死線を絡めてーThreadー
策を描く
一歩誤れば死へと落ちる。一歩誤れば命を落とす。
そうならない為に策を練る、そうならない為に策を上回る。そういう戦いをリスナーという存在は営む。
今目の前に追い詰められている者達がいる。今目の前に追い詰めている者がいる。
だからといってこちらから何かをする事もなく、彼は傍観し、観察し、片手で広げる紙の巻物に広がる景色を手早く描いていく。
「うん……今は死線を渡り歩いてるから外野が糸を垂らす訳にはいかないし、絡めとるのもよくはない。偶々来た時に舞台が出来て戦っていたのだから、今はまだ、動かないよ」
独り言を紡ぎ彼は見守る。独り言のような言葉を口にし彼は見つめる。策と策とが描かれる舞台、そこへ糸を垂らす刹那を待ちながら。
ーー
脱出と罠をかいくぐる策を張り巡らせるエルクリッド達と、生命を奪う為にそれを阻止せんとするトリスタンの駆け引きは続く。
トリスタンが既に張り巡らせた罠を一度解いてカードの同時使用枚数を増やすか否かを思案し、次の一手を仕掛けるかを考え僅かな間が生まれる。
(消火してこねぇと俺様が仕掛けた罠は発動しねぇ……上から脱出するように見せかける可能性がある以上は、解く事はできねぇ……)
召喚済みのアセス・デフィアが一撃必殺の毒の息を使える以上は有利とはいえ、カードの同時使用枚数のそれはトリスタンにとっては不利な要素だ。
先読みして仕掛けたツールカードの使用を解除することはできないと判断しつつ、カードを引き抜くと魔力を込めながらデフィアへ目で合図を出しエルクリッド達がいる燃え盛る建物へと接近させる。
「スペル発動グラビティ!」
既に使用されている岩の雨を降らせるアースフォールを強化する専用スペルの使用は、トリスタンにとっては賭けそのもの。
これでもうカードを切る事はしばらくできず、押しきれるかが肝心となる。
一方、魔法を跳ね返すメイガスシールドでアースフォールを押し返しかけていた戦乙女ローズは、グラビティの効果の上乗せもあってゆっくりと降下を始めてしまい、それでも歯を食いしばり力負けせんと盾を構え続けエルクリッド達を守り切り、アースフォールの岩が消え去るまで耐え切ってみせた。
「グラビティのカード……なら、次はセレッタで火を」
エルクリッドが
「ヒーリングのカード、使っとけよ」
「ありがとシェダ。スペル発動ヒーリング」
優しい光がエルクリッドの身体を一瞬包み、体の痛みをとって魔力も回復させる。万全とはいかずともカードを使うには十分であり、改めてセレッタのカードへ魔力を込めてその名を呼ぶ。
「仕事の時間だよセレッタ」
「ディオン交代だ。さぁ出番だぜメリオダス!」
エルクリッドが
同時に魔人ディオンと入れ替えてジェダはビショップオウルのメリオダスを召喚し、腕に止まらせて正面の入り口から時計回りで動いて何かを確認させた。
「メリオダスの感知で調べた感じ、乾きの石像が前と後ろに置かれてる」
「だからといって左右はきっとあのバジリスクがいるし……やっぱり予定通り、だね」
そう会話を終えるとセレッタは頷いて魔力を高め足元の水を広げ、メリオダスをカードへと戻したシェダは次のアセスを引き抜き、ローズの様子を見守るリオも同調しカードを引き抜き備えた。
「強行突破すんぜヤサカ!」
煙を纏いゆらりと姿を現すは三日月状の刃を持つ鬼ヤサカ。何も言わずにヤサカが正面入口の方へと走り、炎など意に介さず扉を切り裂くとすぐに後ろへと跳び退き、すかさずリオのカードが閃く。
「スペル発動、フレアボルト!」
放たれる火炎弾がヤサカが開けた入り口を通って外へ行き、接近していたデフィアは難なく避けてさらに迫る。
と、そこでトリスタンが目を大きくしてデフィアの名を叫び、気づいたデフィアが急停止し振り返るとフレアボルトの火炎弾が設置されていた鉄杭のようなものに激突し、そのまま爆発を起こし爆風が吹き抜く中で帽子を抑えながらトリスタンが舌を打つ。
(罠をぶっ壊す為のスペル攻撃か……! だがおかげでこっちもカードが新しく使えるぜ……!)
使用済みのツールカードが破壊された事でトリスタンの同時使用枚数に余裕が生まれ、またお互いに遠目ながらも相手を捉えられている点からさらに戦況は変化していく。
位置がわかればカードの効果で対象としやすく、互いにここが正念場とカードを切る。
「スペル発動リスナーバインド!」
「ツール使用拘束の護符!」
トリスタンは何もない空間より黒い鎖が伸びてエルクリッドを拘束、ならびに弱体化を狙ってのリスナーバインドのカードを切る。対してエルクリッドもカードから出現させた翼を象る腕輪を素早く自身に身に着け、刹那に黒い鎖が砕け散って消滅する。
手が読まれた事にトリスタンが舌打ちし、だが穴埋めするようにデフィアが素早く這って攻撃をかけんとする、と、次の瞬間に舞い上がる水飛沫に包囲されてそのまま水球へのデフィアは閉じ込められ、そこへ鬼のヤサカが刃を光らせ一気に駆けていく。
「今です!」
「決めろヤサカ!」
セレッタから繋がったシェダの声に応えるように跳躍し体を大きく捻るヤサカが刃を振るい、その斬撃は水球ごとデフィアの身体を真っ二つに切り裂き、刹那に水球は弾けデフィアもまた巨体を沈めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます