第3話
―高坂文人―
―三限目―
俺の、存Bちゃんに対する認識を誤解されているかもしれないから、ここではっきりさせておきたいと俺は思う。
いや、存Bちゃんというのは、語弊があったかもしれない。
何故なら俺は、存Bちゃんがゾンビであるかないかということで悩み悶えているということをすでに行ってなどいない状況にあったからである。
そして、
そのことは、このクラスの人間全員にも当てはまることだった。
クラスの皆にとって存Bちゃんが正真正銘のゾンビであるかなど初めから些細なことでしかなかったのだ。
これが、どういうことなのか・・・皆には想像がつくだろうか?
存Bちゃんがゾンビだと知っていても・・・動じてなどいないということはつまり、クラスの生徒各々が、ゾンビに出くわしても動じないほどの、豊富な人生経験をすでに味わっていたということ・・・。
眼前を時速200キロは出てそうな・・・弾丸みたいなドッチボールのボールが、ボクチンの眼前を掠めていく。
今日の体育は、男女混合のドッチボール。
眼前では、死者が出てもおかしくないボールを、ゴリゴリに鍛え上げられた女子が不敵な笑みとともに、片手でキャッチしているそのまっ最中で(ちなみに、片手でキャッチしたその手からは、さも当たり前というように、摩擦による煙が立ち上っている)、次の瞬間にはきゃしゃだった男の子が、まるで、“これが俺の真の姿だっ”とでもいうかのように、自身をビースト化させ、体操服を引きちぎり、その見事な肉体を披露なさっているその顔面に、豪速球の弾丸(ボール)をぶち当てて、ボールともども、後方三十メートルくらいぶっ飛んでらっしゃるではないか。
そして、まるでサイボーグみたいな走り方をする少年がコンマ5秒のうちに未だ生きているボールの下に行きアクロバッドな動きをしたかと思うと、オーバーヘッドシュートさながらに味方にパスし、その傍らでは、今しがた吹き飛ばされていた少年が、溢れんばかりのオーラを発しながら、のそりと起き上がる。
味方からボールのパスをもらった少年は、ボールがムンクの叫びのごとく歪むくらいボールを固く握りしめながら、歪な笑顔とともにボールを放った!
・・・なにこれ?
今思い返してみると、最初からこのクラスにはやけにモヒカンだったり、リーゼントだったりする男が多いなぁなんて思ってたし、着替えの時にやけに、皆は大きな生傷が見受けられるなとも思ってたし、そもそも十代じゃない顔つきのが混ざっているし、この前やった身体測定でみんな握力八十以上たたき出してるし、中には暗視ゴーグルを常日頃からつけているものまでいるし・・・。
つまり・・・
ボクチンは勘違いしていたのだ。
存Bちゃんがやばいのではない。
このクラスそのものが、すでに・・・やばかったのだ。
こうなってくると、ポロリと存Bちゃんの頭が落ちたのに対し、“またまた存Bちゃんは、チャーミングなんだからっ”と、笑顔で女子生徒が存Bちゃんの頭を拾ってあげるワンシーンを目撃したといっても、納得してしまうというものだ。
ちなみに、宮田さん(存Bちゃんの頭を拾った暗視ゴーグルをつけている女の子)、あんたが首に装着させてあげようとしているのは、存Bちゃんの頭ではなくて、ドッチボールで使っているボールだ。
すでに、眼前には、いくつものクレーターが出来上がってししまっていて、そんなクレーターの周りでは、本来ただドッチボールをしているだけでは起きないはずの異音を発しながら数秒と立たないうちに、ボールがコートの間を行ったり来たりする。
最初から外野にいるという命からがらの処世術を披露している俺は、内野と外野を仕切るその白い石灰岩の粉が、この世とあの世を隔てる・・・死線のように思えてならなかった。
再度、青春のワンシーンを描写しているかとでもいうように、空中を舞う存Bちゃんの頭が、ボトリと地面に落ちる。
そして、それを青春の一ページとでもいうかのように、にこやかな笑みで見ている二年四組の面々たち。
それを、自ら拾って頭に装着する存Bちゃん。
クラスで唯一握力二十七という健全な値をたたき出しているボクチンは、皆から見た時に蚊ほどの存在感も放ってなどいない。
だが、それでも学校で一番やばい存在がこのコート上には立っていないのが唯一の救いだったのだろう。
顔面真ん中にどでかい傷を抱えたリーゼント、グラサンで決めている最凶の存在であるクラスの担任は、学校の敷地内を禁煙でありながら悠々と煙草をふかし、体育教師でもないのに、校庭前の二宮金次郎像の抱えている本の上をまるで椅子だと言わんばかりにどかっと座り、自分が受け持っている授業にサボタージュし、遠目でドッチボールを見ながら、
「今年も、中々粒ぞろいじゃのぉ・・・。」
そう意味深に、広島弁で吹かしていらっしゃった。
あぁ、平和で命の危険性がなかった一年生の頃が懐かしい。
あの頃は、目の前にいるビーストみたいな男の子が紛れていることもなければ、握力で二十七を出したところで疎外感を覚えることもなかった。
