短編小説 願いの確認係

@katakurayuuki

願いの確認係

あれは大昔の事だった。

 不二の山と呼ばれる火山のふもとで過ごしていた私はある日大きな地震と共に山が噴火し、村ごと生き埋めになった。

 死んだはずだった。

 だが、気づいた時には元居た村に似たような場所で目が覚めた。

 村の中央に行くと一人の仮面をかぶった人が集まった村の人たちに何か命令をしているのが見える。

 近寄って話を聞いてみようとしたらあちらから気づいてこっちに近寄ってきた。

 「やぁ、やっと目が覚めたようだね。さっそくで悪いけれど君に頼みたい仕事があるんだ。何、簡単な仕事だよ。」

 そういうと彼は一冊の本を手渡してきた。その本を開いて私に見せて来るとそこには面白い事が起きていた。

 一行ごとに誰かの願いが書かれていたのだ。

  日付。名前。状況等も書かれてあり、どんなことを願ったのか明確に書かれてあった。

しかし、その中で、たくさんある願いの中で光っている文とそうでない文がある。

 「気づいたようだね。この光る分に君はこの焼き印を押してもらいたいんだ。

 紙は燃えにくい素材だから大丈夫だよ。ただ、君にはあそこの小屋でその作業をしてもらうことになる。」

 彼が指さす所には小さな小屋が一つあった。そして目の前には池があるのが見えた。

 「あそこに池があるだろう。あそこは現世で願う瞬間の画像が見えるんだ。そして願いがかなったとお礼を言った時、この本の文章が光る仕組みになって言る。そして文が光ったら君は焼き印を押せばいいんだよ。一冊終わったら私に渡してくれ。新しい本を渡す。」

 そういえば大事なことを聞くのを忘れていた。

 「そういえば私は死んだのでしょうか?」

 仮面を付けたその人は、

 「勿論死んだ。火山の噴火に巻き込まれて今は見る影もない。もしこの仕事がいやだというなら別に強制はしない。ただ、君は役目がないから土くれになってしまうからそのことは覚えておいでね。」

 恐ろしいことを言う。

 「もし私が土くれになったら、私はどうなるのでしょうか?」

 「それはわからない。私は神ではないし仏でもない。ここが誰のために何のためにあるのかはわからないが、ここに来た人達に役目があるのを伝え、管理するのが私の仕事なだけだ。私もいつかは土くれになるかもしれないが、その時はまた誰かが私の後を継ぐのだろう」

 仮面から発せられるその言葉にどんな感情が載せられているのかはわからない。ただ、自分の仕事があるのなら取りあえずやってみようと思った。死ぬ前だって、自分は真面目に仕事をしていたはずだから。

 「わかりました。では仕事をしようと思います。」


 小屋にたどり着くとちょうど池が見える位置に机といすがあり、ここで仕事をするのだとあらかじめ決められているようだった。

 椅子に座り、池を見てみると確かに何かを願っている人たちが見える。

 その人たちが映るたびにノートに文字が現れていく。

 元気な子を産みたい。長生きしたい。金持ちになりたい。など簡単なものから長々しい物まで全部が書かれていた。

 しかし願いの文字が光ることはそうそうなかった。誰しも願いはするが、その願いがかなった後にお礼をするのはなかなかいないようだ。

 まぁそんなもんだろうと思いながら、願う人を見ながらたまに焼き印をする人を見ていた。

 しかし、池に映し出される願いを思う人々が映し出される人を見ているたびに思うことがあった。

 この世はひどすぎる。

 天災。戦争。病気。犯罪。

 そんなのばっかりだ 。

 確かに幸せな人は何かを願うことなんてないかもしれない。だから世界の負の面ばかり見せつけられるのはしょうがないかもしれない。

 でも、あんまりだ。こんなのあんまりだ。

 

 すっかり作業の合間に池に映し出される現実を見ては悲しくなるのでただ文字が光ったら焼き印を押す仕事に気を集中していた。

 そして本が終わったためにあの仮面をかぶった人に新しい本をもらいにイカなけねばならなくなった。


 「もし、本がいっぱいになったので、新しい本をもらえませんか?」

 「ああ君か。そうか本がいっぱいになったんだね。では新しい本を君に与えよう。では仕事に励みたまえ」

 私はすぐに戻らず、気になることを質問してみた。

 「なぜあそこの池で現実に願う人が映し出されるのでしょうか?私はなんだか、現実に起きてることを見たくなくなりました。世界はよい事よりも悲しい事のほうが多いです。」

 「なぜ池に映る人々を見なくちゃならないのか。それは君が願いを見届ける仕事だからだ。誰かが何かを願う時、それは誰かが見てほしいと思うだろう?まぁ、これは私の解釈だけれどね。」

 「池を見なくちゃだめですか?」

 「だめだ。それも仕事なのだ。嫌なら土くれになってもいい。それも君の自由だ。痛みはなさそうだったよ。」

 

 私は悩んだ。仕事に文句はない。ただやるせなさに押しつぶされそうだった。

 世界ではこんなに苦しんでいる人がいるのに私はそれに対して何もできることがない。このままでいいのだろうか?

 「この仕事に不満はありません。ですが一つだけ教えてください。私はどうすればいいのでしょうか?」

 仮面の男はこっちを見ている。表情は伺えないがじっと見ているその目からはこちらを見通すような力があった。でも私はこの質問が聞けないとこの仕事を続けられそうにもうなかったのだ。


 「君が池に映る現実を見て焼き印を押す。確かにそれだけの仕事だ。でも聞きたいのはそれだけじゃないだろう?ここは現世とはつながっていない。天国でも地獄でも何でもないように思える。そんな中で自由意志がある人がその仕事をする為にどうすればいいのか。私は仕事をするにあたって、池に映る現実を見ながら焼き印を押す時祈ることが大事だと私は思っているよ。」

 「祈るですか?」

 「そうだ。私たちは何も干渉できない。でも誰かがそう願ったことを見届けることが出来る。その時に祈るのだ。どうか願いが叶いますようにとね。

 私たちは無力だ。だが、願い人に私たちの祈りが加われば、その願いが叶うかもしれない。ようは心の持ちようだ。だが、それは大事なことだと思う。これは先輩からのアドバイスだ。役に立つといいがな。」


 そう聞いてから私は小屋に戻った。相変わらず。世界は目をそむけたくなるような事ばかり起きている。願いの文に焼き印をすることも少ない。でも誰かが願った時。私もその願いが叶うよう祈ることにした。

 少しでも誰かの願いが叶いますように。

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