雨空の下で
暁ゆら
雨空の下で
雨音が響いている。
地面をぬかるませ、世界を揺らす雨。広がっていく水たまり。点滅する街灯。
指先から生まれた冷えが全身に広がる。それと矛盾して、流れる血の燃えるような熱さがあった。
「帰って」
言ったのは、お姉ちゃん。あたしの目の前、ベンチに座ってうつむいている人。昔からある公園の古いベンチのはげた塗装。いつかに星のようだと笑いあった模様が、ちかちかと光っていた。
帰って。言われたのは、あたしだった。
がくがくと足が震える。お姉ちゃんの瞳は、あたしから隠された瞳は、どんな色を宿しているのだろうか。喉の奥がやけに酸っぱかった。
色が混ざって、光があふれて。知らない音ばかり響く。
そうして、あたしは世界から逃げ出した。
ざあざあと雨の音。灰色で塗りつぶされた空。窓から見えるグラウンドの色が濃くなっていく。梅雨らしいペトリコールが鼻に届いた気がした。
雨だ、雨降ってる。
これじゃあ外遊びに行けないじゃん。私、今日傘持ってきてないんだけど。
少し暗くなった教室にいくつもの声が飛び交う。
お姉ちゃんとは違う、小学生ならではのキンキンした高い声。
女の子も男の子もみんな、帰りの会の直前になって降ってきた雨を嫌がっていた。たった一人、あたしだけを除いて。
窓際の一番後ろの席に座ったあたしは、ばくばくと音を立てだした心臓を落ち着けるのに必死だった。
雨だ。雨が降った。
朝のニュースでは降水確率三十パーセントだったのに。
あたしの願いを天が叶えてくれたみたいだった。もう今すぐにでも走り出してしまいたかった。
担任の先生のお話は右から左へ抜けていった。
「ただいま!」
おかえりなさい。リビングからしたお母さんの声を聞きながら、お気に入りの傘を靴箱に引っ掛け、靴を脱ぎ捨てる。適当に掛けたからか、傘の落ちた音がした。
気にせずに階段を思い切り駆け上がる。二階の自分の部屋にランドセルを投げ捨てて、すぐさま玄関へ。
「紫雨、靴はちゃんと履きなさい」
玄関前までやって来たお母さんに呆れたように言われて、はあいと返事する。
履きつぶしたかかとを伸ばして、倒れた傘を手に取った。水色に白の水玉模様の、あたしのお気に入り。
「いってきます!」
元気よく言えば、いってらっしゃいとお母さんは笑った。気をつけてね。
家を出て、勢いよく傘を開く。軽快な音にさらに心が弾んだ。
いつものように、いつもの道を早歩きで進む。本当は走りたいけれど、危ないから早歩き。雨の日には危険がいっぱい。お姉ちゃんが言っていた。
目的地の公園は、あたしの家から歩いて五分ちょっとのところにある。早歩きで行けば、三分半ぐらい。小学四年生であるあたしの歩幅は小さいから、多分もうちょっとかかる。
水たまりを踏まないように気を付けて、と。傘と雨粒の奏でるメロディーは、少し駆け足気味だった。パステルカラーがかわいらしい保育園の前を通り過ぎる。
おしゃれな美容院を右に曲がれば、道路の向かいに目当ての公園が見えた。小さいのか大きいのかわからない広さの、昔からあるという公園。それから、たった一人、雨の日の公園のベンチに座る人影が。
車が来ないのを確認してから、あたしは思い切り駆け出した。ベンチに座るその人が、こちらを見た。
「お姉ちゃん!」
透明な傘の下、お姉ちゃんはひらひらと手を振った。
そばによれば、膝に置いていた白いタオルを自分の隣に敷いてくれる。ありがとう、とお礼を言って、そこに腰掛ける。
いくらいつものことだといえども、お礼を言わない理由にはなりはしない。以前そういえば、目じりを下げて、紫雨はちゃんとしてるね、と笑ったお姉ちゃんを思い出す。
お姉ちゃんの傘とぶつからないよう、傘の位置を調整する。
「三日ぶりだね、紫雨」
やわらかく微笑んだお姉ちゃんは、いつも通り奇麗だった。
シンプルな白いシャツと淡い青のスカート。テレビで見るモデルさんよりもモデルさんっぽかった。肩下ぐらいまでのさらさらな髪が揺れる。雨が似合うな、と思った。お姉ちゃんと会うたびに同じことを思っている気がした。
お姉ちゃんに初めて会ったあの日から、雨の日が来るとあたしは決まってここに来るようになった。
雨が好きで、雨の日だけここにいる、お姉ちゃんに会うために。
お姉ちゃんとの出会いは、多分、運命ってやつだった。
四月の終わりごろ、植物図鑑を読破したあたしは、それを持って近所の公園へ行くことを決めた。
よく見かけるけどあまり名前を知られていない植物。つまりは雑草に興味があって、実物が見たくなったから。
ジャングルジムとか、ブランコだとか。そういう遊びには興味がなかったので、公園へ行くのは初めてだった。もっともあたしの記憶にあるうちではの話だけれど。
土曜日のお昼時だったからか、公園には一人も人がいなかった。
分厚い図鑑を片手に持って、雑草の名前を調べるのに夢中になっていたあたしは、雲が不穏な色をし始めたのに気づかなかった。気づいた時にはすでにぽつぽつと雨が降り出していた。大きな桜の樹の下で立ちすくむことしかできなかった。
いつもだったら、傘がなくても大丈夫な程度の雨。けれど。植物図鑑をぎゅっと抱きしめる。それでは大事な図鑑を濡らしてしまう。
花の散り、若葉の緑に覆われようとしている状態の樹では、雨を完全に防ぎきるのは難しかった。途方に暮れていると、突然大きな影が雨を遮った。
「大丈夫?」
花のにおいのしそうな声だった。
見上げれば、涼しげで透明な空気をまとった大人の女の人が立っていた。大きな影の正体はお姉さんのさしたビニール傘だと分かった。
「ありがとう、ございます」
ぎこちない言い方になったのは、知らないお姉さんだったからというよりも、親以外の大人の人と話す経験がほとんどなかったからというほうが大きかった。
お姉さんはあたしの全身を眺めた。
「一人、だよね」
家まで送っていこうか。
ただただ心配が浮かんだ瞳。正気なのだろうか、と思った。
小学校でよく言われる、知らない人にはついていかないとかいう話ではなくて。 単純に、あたしにそんなことをしてあげるメリットは、あなたにはないでしょう。
あたしの家は普通の家だ。同じようにあたしも普通の、どこにでもいるような小学生でしかない。あたしを雨から助けだすことが何か大きな意味を持つとは到底思えなかった。
血縁関係があるわけでもない赤の他人。それも小学生なんて、助けたところで面倒なことになる可能性が高いのに。子供を助けた優しい人、なんて肩書きを手に入れたいのだろうか。いや、別に実際に助けなくたって、助けたと嘘をつけばいい話だ。その程度の嘘、真偽の判別なんて、どうせ誰にもできやしないのだから。
この人の考えていること、まったくわからない。
目つきを鋭くしたあたしに、お姉さんは自分が怪しまれていると捉えたようだった。困ったような顔をされると、まるであたしが悪いみたいになって居心地が悪い。
「怪しいかもしれないけど、雨、いつ止むかもわからないし……。あなたも止むまでここにいるわけにもいかないでしょう?」
「止むまで、ここにいます」
間髪入れずに返したこたえは嫌がらせに近かった。
ほら、帰りなよ。いつ止むか分からない雨が止むのを、知らない子供のためだけにこんな公園で待つとか、非生産的でしょう。
予想通り、お姉さんはその琥珀の目を見開いた。けれど、薄い唇から紡がれた言葉は、予想外でしかなかった。
「じゃあ、私もここにいる」
こともなげに、そう言った。
あたしは、お姉さんと同じように目を見開いた。え、とあからさまにうろたえた声を上げてしまう。
本気の目だ。
ぞくりとした。この人は、本気だ。
「立ってるのもあれだし、ベンチ座ろう。タオル持ってきてるから下に敷いて」
小さなうなずきで返事をする。
自分から言い出したことだ。帰るなんて言えるわけがなかった。
何より、本気だと思ったから。お姉さんはほかの人間とは少し違うのかもしれないと思ったから。
濡れたベンチに白いタオルが敷かれる。一人分のスペース。
「ほら、座って」
冗談じゃない。顔をしかめる。傘に入れてもらったうえ、その恩人を濡れたベンチに座らせるなんて恩知らずにするつもりか。
「お姉さんが座ってください」
でも、と言い募るお姉さん。
あたしはもう濡れてるので。
何度譲られてもかたくなに譲り返し続けると、七度目の問答でついにお姉さんが折れた。謎の達成感に浸りながらベンチに座る。ショートパンツのお尻の部分に水がしみ、肌の冷える嫌な感覚がした。
「やっぱり位置変わる?」
あたしとの間にビニール傘を置いたお姉さんが、気づかわしげにそう言った。
「大丈夫です。こんな経験初めてで、新鮮なので」
事実だった。不快感よりも、未知の感覚に感動する方がずっと強かった。
濡れたベンチに座るって、こんな感じなんだ。知らないことを知るのは、いつ、どんなことだって楽しくてドキドキする。新たに得た知見に体が内側から熱を持つようだった。
お姉さんはそう、と言った。何かを嘆くような、悼むような響き。
不思議だったけれど、なぜだか聞いてはいけない気がした。
少しの沈黙。わずかな雨音だけが響く空間。
「植物、好きなの?」