ボッチ飯を食うことは日常的であったけど、少なくとも命の危険を覚えることはなかったはずだ。
俺は、どこで・・・道を外してしまったんだ。
俺は今日をもって体育が生と死を分ける綱渡りショーの開催となるのだけど、それはまた別のお話。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
―放課後―
「私たちの誰かが指導するのがいいと思う。」
四人の机を円形にくっつけて円卓会議のごとく行われている話し合い。ブレッドのその一言が会議の決め手になる一言だった。
「確かに、存Bちゃんの絵のスキルを高めるには、それが一番だよなぁ。」
と、マーシー。
「ちなみに、現状ゾンビちゃんの指導係になりたい人は・・・?」
真っ先に手を上げたのは、以外にも普段何事にも無関心なブレッド。それに続いてマーシーも手を挙げる。
現状二名。存Bちゃんが不服そうに俺の方を見るが、すでに候補者が二名もいる現状で、気の進まない俺が手を挙げるというのは無神経というものだろう。
特に、普段無興味無関心無感動の権化と化しているブレッドが、腕をピーンっと伸ばして目を輝かせなさっていて、普段のあのクールさからは想像もできない様相なのには一抹の驚きを覚えた。
「じゃあ、俺とブレッドだと存Bちゃんはどっちに習いたい?」
ニコニコと慈愛に満ちた目で存Bちゃんを見つめるブレッド。
そして、
「ブレッドは嫌です!」
ポカーンとアホ面をした状態で石化の魔法がかかったかのように、ビキッという音とともに、彼女は硬直した。
「じゃあ、俺が教えるよ、存Bちゃん。」
「ハイッ、マーシー、よろしくお願いしますっ!」
マーシーと存Bちゃんが、完全に硬直したままの石像の横を素通りして机を合わせた。
俺は、何となしに地雷臭を感じ取って、一人距離をとることを決めたのだった。
「ちなみに、マーシーはどんな絵を描くんですか?」
「俺は、四コマ漫画がメインかな?」
「ほぉ・・・四コマ漫画。」
自身の画材を広げて、その内容を見せる・・・
「・・・。」
・・・が・・・、
「どう?・・・存Bちゃん?」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・・。」
「・・・ちなみに、ここに書かれているワンシーンは、どのようなものなの?」
「ああ、これはね、おばあさんが落とし物をして、それを高校生が拾っているワンシーンだ。」
「・・・。」
存Bちゃんが、一度自分の目をごしごしとこすって、再度凝視する。
「えっと・・・どれが・・・おばあさん・・・なんでしょう・・・?」
「これ。」
マーシーが指咲いた先には、つえをついて、風呂敷を背負った若干猫背の・・・・幼女がいた。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・えっと・・・・どれが・・・高校生・・・なんでしょ?」
「・・・これ。」
マーシーが指さした先には、セーラー服に身を包み、おばあちゃんの落とし物を拾っている・・・幼女がいた。
「???」
「どうしたんだ、存Bちゃん?」
真剣な表情でマーシーを見つめること五秒。
「マーシー、ムキムキなマッチョの男とかって・・・描けます?」
首をかしげるマーシー。
「もちろん、描けるさ。沢山デッサンしてきたからな。」
さらさらと書きあがっていく原稿。
それが進むにつれて、存Bちゃんの目からハイライトが消えていく。
程なくして、それは完成した。
ムキムキマッチョで、ダンベルを持ち上げている・・・・・幼女の絵が・・・そこには・・・あった。
存Bちゃんは、不安に己が瞳を揺らしながら、いまだに石化しているブレッドをスルーして、俺に助けを求めてきた。
―が、―
俺は存Bちゃんと目が合うや否や、さっと目をそらして、我関せずの低を保ったのだった。
―翌日―
「幼女幼女幼女幼女幼女・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
呪いの言葉を連呼しながら、猛烈に幼女の絵をかき上げている部員の姿がそこにはあった。
「幼女幼女幼女幼女幼女・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女の目からは、ハイライトは完全に消え失せ、瞳の代わりに、幼女と描かれているあたり、もう彼女は助かる見込みはないだろう。
「マーシー・・・どんな指導をしたんだ?」
「いや、俺は普通に絵の指導をしただけなんだが・・・。」
末期のロリータ症候群。適切な処置を迅速に行わなければ、大半が(社会的な)死に至ってしまう恐ろしい病。
「早く、処方箋を飲ませてあげなければ・・・」
存Bちゃんが戻ってこれなくなる・・・。
―瞬間―
ガキンッ!と何かが壊れる音。
その方向には、石化して久しい。ブレッドの姿。
よく見ると、顔の方の石化した部分にひびが入っていって・・・(というか、彼女は昨日から石化したまま、ここにとどまっていたのだろうか?)
