白衣のエンジェル!

@Minoru_Suginomachi

第1話 沢江さんと横内くん

 向日葵が揺れて、垂直に落下する。

 その微細な揺れは陽にねむる静けさと暖かさを表している。

 残った管状花のあつまりと舌の花は、薄く色褪せながらも風に靡かれていた。

 花瓶に挿されたその花々は、しかし何もそれを遮るものなく孤高に咲く。

     ♦︎

 病棟内に溢れるひだまりは、そこで暮らす患者と医療従事者をまとめて包みあげ、今日という日をいっそうに素晴らしく演出していた。ぴぴぴとさまざまな医療器具が鳴るナースステーションには、忙しくもゆっくりと進む時間が湛えられている。受付に鎮座する医療事務の山内はパソコンから目を離すと、目と目の間を揉みながら額を天井に向けた。

「よお、山内。元気か」

 山内が目を開けると、海道が彼女を見下ろしている。

「はい。元気です」

「小学生かよ」

「はい。小学生です。学校に行かせてください」

 海道は山内の顔面にぼふっと資料を置いた。

「仕事やってからな」

 海道はそういうと、ナースステーションを去っていった。


 海道の背中を見ながら、山内は思う。

 海道は看護師なのだ。

 山内には看護師に特別にキリッとしたイメージがあった。さっきのようなことが起きたら資料ぼふっ、どころか、ハンマーか何かで頭をぶん殴られるのではないか。

 しかし、実際は違うと知った。

 海道を見ていると、そう思うのである。

 海道はエレベーターに入っていった。それと同時に、横内が降りてきた。

「あ」

 山内は、”横内くんだ”と思った。

 横内はナースステーションに入ると、「山内さん」と、声をかける。

「どうしたの?」山内は答える。

「沢江さん知りませんか」

 横内は自信なさげにオドオドと聞く。この子はいつもこんなだなあ、と山内は思う。

「ん、沢江ちゃんなら患者さんの様子を見に行ったからここにいたら会えるよ」と山内が答えると、「ありがとうございます」と横内はお辞儀をする。そして中央に据えられた大きな円卓に向き合い作業を始めた。

 横内も看護師なのだ、と山内は改めてその存在を認める。実に看護師とはさまざまな人間がいるのである。

 しばらくすると、沢江がナースステーションを窓から立ち止まって覗いていた。それは横内を見て止まっているように見える。山内は、沢江がいつもするその動作がわざとらしくて気に入らない。

 【入るなら早く入ってきなよ】

 山内はジェスチャーをした。沢江はそれを一瞥すると、ナースステーションに入る。沢江が入ると周囲は目を光らせ、2、3個ほど紙袋を彼女に押し付けるようにして渡す。

「これ、さっき休憩中に買ってきたお茶菓子!」

「患者さんにもらって寄せておいた和菓子!」

「食べて!」

 沢江は夜の波ひとつない海のような表情で、それらを見つめていた。そしてケーキを口に運び噛みしめて飲み込むくらいの時間が経った後、「これ、あげます」と横内に全て渡した。

「たまにはあなたも食べてください」

「ぼ、僕ですか?」と横内は自分のことを指差して驚いた。

「あなた以外にいますか?」

 その聞き方もあまり気に食わない、と山内は思う。

 横内は「わ、わかりました」と言って全て受け取った。そして沢江は受け取ったものをじっくりみる横内を見つめている。それに対して山内は「さっき、海道が探してたよ。早くいってあげなよ。多分上の階にいると思う」と言った。「水を差すようで悪いけど、伝えたから」

「水を差す?」と沢江は言うが、わかった、とそれに従う旨をみせて、エレベーターの方へ向かった。

 

「あ」と横内は山内のとなりで、エレベーターに乗り込む沢江さんを見ていった。

「沢江さんに相談すんの忘れた…」

 あ、と山内もつぶやいた。

 


 

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