こちらを向かずにかけられた問いに反応が遅れる。ちらりとあたしを、あたしの持つ植物図鑑を見やったお姉さん。かすかに揺れた髪は柳のようだった。
「好きです。メヒシバとかスベリヒユとか」
あげた二つはどちらも身近に見られる雑草だ。この公園にもたくさん生えているし、小学校でもよく見かけるけれど、名前を知らない人が多い。
はたしてお姉さんは、その宝石みたいな瞳を輝かせた。そして、得心がいった風に一つうなずいた。
「だからここに来てたんだ。メヒシバもスベリヒユもいっぱい生えてるものね。ね、その二つが好きなら、ヒメオドリコソウとかも好きだったりする?」
ヒメオドリコソウ。ホトケノザと間違えられやすいという、小さな可愛い花を咲かせる植物。あたしの好きな雑草の一つだ。
驚いた。普通に、驚いた。知ってるんだ。
好きです、と言えば、お姉さんは心の底からうれしそうに笑った。
「うれしい。私、植物の中でヒメオドリコソウが一番好きなんだよね」
あ、一番は嘘。
ドキドキ、した。初めてだった。好きなことの話がちゃんとできる人と出会うのも、こんなにきれいに笑う人と出会うのも。どっちも初めてだった。顔が熱い。
「じゃあ、何なんですか。一番好きなの」
オオアレチノギクかな。コニシキソウ、それともチドメグサ? 予想しながら答えを待つ。けれど、思い浮かべた植物はどれもしっくりこなかった。
お姉さんはゆっくりと視線を動かした。すぐ近くにある、大きな桜の木へ。あたしもそれにならう。
「ちょっと陳腐というか、ありきたりになっちゃうかもしれないけど……。桜、特に雨に濡れた桜が一番好きかな」
雑草じゃなかった。けど、しっくりきた。
雨に濡れしずくの滑り落ちる桜の花。舞い散る薄くたおやかな花びら。木の根元にたたずむお姉さん。想像はあまりにたやすかった。今がまだ桜の咲いている頃だったら、実際に見られたであろう光景。
「似合いますね、すごく」
思ったままに出した言葉が、変な皮肉に取られていないか不安になった。
浮かべられた、まさに花の散るような笑顔に、あたしの懸念はすぐにかき消された。ありがとう、と照れた様子。ほのかに色づいた頬が肌の白さを際立てる。
「私ね、雨に濡れた植物が一等好きなの。いつもの晴れている日の姿も素敵だけど、雨の日、しずくに打たれる姿は一層映えるから」
「わかります、それ」
食い気味に返す。
雨の日の植物が、草が、花が、木が何より素敵。雨粒の重さにしなる葉が、きらめく花びらが好き。あたしも、そう思う。
植物図鑑を持ってきていなければ、雨が降っても絶対に草花の観察を辞めなかった自信がある。たとえ、自分の体がびしょぬれになったとしても。
「わかってくれる? 私、雨自体も好きだから、雨の日はなるべく外に出るようにしてて。桜流しの日は絶対。今日みたいなっていうとちょっと違うけど、緑雨の日なんかも、ね」
桜流し。緑雨。
知らない言葉だった。そして、奇麗な言葉だった。
そういう言葉を人の口から聞くのは、随分久しぶりな気がした。
「あの」
「桜流しとか緑雨ってどういう意味ですか」
きょとんとした顔。意味を聞かれるなんて、あたしが知らないなんて思っていなかった。お姉さんは確かにそんな顔をしていた。
どくり。心臓が脈打つ。ぞくぞくした。あたしが、知らない側だなんて。
ぱちり、一つ瞬きをして、お姉さんは唇を開いた。
「桜流しは、春に降る、桜を散らしちゃう雨のこと。散った桜が水に流れていく様子自体を表すのにも使われるかな。緑雨は、新緑の候、五月のはじめから六月のはじめまでの間に降る雨のこと。どっちも割と文字通りの意味だよ」
雨の名前。雨の名前って季節によって変わるんだ。
初めて知った。
天啓を得たってこんな気分だろうか。
多分きっと、ほかにもいろんな名前がある。今降っている雨の名前は、なんていうのだろうか。
「それなら、今日の雨は、なんていうんですか」
お姉さんは困ったように眉を下げた。
「うーん、えっとね。今日の雨にはね、桜流しとか緑雨みたいな、季節で分類された名前はついてなくて。降り方で分類された名前だったら、煙雨になるかな」
これも文字通りの意味だとお姉さんは言った。煙みたいに見える、雨粒の細かい雨のことだと。
雨の名前とはいったいどれだけあるのだろう。あたしの知らない雨はどれだけ存在するのだろう。知りたかった。全部。だから、あたしは言った。
「教えてください。雨の名前。知ってるだけ、全部」
切羽詰まったみたいな言い方。気持ちばかりが先走って、うまく言葉にできなかった。お姉さんはアーモンド形の目を大きくした。瞳の中、飢えた獣みたいな顔のあたしがいた。ふっとやわらかく笑って、お姉さんは言った。
