日常に潜むもの
みー
茹子(ゆでご)
怖い話が聞きたい?
夏だからね。そういう趣味、あんまり良くないよ。まあ、いいけど……。
茹子(ゆでご)って知ってる?
ああ、茄子(ナス)じゃないよ。茹でるに、子供の子。ゆでご。
パッと見、女の子の名前みたいだけど——ゾクッとするでしょ?
小さい頃、夏休みに田舎のおばあちゃんの家に帰ったんだ。
あの時は、家の裏で遊んでた時だったかな。泥まみれの、白い軽バンを見つけたんだよね。
そう、田舎道を走ると車ってすぐドロドロになるよね! 分かる?笑 そんな感じ。
「おばあちゃん、軽バンなんて持ってたっけ?」って思いながら、つい中を覗いちゃったんだ。
そしたらね、何が乗ってたと思う?
……まっ黒焦げのぬいぐるみ。
そのすぐ横に、小さな手の跡がついてた。
私、びっくりしちゃってさ。一目散に逃げたよね。
その晩は、全然眠れなかった。
なんで眠れなかったかって?
そりゃ、あの軽バンが怖かったのもあるけど……裏から、「ガタ、ガタッ」って音が聞こえたんだよ。
それだけじゃない。子供の声が、ブツブツと……。
夢だと思いたかったけど、身体は動くし、目も冴えてて……現実だった。
翌朝。
怖いくせに、どうしても気になっちゃってさ。朝ごはんのとき、おばあちゃんに聞いてみたの。
「ねえ、裏の軽バン、誰の?」って。
そしたら、おばあちゃん——箸を止めたまま、しばらく黙ってたの。
で、「ああ、あれね……」って、ぼそっと言ったんだ。
「あれはもう、乗っちゃダメだよ。あの車には、茹子がいるからね」って。
……え? ってなるよね。茹子?
「茹でる子……?」って聞き返したら、おばあちゃん、ちょっと苦笑いして、
「本当の名前は、結子(ゆいこ)ちゃんだったの。でもね……」って、話してくれた。
その子、まだ4歳くらいのとき、母親に連れられて村に来てたんだって。
真夏の日で、母親は「ちょっとだけ」のつもりで、エンジン切ってコンビニに入ったんだ。
で、戻ってきたときには、もう——
結子ちゃん、茹でられたみたいに真っ赤になって、息をしてなかった。
それからなの。
その車、誰も乗らないはずなのに、裏の納屋に勝手に戻ってきたり、真夜中にエンジン音がしたり……
助手席に、誰か座ってたり。
村の人たち、怖がって、とうとう「茹子」って呼ぶようになったんだって。
……あっ、この茄子の焼き浸し、美味しそう〜。私これにする!
ねえ、何食べる?
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