みるみる、ビキビキビキビキッとそのひび割れが強くなっていき・・・
「ふんっ。」
ついに、石化していたブレッドがその呪縛から解き放たれたのだった。
「やはり、彼女を救えるのは私だけのようね。」
彼女は、ゆっくりと久々に娑婆の空気を胸に吸い込むと、慈愛に満ちた顔で、存Bちゃんに近づいていった。
「幼女幼女幼女幼女幼女・・・・・・・・・・・・・・。」
幼女を描きすぎたせいで、潰れたマメで青く染まった指に自身の手を添えて、耳元で聖母のごとく囁く。
「存Bちゃん・・・つらかったでしょ・・・?大丈夫。もうあなたは、幼女なんて・・・描かなくてもいいの。」
そして、ハイライトが完全に失われた瞳に差し込む、一筋の光。
「・・・ほんと?」
ゆっくりと、ペンの速度が落ちていく。
「・・・ええ。」
ブレッドは、ゆっくりと存Bちゃんの頭を抱きしめた。
「あなたを縛っていた幼女は、私が浄化しました。大丈夫。あなたはもう、いつだって、あなたの好きなものを描いていいのよ?
「私、もう、幼女・・・描かなくても・・・いいの?幼女が幼女を幼女しなくても・・・みんな幼女なんて・・・しないの?」
「大丈夫。幼女が幼女しなくても、あなたは幼女になんてならないわ。もしもの時だって心配いらない・・・、私が守ってみせるから。」
存Bちゃんの両目から流れる涙。まるでそれは、人生の大半を薄暗い部屋で軟禁された少女が、久々の太陽を見て、涙したかのような純粋なものだった。
こぼれる一つ一つに、幼女と刻まれた涙、彼女の体から、彼女を縛っていた幼女が抜け落ちていく。
だんだんと、ハイライトが戻っていく目、その姿は、まったくもって奇跡と言ってさし違いない。
致死率百パーセントと恐れられていた死の病。
しかし、目の前の奇跡が死の病を打ち砕く、その可能性の欠片を我々に見せてくれていたのだった・・・・(?)
―ということで・・・―
今日は存Bちゃんとブレッドの机が合わさる。
「じゃあ、まずはスカートがめくれた時の綺麗な描写の仕方から・・・」
10センチ離れる机と机(開始八秒)。
「ちょっと、ズボンじゃパンチラは描けないわよ、存Bちゃん!」
さらに引き離れること10センチ(開始三分三十五秒)。
「どうも、調子が載らないわね、ゾンビちゃん、モデルとしてその扇風機の横に立ってもらえるかしら?」
―プチンッ―
存Bちゃんの中で何かが切れる音・・・
そして、
存Bちゃんがゾンビのごとく俺のもとにやってくる。
「お願いです、文人君、私に絵の描き方・・・教えてください。」
こうして、存Bちゃんの指導係として、部活でも存Bちゃんの指導をすることになったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
―帰り道、存Bちゃん―
河川敷の下にたどり着いた。近くに海が迫っているからだろう、若干潮の香りを感じる。
河原と土手を結ぶ階段の中ほどで、独りぼぉッと川を眺めていた。
この場所なら、誰かの迷惑になることもない。無意識のうちに川に石を投げ込む。
―ドボンッ―
若干そこから泡が上がって、すぐに消えてなくなる。
虚しいものだ。だからもう一つ投げる。
―ドボンッ―
やっぱり・・・虚しいものだ。
何度やっても・・・そこに意味はない。
階段になっているそれに、横たわってみる。平らになっている部分じゃなくて、階段の下から、上に向かってだ。
階段になっている部分が凹凸になって、痛いのか、気持ちいいのかはよくわからない。
橋を下から見てみると、鳥の巣とかがあって、きっと、橋の上しか通らない一般的な人は、自分たちの足元にも、誰かが呼吸をしているのだということに気づくことはないのだろう。
・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何をやったって無駄だと・・・やっぱり思ってしまう。
ペンギンが頑張ったって空を飛べないように・・・。
私たちは、人間にはなれないのだから。
消えることが分かっていても、石を投じることに意味はあるのだろうか?