いいよ。でもたくさんあるから、今日じゃ教えきれないかも。
「じゃあ、明日も教えてください。明日も、ここで」
お姉さんの都合はまったく考えていなかった。考えている余裕なんてなかった。知りたかった。知らないことを知るのは何よりも楽しいことだから。
お姉さんは笑った。見慣れない、静かな笑い方だった。
「ごめんね。明日も教えるって約束はできない。早く知りたいのはわかるけど、別の日じゃいけない?」
本音を言えば嫌だった。でも、無理やり押し切ろうという気はしなかった。お姉さんならきっと約束を忘れるなんてこと、しないだろう。そう思った。
「いつなら、会えますか」
聞けば、お姉さんはゆっくりと呼吸をした。つむられた目が開かれる。
「雨の日。次の雨の日に、またここで会いましょう」
世界に影を落とす雲。鈍い色彩の草花に地面。春の雨の匂い。優しい雨音。
それから、お姉さんの声。
あたしの命を焦がしたそれら全部に、あたしは確かに、運命を知った。
次の雨の日、雨の名前の話から雨の降る原理に派生して、話す内容は尽きなくて。また次の雨の日に、と約束をして。それが何度も続いて、あたしとお姉さんの約束は、雨の日に会おう、に変わった。次だけじゃなくなって、永遠に近い約束に。
それから二ヶ月近くのうちに、あたしたちはお互いの名前を知った。
宮野涼羽。その名を聞いて、名は体を表す、が真実であることを知った。
そして、お姉さんはお姉ちゃんになった。
学校の図書館で借りた小説。そこに登場する姉妹にあこがれたあたしがそう呼びたいと言ったから。お姉ちゃんがあたしのことを紫雨と呼ぶようになったのも同じ理由だ。最初は紫雨ちゃんと呼ばれていたけれど、姉妹っぽくない、とあたしが拒否したのだ。
お母さんとお父さんはあたしのことをしーちゃんと呼ぶ。それ以外の人はだいたい天里さんか、紫雨ちゃん。だから、紫雨と呼ばれるのはひどく新鮮だった。
紫雨。そう、きれいな声で呼ばれるのを心待ちにするようになった。
会うたびに、今日は会えると思うたびに落ち着きをなくす心臓。死んでしまうと思った。死を身近に感じるのが常になった。
生きているって感じがした。
まとわりつく湿気に殺意を抱きながら、降る雨には心からの感謝をささげる。
梅雨の時期は最悪で最高。最高になったのは今年から。雨がたくさん降れば、その分お姉ちゃんに会える。春は、何日も続いて雨が降ることがなかった。梅雨ならばきっと、春よりももっとたくさん話しができる。
ベンチに腰掛けた体を、少しだけお姉ちゃんの方にずらす。
隣り合って二人、テンポよく会話を交わした。学校で見つけた虫のこと。図書室の机の形について。教室ごとに若干ずれた時計の位置とか。
ふと、ベンチの背もたれの模様が目についた。長い間この公園に設置されているというベンチは、塗装が剥げてぼろぼろになっている。
白くなった模様をなぞる。星みたい。
「紫雨、どうしたの?」
急に黙り込んだあたしに、お姉ちゃんは不思議そうな、けれど楽しそうな声で尋ねた。
「これ、星みたいだなって」
指で示せば、お姉ちゃんはほんとだ、と言った。
全然気づかなかった。あたしも今気づいた。
軽やかなやりとり。お姉ちゃんの指先があたしと同じように模様をなぞる。
「紫雨は、これ、どんな星に見えた?」
どんな、星。言葉に詰まる。あたしは星に詳しくなかった。好きだけれど、植物とか雨とか、他のものについて調べるのを優先していたから。じっと模様を見つめる。 浮かび上がってきたのは、三角形。
「夏の、大三角」
とか。小さく付け足す。無知をさらしているような気がして、恥ずかしかった。お姉ちゃんの顔は見れなかった。彫刻みたいな指先が動く。白い点を三つ、順番に指さして。
「じゃあ、これがベガで、これがデネブで、これがアルタイル?」
ぎこちなくうなずけば、ふふって笑い声。大人の笑い方。けれど、嫌な感じはしなかった。代わりに胸のあたりにざわざわが。
何。あたしは唇を尖らせる。すねたような言い方になった。
「ううん、何にも。ただ、確かに夏の大三角に見えるなって。というか、そういわれたら、そうにしか見えなくなっちゃった」
細められた瞳。ざわざわが肌の上を這っていく。
「お姉ちゃんは、なに、に、見えたの」
不自然にとぎれとぎれになったあたしの言葉。お姉ちゃんは一瞬きょとんとしてから、また笑った。恥ずかしさからきた不自然さだと思ったみたいだった。
「私? 私はねぇ」
描いたのは四角形。知らない星だ。
「秋の大四辺形、に見えたかな。紫雨は知ってる? ぺガススの大四辺形ともいうんだけど」
知らない。素直に答える。でもきれいな言葉だ。お姉ちゃんが口に出すからきれいに聞こえるのかもしれない。
そっか。お姉ちゃんは一つうなずいた。
「アンドロメダ座のアルフェラッツ、ぺガスス座のマルカブ、シェアト、それから、アルゲニブ。この四つの星を結んでできる四角形のことを秋の大四辺形って言うの。ちょっとゆがんでるけどね」
白く細い指。なぞられた四角形がきらきらと輝いて姿をあらわす。魔法みたいだった。目を奪われる。とくとくと鳴る心音を感じた。
夏の大三角があって、秋の大四辺形があって。冬の大三角もあるのだから、春にも何かあるのだろうか。
考えて、あのぞわぞわがいつの間にかなくなっていたのに気づく。あれは何だったのだろう。よぎった思いは、すぐに星への興味に飲み込まれた。
「じゃあさ、春にもあるの? 大三角とか、大四辺形みたいなの」
上ずり気味な声で聞く。じんわりとした熱が体の内側から発せられていた。
「あるよ。春の大三角」
歌うように、お姉ちゃん。大三角、大三角、大四辺形、大三角。ちょっと並びが悪いな。てっきり春の大四辺形かと思っていた。
確かに。お姉ちゃんが笑う。
「うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカ、しし座のデネボラを結んでできる三角形。春と秋のはあんまり知られてないかもね」
スピカ。知っている名前が出てきた。確か、おとめ座の一等星。
そう、その通り。お姉ちゃんが肯定してくれる。
学校、パズルクラブの時間。おとめ座の一等星がスピカ。そんな声が耳に残っていたのだ。おそらく、星座パズルとやらをやっていた子たちの声。
「紫雨、パズルクラブに入ってるの?」
首を縦に振る。似合うね。誉め言葉にうれしくなって、口角が上がる。
でしょう? 上機嫌にそう言う前に、頭の中、ぱっと浮かんできた記憶。そうだ。パズルクラブ、で思い出した。お姉ちゃんに頼みたいこと、あったんだった。
ね、お姉ちゃん。呼びかければ、なあに。こたえてくれる。
「お姉ちゃんに、頼みたいことがあって」
立体パズルの組み立てを手伝ってほしいの。
言えば、お姉ちゃんは首を傾げた。心から、不思議そうに。紫雨なら一人で組み立てられるでしょう。そういう顔をしていた。びりびり首の裏が震える。
「あのね、組み立て方はわかるんだけど、最後のパーツをはめ込むのが難しくて。他のパーツが崩れちゃうから、支えてくれる人が欲しいの」
合点がいったというように、お姉ちゃんは深くうなずいた。紫雨、小学生だものね。そう、あたし、小学生。
でも。お姉ちゃんが呟くように言った。
「誰か手伝ってくれる子、いないの?」
本当にただ疑問に思っただけ。そういう響きだった。
思わず、目を丸くしてしまう。その問いは想定していなかったから。
「いないよ」
返せば、今度はお姉ちゃんが目を丸くした。
あたし、友達いないの。事実を告げる。しまった、みたいな。失敗した、みたいな顔だった。
やっちゃったな。そう思った。友達がいないっていうと、大人たちはみんなこういう顔をする。知っていたのにな。お姉ちゃんは違うと、勝手に思っていた。子供みたいな顔をして、大人みたいな行動をする人だから。
ごめん。かすかに震えた声。あれ、と思った。違うな。苦笑いを浮かべて謝るのが大人だったはずなのに。よく見たら、お姉ちゃんの肌は普段よりも青白かった。いつも不健康そうだから気づかなかった。
お姉ちゃん? 呼びかけることはなぜかできなかった。
そのあとは、いつも通りの会話が続いた。テンポの良くて、心地いい。
別れるとき、お姉ちゃんの瞳にナイフを連想した。ぐるぐるして、強い光を宿している瞳。鋭い銀色が、脳裏に浮かんだ。
雨が降っていた。ヘリコプターみたいな、耳を突く、激しい雨音だった。
激しい雨は日をまたいでも止まなかった。
傘にぶつかった雨粒がばらばらと音を立てる。転がる飴玉のよう。
雨と飴。ひらがなで書いたら、同じなのに。違うものを表している。日本語の神秘に触れながら、足を進める。
くるり。手の中で傘を回す。円形に飛び散った雨粒はずいぶんと重そうだった。
あたしとは正反対。そう思った。
あたしは鼻歌でも歌いだしそうな気分だった。つまりは、ご機嫌ってこと。
今日から数えて、ちょうど一週間後。六月の最終日にはあたしの誕生日がある。あたしも今朝まで忘れていた事実。お母さんに言われて思い出して、だからあたしはご機嫌なのだ。
