まりまり短編集

馬渕まり

SFの巻

センチメンタルアンドロイド

★この作品は同一お題「センチメンタルアンドロイド」で書こう参加作品でした。


 机の上で楽しそうに踊るアンドロイドを見て、僕は今夜の献立を考えた。現実は見たくない。一寸法師か親指姫か、アンドロイドの体長は数センチ。


 こいつの生みの親、島原博士は天才だが色々と抜けている。

 AIの発達でアンドロイドが様々な感情表現をするようになった昨今、富豪からの注文は『センチメンタルアンドロイド』……そしてここに居るのは『センチメートルアンドロイド』。

 こんなに小さいのにちゃんと笑うし、悲しむし、嫌味まで言う無駄な高性能。


 莫大な資金を注ぎ込んで作ったはいいが、依頼の品とは別のもの。仕方がないことだが代金は支払われず、うちの研究所には多大な借金とコイツが残った。


「どうした、相棒?しけた面しやがって。」 


 チビが僕の顔を覗きこむ。お前のせいだよ全部。ため息が出る。

「お金が無いの!光熱費もあやしい!無駄に踊るのやめてくれよ、エネルギーが勿体無い。」

 僕は不機嫌に机を叩いた。チビは大声で笑った。

「金が無いなら稼げばいいじゃん。俺は天才博士が作ったアンドロイドだぜ?」

 チビは小さな胸を大きく張った。

「何ができるのさ?」

「ベッドの下に落ちた物を取るのはお任せ!」

 うん、木の棒で事足りるやつだね。


 色々考えたけど、結局、僕たちは配信を始めた。小さなアンドロイドがちょこまかと動き回る様子は可愛らしいがCGと大差はない。

 それでもチビの毒舌が少しうけた。


 光熱費くらいの微妙な入金を見ながら僕は大きくため息をついた。


「ほら、相棒、ほらしけた面しない。すっごい発明を思いついたんだ。」

 

 食パンを齧りながら博士が部屋に入ってきた。チビの親だけあって口癖が似ている。その焼かない食パンはおいしいの?僕には味が分からないけど。


 博士は宅配便のダンボールから新しいバッテリーを取り出し僕に投げた。

「取り付け口は背中だから、自分じゃできないって何度言ったら分かるんですか!」

 僕はシャツを脱ぎ後ろを向いた。

「ごめん、ごめん。記憶は全部お前頼りだからね。」


 博士は笑いながらバッテリーを取り替えた。僕はずっとこの人の世話係かと憂鬱な気持ちになった。


 ──僕はこんなにメランコリー。いわゆるセンチメンタルアンドロイド。


「お金が無いなら僕を売れば良いじゃないですか。注文通りの品ですよ。」

 博士は食べかけの食パンをまた齧りながら言った。

「それなら俺の腎臓を売るさ。」


 僕は知っている。博士が僕を手放さないことを。


 ──僕はアンドロイド。


 博士のせいで、センチメンタルにはなりきれない。

……それが少しだけ、嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る