札束で殴りあうスポーツ

★この作品は同一お題で書こう「札束で殴り合うスポーツ」参加作品です。


 ドーピング上等のエンハンスト・ゲームズから十数年。
 

 さらなる刺激を求めた人類は、肉体改造も外部モジュールも何でもありの【超】エンハンスト・ゲームズをマカオで開催するに至った。

 義肢、義手、義眼、思考補助システム──金さえ積めば、かつての人類の記録など紙くず同然。
要するに、札束で殴り合うスポーツだ。

 

 アンドロイド同士のスポーツゲームも存在したが、性能はまだ発展途上であり、人間の素体のほうが試合運びは遥かに高度だった。

 悪趣味なことではあるが、改造の負荷がトップ選手を壊すこともゲームの醍醐味であった。

 

ピストル射撃・予選。
 

 五番目の選手は優勝候補、重課金おじさんこと、A国のユースフ・ディカーン。
高性能センサーを内蔵した右眼と、それと連動する義手が、的を正確に撃ち抜く。

 待機ブースにいるのは、不敵な笑みで出番を待つ慈石恭司じしゃく きょうじ。次世代リニア開発を担うエンジニアでもある。


 今回、慈石には秘策があった。それはリニア実験の偶然の副産物──小型の強力磁場発生装置。
これを使えば、ユースフのセンサーや義手の動作を撹乱できる。

 一人を潰したところで入賞は望めない。

 
だが、慈石の目的は勝利ではなく、金だった。依頼主は、ユースフの宿敵たる某国のライバル選手。


「悪く思うな。娘の塾代だ。」

 ユースフが引き金に指をかけた、その瞬間。
 慈石は静かにスイッチを入れた。

 

 ブゥゥーン……と装置が唸りをあげ、磁場が空間を揺らす。

 ユースフの姿勢が僅かに揺れ、放った弾丸は、一瞬わずかに右へと逸れた。が、次の瞬間、まるで意志を持ったかのように弧を描き、待機ブースの慈石の心臓を正確に撃ち抜いた。


「情報を買ったかいがあったな……」

 

 ユースフは振り返らず、義眼のセンサーをリセットした。

 事前に慈石の情報を掴んだユースフは弾頭を鉛ではなく鉄に変えていた。


 背後のブースに医療チームが駆け込むが、脈は無さそうだ。


「札束で殴るスポーツ、か。」


 磁場が消えたのを確認して、ユースフはゆっくり二発目を放った。

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