誕生日は好きじゃない。むしろ嫌いな方。けれど、今年の誕生日はちょっと違うのだ。具体的に言うのならば、お姉ちゃんがいる、という点において。
お姉ちゃんは優しい。多分、世間一般的にありえないぐらいには。そんなとびきり優しいお姉ちゃんだから、あたしの誕生日だってきっと祝ってくれる。
今度、誕生日があるんだよ。そう言っただけで、大袈裟に驚いて、祝ってくれるに違いない。想像はあまりに容易だった。
ふにゃりとゆるむ表情筋を律する。そろそろ公園だ。ほら、お姉ちゃんに悟られないように、いつも通りの顔をして。
公園に足を踏み入れる。いつものベンチ。顔を伏せたお姉ちゃん。お姉ちゃんはあたしが来るまで目をつむったり、下を向いていたりすることが多い。だから、目の前の姿はいつも通り、のはず。はず、なのに。
ざわり、と。心臓の裏側、胸の奥がうごめいた。
たまに感じていた元は違う、形容しがたいざわめきを振り払うように、あたしはお姉ちゃんのそばへ駆け寄った。
お姉ちゃん。
呼びかけても、お姉ちゃんは顔を上げなかった。あまりの反応のなさに、さらにざわめきが広がる。体中の肌が粟立っていた。
お姉ちゃん。あたしだよ。紫雨だよ。
ねぇ、お姉ちゃん――。
「うるさいな」
切られた。体の真ん中をすぱっと切り裂かれた。血が噴き出している気がした。大量出血するような大けがなんて、今まで負ったことないのに。アニメみたいに、夢の中みたいに、刃が体に差し込まれ、粘着質な音を立てながら肉が断ち切られていく。
視界が白かった。異常な白さだった。世界の色がおかしくなっていた。いや、おかしくなっているのは、あたしだ。あたしの目の方だ。
マーブル模様になったお姉ちゃんの肌。いつもの、青白くて、不健康さの伝わる、けれどきれいな肌とは違う。あまりにかけはなれた肌。
膝の上、ぎゅっとこぶしが握られる。形のいい爪にはノイズがかかっていた。
帰って。
お姉ちゃんは、そう言った。
激情を抑え込もうとしてできなかった。そういう、言い方だった。
「もう、あなたとは会わない。あなたと喋るの、疲れたの。人のこと考えられないし、頭いいです見たいな顔して、ろくにものも知らないし」
矢継ぎ早に吐き出される恨み言。あたしは何も言えなかった。ただ、立ちすくむしかできなかった。
帰って。
もう一度、吐き捨てられた言葉に、足が震えた。
お姉ちゃんはもはや人の形をしていなかった。ぐちゃぐちゃだった。あたしの、頭が。踵を返す。返して、とにかく走った。傘はもはやほとんど意味をなしていなかった。自分の息が荒くて、獣みたいで嫌になった。目の奥から熱さが滲みだす。
全部、おかしかった。
美容院のガラスは亀裂が入って、保育園の色味は淀んでいた。歩道は変になめらかで、ガードレールは曲がりくねっていた。
いつの間にか家について、自室に駆け込んで、あたしは泣いた。ベッドに顔を押し付けて泣いた。そのベッドも焼け焦げたような見た目になっていて、それに気づいてまた泣いた。
いぶかしんだお母さんが様子を見に来ても、夜が来ても、泣いていた。じくじくと胸が痛みを訴えていた。
そうして翌日、あたしは学校を休んだ。
その次の日もそのまた次の日もあたしは学校に行かなかった。
雨が降っても、誕生日が過ぎてもあたしは外に出なかった。
誕生日は、普通の日と変わらぬ姿で過ぎていった。誰よりも祝ってほしかった人からの、何よりもほしかった言葉をもらえぬまま。
そうして、六月は終わって、七月が来た。
「しーちゃん」
お話をしましょう。
お母さんがそう言ったのは、七月に入って少し経った頃。あたしが外に出なくなってから二週間程度が経った日のことだった。
あたしは、嫌だって言った。布団にくるまったまんま。壁の方によって。かすれた、蚊の鳴くような声ってやつだった。
お母さんの近づいてくる気配がした。
しーちゃん。
呼ぶ声は、優しかった。誰かを思い出させるような優しさだった。
こっちを向いて。
嫌だって思うのに。あたしの体はゆっくりと動き出す。向きを反転させれば、お母さんの顔が見えた。お母さんの、顔だった。
ざわり。あたしの深いところがざわめいて、呼吸をしている。
やっと、こっち向いてくれた。
そんな風にお母さんは笑った。母親の、肉親の笑い方だった。
お母さんは静かに話し出した。
「しーちゃん。あのね、お母さん、しーちゃんのこと、全部話してほしいとは思わない。でも、しーちゃんの話せるだけ、話してほしい」
「しーちゃんは放っておいてほしいかもしれないけど、ごめんね。お母さん、これでもお母さんだからさ。できるだけ、しーちゃんのこと知りたいし、助けになりたい。聞いても何にもできないかもしれないけど、でも、それでも教えてほしい」