消されると分かっていて、もがくことに意味はあるのだろうか?
私には、あと何日・・・残されているの・・・かな?
そんな、黄昏を味わっている時だった。
「あなたが、存Bちゃんですね?」
誰かに声を掛けられる。
そっと、首を横に向けると・・・何かの見間違いだろうか?
メイド服を着た女性が立っている。
私は、折角の尋ね人に失礼がないように、自分の身を起こした。
人と話すのは、好きだ。
髪は、青みがかった緑色で、ポニーテールにくくられている。そして、右目の下にはタトゥーみたいなものが彫られていた。事前の学習プログラムでインプットされた情報の中で考えると、何となしに、エルフをほうふつさせるいで立ちだなと思った(耳は普通の人間のそれなので、普通の人間だろうが・・・)。
その人は、ニコッと笑うと、
「安心してください、私は別に追手ではありませんので。」
びくりと震える。
“なぜ・・・?”
ニコニコと笑ったままなのが、逆に怖かった。
そして訪れる、若干の静寂。夕暮れが、夕闇へと移りつつあった。
「もしよかったら・・・、」
太陽が、その三分の二を隠したごろだったろうか、メイドさんが口を開いた。
「私たちの店で、住み込みで働いてみませんか?」
「・・・え?」
私は、メイドさんから発せられた言葉が、あまりにも予想とは外れたものだったので、思わず素っ頓狂な言葉を返してしまった。
「残念ながら、ルール上あなたのストーリーに介入することは許されていません。」
だけど・・・
「あなたがこのストーリーに打ち勝った時、あなたに居場所を与えることは・・・できると思うんです。」
まるで、全てを見透かしているかのような言葉。
メイドさんが私に紙切れを渡してくる。
「そこに、店の住所が書かれています。よかったら、来てみて下さい。」
その紙を、ポケットにしまう。そして、顔を上げたそこには・・・
もう、誰もたってはいなかった。
「居場所・・・か。」
そんな場所・・・本当に・・・あるのだろうか?
私は、もう一度、石を投げ込んだ。
―ドボンッ―
やっぱり、泡はすぐに消えてなくなった。
私は、そこから動けないまま・・・
太陽が、沈んでいった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
―とある研究施設―
「くそっ、なぜ、おとなしく殺処分を待てなかったんだ。」
とある研究所の一室。
「起爆するべきだと思います。」
「いや、しかしあれには、間宮博士の隠された何かが・・・。」
「間宮博士があの子を守るために言ったデマという可能性は?」
「あれは、政府の視察団が来る前の発言だ。その可能性はない。」
漏れる溜息。
「では、どうするのです・・・。もしあれが、別の研究機関にでも渡ったりしたら・・・。」
「あと数日。あと数日、間宮博士の研究室を探してみては・・・?もしかすると、あれの研究資料だって残されているやも・・・。」
「もし、その間にほかの研究し施設のもとにわたってしまったら?あの子の容姿は、とりわけ目立つ。その時は、だれが責任を取るのです・・・?」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「仮に捕らわれたとしても、すぐにそれを知ることなど、できるわけがない。我々が、まったくもって歯が立たなかったように・・・。」
「間宮博士のオリジナルを消すのは、あまりにも惜しい。消すのは最後の手段でいいはずだ。」
「・・・。」
「それに、責任を取る人ならいる・・・間宮博士がな。」
「・・・。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
―数日後―
―高坂文人―
―放課後―
「四月も、そろそろ、終わりだなぁ。」
放課後の教室で、マーシーがなんとなく憂鬱そうにそういった。
「早いものですなぁ。」
これは俺。
「そういえば、去年のこの時期、みんなで目標とか決めあったよなぁ。」
「そんな時期もありましたなぁ。」
「みんなは、今年の目標とかあるのかしら?」
「そういう、ブレッドはあるのかよ?」
「勿論、私は存Bちゃんと愛を深めることよ。」
「即刻代えてください。」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。」
「・・・。」
「マーシーはどうですか?」
「うーん・・・今年もプレハブ小屋が取り壊されないことかな・・・。」
「「「・・・。」」」
「文子氏は、どうだ?」
「俺は、少しでも二人に近づけたらと・・・。」
「「ま、頑張りなさい。」」
