それゆけ!村松くん

@mtmjdj

第1話 セボン!!


港区の某タワーマンションの53階。

ここは俺の城だ。名は村松セボン。肩書きは「港区トレーダー(無所属)」。5枚並んだモニターに囲まれ、日々FXや株と死闘を繰り広げる孤高の男だぜ。下界の家々を見下ろしながら、優雅にセール品の激安高カロリーカップ麺の残り汁すすり、キメ顔でつぶやく。

「俺の生活、勝ちすぎてすまん」

だがその日は違った。

開幕ロスカット。昼にナスダック暴落。夕方にはウクライナ情勢のニュースで金も沈む。

「セボン!!」

そして夜。俺はいきつけのキャバクラ「Clubエンペラー」に入店をする席についた瞬間、いつもの嬢が言った。

「えー、また来たの?先週の未払い、まだだけど?」

ざわ…ざわ……。(ガイジ)

空気が一変する。

「お、おう。今日は勝ったからよ。ドンペリ白と黒、あとピンクな」

すると嬢は冷静な口調で

「ピンクなんてドンペリないですよ」

「えっ」

会計は178万円。カードは限度額を迎える。ビットコインは大暴落。

「どうします?今日、皿洗い体験とかされます?」

「セボン!!」

プライドの高さからさせて下さいとは言えなかった。哀れな俺様だ。


そして翌朝。

玄関前に、管理会社の貼り紙が。

「強制退去のお知らせ(※深夜2時にドンペリの瓶で壁を割った件も含む)」

モニターを仕方なく売却をする。家具もフリマアプリで全て売却。最後の手段として、ふるさとの母に泣きついた。

「村松家はタワマンじゃないけど、柱はちゃんとしてるよ」

そう言って母が通されたのは、築45年、傾き気味の2階建て。ふすまが閉まらない部屋で俺は呟いた。

「結局……俺の人生って、なんだったんだ……」そのとき、スマホに通知が鳴る。

メルカリのモニター5枚セットが購入者から「動作確認できず、返品希望」

俺は天を仰ぎ、こう叫んだ。

「セボン!!!!」

結局実家暮らしの無職に俺はなり親の年金をあてにキャバクラの借金を返している。ああ来月の15日が待ち遠しい。今日もネットの掲示板に固着し一日中発狂。しかしこれが金の無い俺の唯一の娯楽なのだ。セボン!!


これ以上続ける価値は無いのでおしまい!

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