第14話 調査艦アトラス
――その日の午後。
模擬戦闘を終えたばかりのジョージは、アンジェラに連れられたまま、
アライアンス本部の上層にある別室へと案内されていた。
機密性の高い面談室でのやりとりを経て、場に少しだけ落ち着きが戻る。
アンジェラはホログラム端末を手に取り、しばし何かの確認を終えると、静かに顔を上げた。
「さて、ジョージ。試験結果が出たわ」
「……」
「今朝の身体測定と実技試験、すべてを統合した総合戦闘評価。
あなたの正式ランクは──Aよ」
「は……?」ジョージは目を見開き、表情を固めた。
「ちょ、ちょっと待て。
今朝まで俺は最低ランクの仮登録扱いだったはずだ。Aって……上から2番目の?」
「そうよ。通常は長期訓練を積んだ正規軍人でもB止まりが常識。
まして初日でAは、間違いなく前代未聞だわ」
ジョージは少し間を置き、眉を寄せてアンジェラに向き直る。
「……やりすぎだろ、それ」
アンジェラは口元に笑みを浮かべ、肩をすくめた。
「システムが判断した結果よ。誰も手を加えていない。
むしろ、あなたの異常さを物語っているわ」
「この結果……公になるのか?」
「正式発表は夕刻、所属部隊の通達もそのタイミングで出る。
ただし詳細な評価データまでは共有されないよう手配しておくわ」
彼女は歩み寄り、ジョージの視線をまっすぐ受け止める。
「明日、戦艦アトラスの艦長と副艦長にあなたを引き合わせる。
私の名で推薦するから、納得のいかないのクルーもいるかもしれないけど、そこは何とかして」
「わかった。覚悟はしておく」
「アライアンス市街区のアクセス許可はすでに通してあるわ。
ランクAの権限で、必要な物資や装備は自由に手配できる。
今のうちに整えておいて」
「助かる」
「……覚悟しておいて。あなたは今、銀河で最も重要な局面に関わろうとしている」
ジョージは無言で頷き、その場を後にした。
アライアンス市街地
アライアンス本部から伸びる専用シャトルラインで数分の距離にある、都市の高級軍用装備区画――『セントラル・プライム』。
ここはBランク以上の認証を持つ者しか入場を許されない。
自動ドアに手をかざすと、無音でロックが解除され、ジョージは静かに中へ足を踏み入れた。
白とメタリックグレーで統一された内装。
壁際には各種戦闘服や装備が整然と並び、
中央の展示台には最新モデルがガラスケース内に浮かぶように配置されている。
奥のモニターが自動でジョージの認証データを読み取り、ランクAの来訪を検知すると、
館内の照明が一段階明るくなり、AIナビゲーターの案内音声が響いた。
「セト・ジョージ様、ようこそ。Aランク認証により全フロアへのアクセスが解放されました。
ご希望のカテゴリをお選びください」
案内に従い、“戦術用アウター”セクションへ向かうと、
そこには漆黒を基調にしたジャケットが静かに鎮座していた。
上半身を包むボディは特殊な高分子素材で構成され、肩部には微細な外骨格が埋め込まれている。
内蔵マイクロフィルムが常時ユーザーの体温と筋肉応答をスキャンし、最適な可動補助を行うという。
ジョージはゆっくりとジャケットに袖を通した。
布地は見た目以上にしなやかで、それでいてしっかりとした重量感が腕と背中に伝わってくる。
鏡の前に立ち、自分の姿を見つめる。
「……悪くない」
彼は小さくうなずき、店を後にした。
次にジョージが向かったのは、おなじみのお店──通称『T- Forge』だった。
相変わらず、油と金属粉のにおいが鼻を刺す。
天井からは工具と補助アームが所狭しとぶら下がり、作業音と機械音が混ざった騒がしさの中にも、
どこか居心地の良い“いつもの空気”が漂っている。
その奥で、ひときわ小さいが威圧感ある体格の男が作業台に向かっていた。
メンテナンス用のアームや工具が無数にぶら下がった天井、古びた鉄骨むき出しの梁、
そして壁際に並ぶさまざまな試作品の山。
その空間は整然とした軍の施設とは対照的に、“職人の城”と呼ぶにふさわしい独特の雰囲気を漂わせていた。
「おい、ジョージじゃねぇか!」テディ―だった。
「お前、何してんだここに?いや、その服……まさか……」
ジョージは歩み寄りながら短く告げた。
「さっき、Aランクって言われた」
「Aァァァッ!?」
あまりの声に、周囲の整備兵が一斉に振り返る。
「おいおい……Aランクって、お前……一昨日まで仮登録の奴が、
今日いきなりそんなランクって、過去に聞いたこともねぇぞ!?」
「俺も信じられてない。これからランクアップに伴って危険な任務に配属される。
