第27話 楽観死

 クァンタム卿の肉片が全て消え去り、火の中では木枝だけが静かに燃える。

 ブランコは、眠りについたグラシアを魔法で出したベッドに置き、次に扉を出す。

 その先で、服を脱ぎ始める。


 グラシアには、謝らなければならないことがもう一つある。

 でも、アタシに掛かった死の刻印を曝すことにもなるからできない。

 それは、レス・レクシオンで生き返らせた相手は、死ぬのが難しくなるということだ。


 この四人の中から、アタシが死に、アルディが死に、最期にはコルタルとグラシアだけになる。

 グラシアはコルタルのことを評価してるみたいだけど、アタシにとっては楽しい友達だ。

 それでいて、心がありそうでないというか。


 偏屈な姿も、義理堅い姿も本当は借り物で、偽りで。

 根底は、虚無そのもののように感じることがある。

 特に証拠はない、見た目が真っ黒いからそれっぽく思ってしまうのかも知れない。


 自分の勘に頼らずに言えば、コルタルはグラシアのことが苦手だ。

 特徴として、コルタルは苦手な相手への態度というものがある。


 牙と爪のない威張りん坊な人狼の長老には、生えるかも知れねえぜ。と皮肉混じりに人間の歯と指だけを渡したり。

 みんなに武勲を語り尊敬を集めようとする割に、コルタルと食糧調達には向かわない姿を見て、長老自らを出向かせるわけには行かないぜ、人間たちが絶滅しちまう。と冗談を言ったり。


 グラシアには、タバコを止められた時にオマエは正しいとか言ってたから、同様に苦手なはず。

 それでもどうにかグラシアは順応しようとするだろうけど、コルタルはそういうとこ意固地なのだ。

 相手がどんな言葉を掛けても、本性を見抜いてるみたいに態度を変えない。


 グラシアは純粋な割、賢いし。

 コルタルの苦手がる態度には傷付くだろう。

 でもってこんな環境じゃあ離れ離れはお互い拒むはず。


 やっぱり、アタシが死んだ後でイヤな旅にならないかが心配だ。

 中和剤として、アルディを生かしときたい。


 アルディは臆病で馬鹿で、素直なヤツだ。

 被曝の影響では死なないよう、二人きりになった時にでもこっそりと魔法を掛けておくか。


 アゲイン内の、目が痛くなるほど真紫な浴槽に浸かりながら、アタシは膝を抱えてニヘラと笑う。

 風呂への扉が、突然に開く音を立てる。

 振り向くと、そこには魔女がいた。


「ブランコ。風呂の度にここへ来るのは構わないが、アタシと被らない時間にしてくれるかい?」

「おばあちゃんも入って来ればいいじゃんか。アタシと入るのそんなにイヤか?」

「アンタの男児と見紛うような貧相な体見てるとね、何だか気色悪くなるんだよ」


 アタシは自分の胸に触れ、確かめる。

 確かに、なぜだか全くない。

 あのグラシアでさえ少しはあるのが見て分かるというのに、アタシには付いていない。


「何それエ。でもさ、魔法でどうにかなるだろ」

「他人に魔法掛ける趣味はないんだよ、とっとと出な」

「……はーい」


 渋々とアタシは魔女の待つ脱衣所へと戻り、頭にタオルを巻いたバスローブ姿で、脱いだはずの服を探し始める。

 足元を見回しても、洗濯機の中を覗き込んでも、見当たらない。


「あの。服どこか知らねエ?」

「汚いから捨てといたよ。新しいの持って行きな」

「久々に会えたと思ったら。ひどいぞ! 気に入ってたのに」


 現れた扉の先へブランコが向かうまで、魔女は後ろへと手を組み、ヒヒッ、と笑い続けていた。

 優しげな口調で何かを呟き、魔女は花柄のパジャマを脱ぎ始める。

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