少年から大人へ変化する佐助と見守るタロ

 佐助は、じさまがしていたように獲物に感謝をささげ、自分とタロが生きていくに必要なだけの肉を得ていた。

 銃を維持するためには、やはりそれなりの金もかかったが、肉だけが糧となるわけではない。


 山は山菜を与えてくれる。鳥の羽や鹿の角は、侍が身を飾るのか家を飾るのか知らぬが、それなりの金になる。時に貴重な薬草を手にして、意外なほどに懐が潤うこともある。


 佐助は、そういったものを里へ卸すときには、必ずタロを連れて行った。

 美しく従順なタロを見せつけたかったわけではない。ただ、自分のそばにはタロがいるのが当たり前だった。


 山の生活では、銃を手入れし、その玉と火薬を手に入れる以外に欲しいと思うものはない。


 だから思ったより金が入ったときには、食べてみたいものに手が伸びるのが常であった。

 魚は、海の魚より川魚の方が好きだった。どうもあの潮臭さというか生臭さが気になってしまう。それでもやはり塩は必需品で、これだけは必ず購入するものであった。


 そういうわけで、物珍しいのは菓子というものになる。

 例えば餅。これは菓子というよりは正月の御馳走になるのだが、頻繁に食べられるものではなかったから、つい買ってしまう。


 買う時は、自分とタロとできちんと半分こだ。


 餅のほかには団子というものもうまかったけれど、タロがにっちゃにっちゃと食べている様子はうまいのかまずいのか良くわからなくて、それほどこだわりを持つことは無かった。


 まだまだ幼いと言える佐助とタロは、言ってしまえば里で暮らすことのできない二人だった。


 朝、山を下り里についたばかりというのに、日暮れ前には山へ戻りたくなる。


 里の者は、日が暮れて動くのは危ないから泊っておいきというけれど、日頃から暗闇の中で生活している二人には何が危ないのかさえ分からなかった。


 しかし、佐助がそれなりの年頃となった数年前からは、金の使い道が増えてきて様子が変わったのは明らかだった。


 佐助は所詮田舎者だ。それも、金はあるのにその使い道を知らない。つまりは、その道の女たちには良いカモだった。


 タロは店先でおとなしく待ってはいる。けれど、事を終えて出てきた佐助を見るまなざしは、何かもの言いたげであった。


「なんだよ、待たされて文句言いたいのか? いや、俺ばかりじゃ割に合わないよな。タロだって雌犬がいればそんな面しないだろ」


 照れ隠しも兼ねたそんなセリフを、タロはすっとかわす。

 本当に、興味はないと言わんばかりに目をそらす。


 そして、山へ帰ったその晩にはたった一頭であの崖に行き、深く切ない遠吠えを奏でるのだった。


 佐助は、それが少し気に入らなかった。


 俺がいるということは、ととさまもかかさまもいたからだ。

 そして、あの無口なじさまにだって女がいて、かかさまが産まれた。


 俺が女を求めたからと言って、誰にも何も言う権利はないはずだ。

 それは、タロであったとしても。

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