「(涙)」
「存Bちゃんは・・・ある?」
「私は・・・」
一拍
「私は、みんなと、星を見に行きたいですっ!」
「星?」
「はい、みんなと行きたいんです。」
「そう、それならそうと言ってくれればよかったのに、今日二人で見に行きましょう。」
「いえ、ブレッドは、みんなに含まれてないので。」
「!?!?!?!?!?」
「まあでも、そういう目標も・・・いいかもなぁ。」
「じゃあ、今年も、部を存続させないとね。」
「ああ。」
じゃあ・・・
「そろそろ、あれの準備を始める頃合いか・・・。」
マーシーのポンと出た一言に、俺とブレッドがハッとした表情で振り返る。
「あれ・・・?」
存Bちゃんは、その中でただ一人、緊張感も持たずぽかんとした表情をなされておられた。
「ああ、存Bちゃん。我ら治外法権国家、漫画研究会は過去一度足りとして部活と認められたためしはない、」
「全ては非合法。」
「部活申請出しましょうよ。」
まあ、でも俺たちがやっている漫画の内容からして、申請が通るかどうかというのは疑問の残るところだった。
「それで私たちの部室って、他の部室のプレハブとは、格段に離れた場所にあるんですね~。」
納得気味の存Bちゃん。
「まあ、そんなわけで我々には部費なんてイージーモード御用達の救済措置なぞ用意されてないわけだ、」
つまり・・・
「我々は、我々の手で活動資金を手にしなければならない・・・。」
マーシーが戸棚から去年のものと思われるパンフレットをそっと取り出した。
“コミュニティマーケット”
そう書かれたチラシ。
「今年も我々はこれに参加しようと思うが異議はないな?」
「これって・・・。」
存Bちゃんの手が震えだす・・・。
「知っているのか・・・存Bちゃん?」
「はい、人間たちがゾンビのように群がって獲物を狩るとするといわれている、一大同人イベント・・・‼。」
「なにか・・・違う気がする。」
「これは、同人活動における国内随一のイベント、通称コミケだっ!! 」
「ちなみに目標は壁サークル。」
存Bちゃんが目を真ん丸にして、チラシを凝視している。
「こんな大きな会場で、催し物・・・やるんですか・・・??」
「「そう。」」
「すごい・・・。」
一拍
「すごいですっ‼私、初めて皆さんのこと尊敬しましたっ!」
つまり、今までは一度足りとして、そんなことは思ってこなかったということだ。
マーシーとブレッドが、恥ずかしげに鼻をこすっておられるが、それは本当に喜ぶべきものなのだろうか・・・?
まあでも、存Bちゃんのキラキラいた目からは、間違いなく“そんけーしてますっ”オーラがあふれているので、過去はともあれという奴だろう。
「確かに皆さん、内容はともかく、いい技術持ってますもんねっ!」
凄く評価しずらい評価だった。
「でも、今から準備して間に合うものなんですか?」
「確かに俺たちに残された時間はあまりない。一日で使える時間が限られてるし・・・それに。」
「それに・・・?」
「個性派が集まりすぎて、書く内容すらすぐに決まらない。」
「ああ・・・ナルホド。」
全てを納得してしまった存Bちゃん。
「ちなみに去年はどうしたんですか?」
「俺が、ネームを書いて、その清書を二人にやってもらった。」
俺は立ち上がって、去年のコミケで作った作品の最後の一冊を本棚から取り出した。
「へぇ、面白そうな内容ですね。」
存Bちゃんの興味津々な顔。
「って、作者名が異様に長い・・・・。」
作者名には“マーシーブレッド文子氏”と書かれてある。
「まあ、それはお互いのニックネームを適当につなげただけだからね。」
「じゃあ、今年のペンネームは、マーシーブレッド文子氏ゾンビちゃんになるわけだ。」
「えっ、私も参加していいんですかっ!」
さらに嬉しそうな存Bちゃん。
「もちろん、存Bちゃんだって、大事な部員の一人だからね。」
「嬉しいですっ!」
「存Bちゃんは、同時並行で文子氏から絵のスキルを上げていかないと。」
「ハイッ、足を引っ張らないように頑張りますっ!よろしくねっ文人君!」
「まあ、善処するよ。」
「じゃあ、冬コミ目指して頑張らないとな!」
「・・・え?」
「どうしたの、存Bちゃん?」
「冬・・・ですか?」
「冬までだったら、存Bちゃんも技術が上がっているだろうし、ゾンビちゃんも戦力になるはずさっ。」
「そ・・・そうですね。」
一拍
「私・・・がんばります。」
ゾンビの転校生って需要ありますか? な”蛾メ @fujikuranagame
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