真剣な瞳で俺を見た。
「カナメくんが、もしヒナちゃんではなく、私を選んでくれたら」
「ルルを……?」
「そう。カナメくんが恋愛マスターである私への愛を認め、地球の全てを捨てて、私と一緒にラブラブ星へ来てくれるなら、特例として契約自体は恋愛成就として成立するわ。この場合でも、地球へのワープ道はなくなっちゃうから、カナメくんはもう地球に帰れなくなると言うのが難点ね」
ルルの言葉は、俺の頭の中に三つ目の、そして最もハードルの高い道筋を突きつけた。
それは、ヒナへの愛、家族、地球での全ての日常を捨て、ルルと三姉妹との繋がりを選ぶという、究極の選択。
ラヴィーナ「頼む!カナメ、そうしてくれ!それなら私たちともずっと一緒にいられるんだろ?」
マルティナ「カナメ様、一生あなたに尽くしますからご決断を。給料の上がったバジリコ家に婿入りすると思ってくださいませ!」
リリカ「カナメっち!一生私とラブラブで異世界格闘ごっことかして遊べるっすよ!頼むっす!」
ルルは、顔を真っ赤にして叫んだ。
「外野は黙ってて!私のために、来てくれるって事になるんだからね!そっちはただの浮気勢じゃない!」
ラヴィーナは鼻白んだ。
「ルル!お前、せっかく助けてやったのに、偉そうに!」
「ごめん、地球ごと捨てるとか、そう簡単には言えないよ……明日まで考えさせてくれ……」
俺のその言葉を聞いた瞬間、ルルと三姉妹の顔に、一瞬の失望と深い悲しみが広がった。
ルルは、悲しみを隠すように唇をきつく結んだ。ラヴィーナは露骨に不満そうな顔で天井を仰ぎ、マルティナは表情を変えずに「やはり、そうなりますわね」と低く呟いた。リリカは、今にも泣き出しそうな顔で、俺の服の裾をぎゅっと握りしめた。
俺はずっと頭を抱えたままだった。
ルル、ヒナ、バジリコ三姉妹。そして地球。
もはや俺にとって、「捨てられるもの」などないのだ。
明日のデートは、俺自身の恋の結末を、そして俺の人生全てを決めるものになる。
答が決まらなくても、もう逃げ場などどこにもなかった。
それでも、その時の俺はまだピンと来ていなかった。
明日が、俺たちの物語の最後の夜になるかもしれないということを——。
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