あたしは、涙がこぼれるのを止められなかった。目の奥が熱くなって、しずくが落ちていくのを感じることしかできなかった。ひぐ、と喉の奥が鳴った。不細工だな。不格好だな。そう思った。白いシーツに次から次へとシミができていく。
鼻を鳴らし、しゃくりあげるあたしを、お母さんは抱きしめた。ぎゅって、抱きしめた。視界が滲んで変になる。おかしくなる。けれど、あの日のような恐怖はなかった。暖かかったから、大丈夫だって思えた。
お母さん。
言葉になっているかも怪しい声で呼んだ。なあに。答えてくれる声にまた涙が出た。ああ、もう。
頭が熱かった。熱に浮かされているときみたいだった。全身の感覚がおかしくなって、バカになっていた。
ねぇ、お母さん。あのね。
お母さんは時折うん、うんとうなずきながら、あたしの話を聞いていた。支離滅裂で意味不明だったに違いないのに。ただ、聞いてくれた。
お姉ちゃんとのことを話し終わると、お母さんはそっか、と言った。
そうして、細く長く息を吐いて、口を開いた。
「しーちゃんは」
その人のことが、大好きなんだね。
どくん。心臓が鳴った。
大好き。誰が。誰のことが。
あたしは、お姉ちゃんが、大好き。
天里紫雨は、宮野涼羽が、大好き。
ああ。そっか。
すとん、と。あたしという名の立体パズル。その真ん中の一ピースがはまった。
大好き。そういうことだったのだ。それだけ、だったのだ。
ずっと気づかなかった。知らなかった。この感情に名前がついていること。
好きって名前をしていること。
「しーちゃんがこんなに泣いてるのに、こんなこと思うのおかしいかもしれないけどね。お母さん、今、すっごく嬉しいの」
「だって、しーちゃん、今よりもっと小さいころから、あんまり人間に興味がなかったでしょう」
うん。興味なかった。
だから、友達なんていてもいなくても変わらない。むしろいない方が楽だって思ってた。大人も、子供も、みんなろくに話が通じないから。
あたしは、あたし一人で生きていきたかった。
「しょうがないかなって思ってたの。しーちゃんはとっても頭が良かったから、周りと合わないのはしょうがないかなって」
「ただね、心配もしてたの。人と関わらなくなった分だけ、しーちゃんは人間のことが分からなくなったんじゃないかなって。自分の感情にだって疎くなったんじゃないかって」
他人のことも自分のこともわからなかった。たくさんのことを知った気になって、その実、何にもわかっていなかった。
人を好きになる。それがどういうことなのかもわかっていなかった。
仲良くなりたい。一緒にいたい。その理由が、好きだからの一言で済むなんて知らなかった。
知ろうとしなかった。お姉ちゃんのこと。お母さんのこと。あたしのこと。何にも。
お母さんがここまであたしを思ってくれていたこと、初めて知った。
ひっきりなしに漏れる嗚咽と涙。あたしの思いの表れだった。
こんなに泣いたのだって、初めてだった。
誰かを思って泣くのって、初めてだった。
人を思うって。人を好きになるって。こんなに苦しいんだ。それでいて、こんなに満たされる気分になるんだ。
お姉ちゃんと話しているときに感じたざわざわも。お姉ちゃんに拒絶された時のじくじくも。人の見た目に興味なんてなかったのに。お姉ちゃんの髪や目、指先はきれいだと思ったのも。優しい顔をしていると思ったのも。全部全部、好きだからだったのだ。
お姉ちゃんが好きだから、話せるのがうれしかった。
お姉ちゃんが好きだから、嫌われるのがつらかった。
「お母さん」
次の雨の日、お姉ちゃんに会いに行く。
鼻声で言ったら、お母さんは微笑んだ。そうしなさいって。
伝えたいことがあった。
会えるかどうかもわからない。もう遅いかもしれない。それでも行こうと思った。
大好きな人に会いたいと思うのは、何もおかしいことじゃないだろうから。
降り注ぐ雨音。うすく霧のかかった町。のっぺりとした雲。
七月にしては静かな雨。そのくせ、梅雨らしく肌にへばりつくシャツがうっとうしかった。梅雨明けはもう少し先だとニュースで言っていた。明けてほしくないのが正直な思いだった。
いつもだったら、スキップしそうなぐらいの足取りで歩んだだろう道。もう何度も通った道を、ゆっくりと、一歩一歩踏みしめるようにして歩く。
やることが決まっているからだろうか。好きを知ったからだろうか。
心は今までにないほど凪いでいた。雨音が耳にしみこんで、体の内側で響く。
保育園を通り過ぎる。美容院の角を曲がる。反対側の歩道を曲がり、公園を見る。果たしてそこに、彼の人はいた。一つしかないベンチに座った、見慣れた姿で、そこにいた。
「お姉ちゃん」
お姉ちゃんははじかれたように顔を上げた。驚いていた。どうして。口の動きでそう言ったのがわかった。あたしはベンチのそばには寄れなかった。お姉ちゃんとの間にはそれなりの距離が開いていた。
お姉ちゃんはこらえるみたいな表情をして、その色の薄い唇をかんだ。何か言おうと開かれかけた口。発されようとした言葉を遮るみたいにして、あたしは言った。
「大好き」
愛してる。
言えた。込み上げてくる思い。
伝えたいこと。ちゃんと伝えられた。
大好き。愛してる。ありがとう。
あたしが伝えたいのはこれだけだった。この三つに全部が詰まっていた。
はくり。お姉ちゃんが息をした。口を震わせて、不格好に。そんな姿でさえもきれいだった。いっそ死にたくなるほどに。
「あたしと、出会ってくれてありがとう」
出会った日のあたしはきっと、かわいげのかけらもない生意気な子供だった。人の優しさを疑い。大人とは損得勘定で動くものであると決めつける。そういうひねくれた子供だった。
けれど。あなたと時を過ごすようになってから。あたしは、あたし自身も気づかぬうちに変わっていった。
優しさを知った。待ち遠しさを知った。誰かとともに過ごす楽しさを知った。好きを知った。あたしは、あなたと出会ってようやく人間になれたのだ。
今のあたしはきっとどこまでも優しい顔をしているだろう。お母さんやお姉ちゃんが、あたしに向けていたような。
お姉ちゃんはあたしを見ていた。あたしもお姉ちゃんを見ていた。
ぽろりと、お姉ちゃんの瞳からしずくが零れ落ちる。雨粒じゃない。お姉ちゃんは泣いていた。静かに泣いていた。慌ててそばに寄ろうとしたあたしを、お姉ちゃんは制した。ふるふると首を横に振って。
「紫雨」
名前を呼ばれて、びくりと肩がはねた。二週間ちょっと。名前を呼ばれなかった期間はそのぐらい。長いといえば長いけれど。晴れの日が続いたときは、同じくらい会えないこともあった。それなのにどうしようもなく嬉しかった。泣きたくなるくらいだった。
なに。声が震えないよう気を付けて、返事をした。
お姉ちゃんは、あたしに何を言いたいのだろうか。
あたしに何かを言いたいと、伝えたいと。そう、思ってくれたのだろうか。
「私も、大好き」
声は小さかった。決して大きいなどとは言えなかった。けれど、雨音のような、静かに響いて胸に広がる声だった。
泣きたかった。あごを伝って地面に落ちたしずくに、泣いていたことに気づいた。
伝えたいだけというのは本当だった。返事なんてなくたってよかった。
けれど、ねぇ。
お姉ちゃんも、あたしを好きでいてくれたのか。
泣くほどに。伝えたくなるほどに。
傘を持つ手に力が入らなくなっていく。全身の力がうまく入らなくなる前に。あたしは走った。傘を後ろに放り投げて、思い切り、お姉ちゃんに抱き着いた。
何も言えなかった。ただそっと抱きしめかえしてくれた腕に、愛を思った。
お姉ちゃんの胸元に顔を押し付ける。止まらない涙がお姉ちゃんに良く似合う白いワンピースを濡らした。
お姉ちゃんは、あたしの本当のお姉ちゃんではない。血縁関係なんてない、言ってしまえば赤の他人。それでも、お姉ちゃんはあたしのお姉ちゃんであるわけで。
今気づいたことだけれど。お姉ちゃんの笑い方は、お母さんとよく似ていた。
あたしを愛してくれている人の、肉親の笑い方だった。
好きの感情が見せた錯覚だと。そう結論付けた笑顔は、錯覚などではなく。正真正銘、お姉ちゃんの浮かべた笑顔に他ならなかったのでないか。
あたしとお姉ちゃんがいつまで一緒にいられるかはわからない。わからなくても構わなかった。とりあえずは、今年祝ってもらえなかった誕生日。来年、盛大に祝ってもらおう。そして、あたしはやっぱりお姉ちゃんのことを知らなすぎるようなので。
ゆっくり、少しずつ。お姉ちゃんのことを知っていこう。
雨の日にしか会えないのはどうして、とか。
そういえばお仕事とか何してるの、とか。
お姉ちゃんが言いたくないって言うなら、それでいいと思う。けれど、言ってもいいなって思ってもらえる日が来たら。それはどれだけ素敵なことだろうか。
代わりと言っては何だけど。ついでにあたしのことも知ってもらおう。
まぁ、でも。ひとまずは。
大好きを伝えるために。ぎゅうっと腕の力を強くした。
雨空の下で 暁ゆら @lucisortus
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