今回はエネルギーシールドで包まれる装置がほしい」
テディ―は目を丸くしたまま、ごそごそと後ろのラックを探り出した。
「……ならこいつを持ってけ。高ランク用にチューンした最新型だ。
《ヴェルス・マークV》
──軽量高出力。しかも思念展開式。使いこなせる奴がいなさすぎて、まだ現場に出てねぇんだ」
ジョージは腕に装着し、軽く意識を向けた。
淡い光の膜が一瞬にして展開され、粒子の波が体表を覆う。
「……いい性能だ」
「ったく、速攻展開できるのかよ。お前といると退屈しねーな……」
テディ―は笑いながら手で挨拶をした。
ジョージは礼を言い、施設を後にした。
その夜、ジョージはAランク専用の宿泊施設に足を踏み入れる。
自動ドアの先に広がっていたのは、まるで高級ホテルのスイートルームのような空間だった。
漆喰調の壁面に温調照明、柔らかな絨毯、天井高く設計された開放的な空間。
部屋の中央にはクイーンサイズのベッドが設置され、
その奥にはジェットバス付きのシャワーブースと多機能パネルが備えられている。
食事はルームサービス。
数分後に届けられたのは、芳醇な香り漂うスパイスグリルとガーリックバターソースのステーキ。
ハーブティーと焼きたてのパンも添えられていた。
ジョージは静かに席に着き、深く息をついた。
(……確かに、階層が変われば世界が変わる)
だがその目は、どこか遠くを見据えていた。
そして、夜が更けていく。
――翌朝。
ジョージはアンジェラに同行し、アライアンス軍総本部・戦略管制区の奥へと通された。
そこで待っていたのは、戦艦アトラスの艦長と副艦長だった。
鋭い目をした中年の男──艦長マックス・ロセッティ
そして、沈着冷静な女性──副艦長マリア・ミレーヌ。
アンジェラは簡潔に言った。
「彼がセト・ジョージ。アトラスに配属される。……私の直接命令よ」
マックスは一瞥し、静かに腕を組む。
「事情はまだ聞いていませんが……
司令官がそこまで言うなら、理由は相応にあるのでしょうね」
「いずれ分かるわ」
副艦長マリアがジョージにタブレット端末を手渡す。
「私たちのクルー情報よ」
端末を見ると少数精鋭という意味がやっとわかった。
1.マックス・ロセッティ(Max Rosetti)
役職:戦艦アトラス艦長
年齢:48歳
種族:ヒューマン
2.マリア・ミレーヌ(Maria Milene)
役職:副艦長
年齢:34歳
種族:ルミエル
3.アルノ・コレット(Arnaud Colette)
役職:戦闘機パイロット
年齢:36歳
種族:ヴォラク人
4.アルノ・シュベ(Arnaud Chouvet)
役職:メカ操縦士
年齢:36歳
種族:ボルツ人
5. リン・タオ(Linh Tao)
役職:近接戦闘員
年齢:46歳
種族:シェンダオ人
6. フェリシア・フェングロー(Felicia Fengrow)
役職:スナイパー/偵察ドローンオペレーター
年齢:24歳
種族:ケルベール人(フェレット型)
7. アリシア・プリンセス(Alicia Princesse)
役職:火属性魔導士
年齢:30歳
種族:ルミエル人(貴族出身)
8. キャシー・クラム(Cassie Cram)
役職:光属性魔導士(支援・治癒魔法)
年齢:25歳
種族:ヒューマン
9. マニュ・モゼ(Manu Mauset)
役職:通信士/電子戦・諜報分析
年齢:29歳
種族:ヒューマン
10. トモミ・ロセッティ(Tomomi Rosseti)
役職:医療オペレーター(後方医療)
年齢:41歳
種族:ヒューマン
11. アーサー・アウトドア(Arthur Outdoor)
役職:機関士(艦内技術全般)
年齢:42歳
種族:ボルツ人
12. バネッサ・ティアン(Vanessa Tiang)
役職:汎用任務担当/後方支援(新人)
年齢:19歳
種族:ヒューマン
ジョージが確認を終えたタイミングでアンジェラが手元の端末を操作し、ホログラムを展開した。
そこには、アトラスの次なる任務──未確認惑星マイノグラフへの調査任務の概要が映し出されていた。
「本来、この情報は艦長にのみ通達されるはずだった。
でも、彼には最初からすべて共有してもらう。……それだけ、私は彼を信頼している」
ジョージは一歩前に出て、艦長と視線を交わす。
マックスは数秒の沈黙ののち、静かに頷いた。
「ようこそ、アトラス隊へ──セト・ジョージ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます